J2-第42節 松本山雅FC 対 愛媛FC 2020.12.20(日)感想

01_スタメン

 J2リーグ最終戦。最後を迎えるためにこれまで尽力されたすべての方々に拍手と祝福を。
 松本山雅FCは前節、途中出場にてフォワードにはいった塚川孝輝選手がゴールをきめて引き分けにもちこんだという。その塚川選手が同じポジションでスタメンに名を連ねている。試合前には橋内優也選手と杉本太郎選手、そして藤田息吹選手ら3人が表彰されていた。橋内選手はJ2通算200試合、杉本選手はJ2通算100試合、藤田選手はJ通算200試合(愛媛では108試合)の出場を達成した。おめでとうございます。
 愛媛FCは9連戦めの最後でもある。引退発表している先発の西岡大輝選手は現役ラストゲーム。3バックの中央にはいり、右サイドバックには山﨑浩介選手。茂木力也選手がウイングバックを務めた。開幕戦では茂木選手のゴールで先制したものの、今季からとりくむ高い位置でのプレッシングがうまくはまらず、そのけっか生まれるスペースをつかわれて1―2の逆転負けとなってしまったが、はたして。
 J2第42節、松本山雅FC対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 松本のフォーメーションは、佐藤和弘選手をアンカーに据える[3―1―4―2]。ボールをもたないときは[5―3―2]。中盤の3人は佐藤選手とシャドーの杉本選手、久保田和音選手である。この3人と2トップの5人で愛媛のビルドアップを迎え撃つ。
 2トップはどちらかが愛媛のボランチ川村拓夢選手をみることになっていたので、縦にならぶ場面がよくみられた。
 松本の高い位置でのプレッシングは、愛媛の左右のセンターバックにボールがでたところからはじまる。山﨑選手にボールがでたときは、塚川選手が川村選手のマークをはずしてアプローチへいっていた。一方で前野貴徳選手にパスがでたときは、右シャドーの久保田選手が飛びだしてきて距離をつめるようにしていた。試合がすすむにつれて、杉本選手も山﨑選手へのアプローチをおこなうようにもなってもいった。2トップによる規制で逆サイドのセンターバックまで展開できないようにし、同サイドで愛媛のビルドアップを袋小路にしようというのが狙いのようだった。

02_松本の高い位置でのプレッシング

 ただ、愛媛に前進するスペースがないわけではない。そのひとつが松本の1―2列め。先のとおり、2トップのいずれかが川村選手のことをみはするけれど、サイドにボールがでるとマークをはずすようになる。もちろんパスコースをけすことが前提でマークをはずすのだが、愛媛はほかの選手たちを中継することで、川村選手を1―2列めで前をむいてプレーさせることがよくできていた。立ち上がりは両チームともロングボールの打ちあいになったため、松本が愛媛陣内でプレーしている回数がおおいようにみえたものの、愛媛もちゃんと松本の高い位置でのプレッシングを回避していた。しかし、回避したあと、攻撃のスイッチがはいったあとのプレーでミスが起きることがおおく、なかなかラスト30メートルに進入することはできていなかった。

 松本は2トップめがけたロングボールを入れ、中盤の選手たちにこぼれ球を前向きでひろわせようとしていた。そして前向きにボールをもつ選手ができたら、愛媛がブロックを敷くまえにシュートまでもちこもうとしていた。ペナルティーエリア外からもかなり積極的にシュートを狙っていた。
 シュートまでいけない場合は、愛媛陣内でボールを保持し、主に左サイドからのコンビネーションで打開しようとしていた。杉本選手と高橋諒選手、それからアンカーの佐藤選手の3人でサイドを突破するときもあれば、一気に右サイドへ展開して鈴木雄斗選手に1対1の状況をあたえるときもあった。鈴木選手はクロスでチャンスをつくっていた。松本の2トップはサイドへ流れないため、鈴木選手の良質なクロスにあわせる選手はじゅうぶん中央にのこっていて脅威だった。
 松本はほかにもコーナーキックやフリーキックでもチャンスをつくっていた。鈴木選手はフリーキックで2度も直接ゴールを狙っていた。すばらしい無回転シュートだった。いずれもGK岡本昌弘選手が好守をみせて防いだ。
 ロングボール一発で陣地回復できてしまう松本だったが、30分をすぎたころから、なかなか前線にボールをつなげなくなってくる。愛媛はプレッシングが機能しはじめていた。狙った形でロングボールを蹴らせない場面をつくりだし、うまくこぼれ球を回収できるようになっていった。愛媛は、相手陣内でのプレー頻度をたかめる松本の戦い方に耐えかつ掻い潜り、自分たちがボールをもつ時間帯を着実にふやしていった。ついには相手の意に沿わないプレーまでせさせるようになった。しかし前半ロスタイムに松本が先制する。
 44分。自陣で佐藤選手こぼれ球をひろうと、猛然とよせてくる川村選手をおしのけてドリブルで前進。大外には高橋選手、斜め前には塚川選手、そして前線には杉本選手という状況になった。高橋選手がサイドにいることで、茂木選手は佐藤選手へよせにいけず、森谷選手も塚川選手がいるためとめにいけない。ということで、佐藤選手をだれもチェックしにいきにくい状況になっていた。さらにこのとき、杉本選手は山﨑選手の背中にまわりこんで、彼の視界からいちどきえている。佐藤選手がニアゾーンへ流しこむようなスルーパスをだすと、杉本選手は山﨑選手の背後から抜けだしペナルティーエリア内へ。GK岡本選手が飛びだしていってとめようとするも、倒したとしてPKの判定が下された。45+1分、杉本選手がみずからきめた。

03_PK獲得シーン


 ハーフタイムでの交代は両チームともなかったが、代わりにシステムをいじってきたようだった。松本のほうは、2トップが阪野豊史選手と杉本選手にかわった。塚川選手が右のシャドーにうつり、久保田選手が左のシャドーにはいった。ボールを奪い切れる塚川選手に右サイド(愛媛左サイド)をまかせることで、前野選手からはじまる愛媛のビルドアップを封じようとしたのかもしれないし、杉本選手がより前めでプレーすることでカウンターを成立しやすくさせたかったのかもしれない。
 愛媛のほうの変化は、ある意味4バック化。ビルドアップのとき、森谷賢太郎選手が右サイドバックのような位置へ下がってくるようになった。前半は右センターバックの山﨑選手がひらくようにしていたが、後半からは山﨑選手と西岡大輝選手が2バックのように中央でプレーしていた。前野選手がすこし高い位置へでていくので、みようによっては4バックということだ。

 後半立ち上がり15分がすぎると、じょじょに松本がボールをもつ機会をふやしていった。60分と61分にはショートカウンターから決定機をつくりだしている。また、ボールを愛媛陣内でもつようになってくると、杉本選手の位置はトップ下のイメージなのではないかという気配もしてくる。[3―1―4―1―1]。杉本選手が2ライン間で縦パスを引きだす機会がふえていったので、そういう印象をいだいた。
 それでも愛媛は相手陣内まで運べられれば厚みのある攻撃をみせていた。だが、70分台にはいると、さすがに疲れがみえはじめてきた。とくに愛媛は9連戦めのアウェーである。
 76分、松本はコーナーキックをニアで阪野選手がそらすと、ゴール前を横切ってボールはファーサイドへ。そこにつめていた杉本選手がおしこみ、追加点をきめた。ニアでそらされ、ファーで決められるというのは、ホーム最終戦となった前節アビスパ福岡戦でもみられた失点だった。
 2―0となってしまった愛媛。しかしその後もひたむきにチャンスをつくりつづけた。80分には左サイドを長沼選手がロングボールで抜けだすと、中央へクロス。走りこんできた森谷選手がシュートを狙うもうまくミートしなかった。83分には山瀬功治選手(57分に横谷繁選手に代わって出場)がゴール前で森谷選手からのロブパスを落とすと、丹羽詩温選手(57分に吉田眞紀人選手に代わって出場)がひろう。しかしシュートまでは至らなかった。85分には藤本佳希選手(76分に有田光希選手に代わって出場)が最終ラインを抜けだしてペナルティーエリア内へ。シュートを打つも防がれてしまった。86分には田中裕人選手(82分に川村選手に代わって出場)のクロスからファーで長沼選手があわせかけた。
 この時間帯、松本はカウンターを打つ機会がかなりへっていたが、高い位置で奪いにいけると判断すれば猛然とプレッシングをかけにいける運動量をしめしていた。そして89分には、ロングカウンターを放って決定機までつくっている。
 そうした両チームとも好守に躍動したエキサイティングな試合は、2―0のまま終了した。

 最終節をホームでの勝利にて終えた松本山雅FC。最終順位を13位とした。試合終了間際には村越凱光選手と山田真夏斗選手の高校生ルーキーが出場し、来季へのつながりもみせた。
 残念ながら最終節に勝利できなかった愛媛FC。最終順位は21位となった。相手の出方に応じた対応、安定したビルドアップ、攻守両面で相手陣内でのプレーをふやす――そういった今季の積み重ねをみることのできる試合だっただけに、得点を奪えなかったこと、勝利で終えられなかったことは残念でならない。
 今季の愛媛をひと言でいえば、決定機が決定機の顔をしていなかっただろうか。相手を動かしてスペースをつくってひたむきに攻めていくため、シュートが打たれるまでその流れが決定機であったとわかりにくい。なんかいまいい感じだった、というふうによくなったといえばわかりいいか。
 なので、最後きめるところだけが課題としてのこったといえそうだし、なんならあとはそこまでの場所に辿り着いたともいえそうだ。だからこそ、来季川井健太監督の率いるチームをみられないのはさびしい。
 さて、今季の試合の感想はこの試合で終わりときめたので、わりと安心している。全試合ふりかえるなんて嘘みたいなことをモチベーションにして書きつづけてきたが、24節のレノファ山口FC戦を書けなかったことでだいぶタガがはずれてしまい、けっきょく半分とすこしの試合しか書けなかったのには失笑する。たいしたことを書いているわけでもないのにね。
 じゃあ来季はちゃんと書くのかといわれればわからない。とっくに僕が書けることは書き尽くしてしまった気がする。というか、今年はずっとその感覚のなかで書いてきた。来年またこの感覚とつきあうのはちょっと気合いがいるなぁ。ということでまったく書かなくなるかもしれないし、月に一回くらいは書くかもしれない。もしくはなんだかんだで毎試合書くかもしれない。まあ、予言なんてするもんじゃーないよ。
 あと、そうだ。図に関して、2020年末でつかえなくなる(?)フットボールタクティクスにはたいへんお世話になった。お世話になりながらも、わかりやすい図を一向につくれていないし、それを図にする必要ある? という場面ばかりつくっている気もするが、ともかく、お世話になりました。
 さて、これで気楽になったので、夏以降、感想を書かなければの念によってほとんど読めていなかった、ほかの方々が書かれたサッカーの文章を読めるのがたのしみだ。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。よいお年を!

 試合結果
 松本山雅FC 2―0 愛媛FC @サンプロ アルウィン

 得点者
  松本:杉本太郎、45+1分、76分



 ここからはおまけです。届いているとはおもわないし、借り物の言葉ばかりではあるけれど、最後にメッセージのようなものを。

 有田光希選手。1年と4年間、ありがとうございました。中断期間のあいだ、ふと過去の試合のハイライトを見返していると、有田選手があの試合もこの試合もというふうにゴールをきめる場面がいくつも流れてきました。それも、「それをきめるのか!」とおどろくゴールばかり。リーグ再開後、有田選手は存分にゴール前での勝負強さを発揮してくれていました。高い身体能力を活かしたアクロバティックなプレーにもワクワクしました。新天地での活躍を期待しています。

 シシーニョ選手。プレーする姿をみられたのは33節のギラヴァンツ北九州戦での10数分間のみとなってしまいましたが、その貴重な時間のなかで、パスや位置どりをはじめとして、随所に洗練されたプレーをみせていただきました。あきらかにプレーの質が違う。来季愛媛でそのプレーがみられないのはほんとうに惜しいことです。新天地でも強くてうつくしいプレーをみせてください。

 竹嶋裕二選手。竹嶋選手といえば、昨季の14節、アウェーでのアルビレックス新潟戦でみせたロングスローですが、積極的に打ちこむロングパスも魅力的でした。竹嶋選手がスタメンで出場したころ、愛媛はフィールド全体をつかったプレーがなかなかできないでいました。そうした手詰まりをおぼえるような状態を、竹嶋選手の局面をかえるロングフィードが吹っ飛ばしてくれました。フィールドを広く深くつかえるようにしてくれた経験は、その後の愛媛のボール保持に安定感をもたらしてくれたと信じています。新天地での本領発揮を待っています。

 清川流石選手。初スタメンを飾った3節の山口戦ではおどろかされました。空中戦でヘニキ選手に勝つなんて! 足もとの技術もあるうえ、シャドーやサイドハーフで起用されたときは、長い距離を相手サイドバックまでスプリントしていく献身性までみせてくれる。その姿は頼もしかったです。右利きだと聞いていたのに、左足でばんばんクロスを入れていくのにも感服しました。マジかよって。新天地で活躍し、下川陽太選手を超える選手になるのを期待しています。

 西岡大輝選手。西岡大輝選手のビルドアップの巧みさに気づいたのは、ついここ2、3年でのことでした。それまではファイターというイメージでみていたのですが、ようやくこの頃、ロングパスをどんどんとおしたり、味方にパスコースをつくるための動きを繰り返したりしているのがわかってきました。気づけていなかった期間が惜しくてなりません。強くてうまい選手が最終ラインにいてくれる安心感ときたら。まだまだ愛媛でそのプレーをみられるものだとおもっていたので、引退にはおどろくばかりでした。愛媛での7年間、ありがとうございました。そして10年間の現役生活、おつかれさまでした。

 川井健太監督。
 バイバイとかサンキューとかいうのは簡単なのですが、川井監督は、ありがとうじゃ足りないものをこの2年半でみせてくれました。
 就任当初はモチベーターというイメージで、選手たちの本領を発揮させてくれる監督だと漠然とおもっていました。ところが、いつからか気づけばピッチ上でおもしろいことが起こっていると気がつく。頭がよくないので、なにが起こっているのかはよくわからないけれど、サッカーの本質を問うような試合がおこなわれているのは感じとれる。知らないものを知ろうとしてその正体を探っていくと、サッカーがわからなくなるときもある。しかしその「わからない」は決して暗々とした場所で迷子になったようなものではなく、むしろ数えきれない本の山を目の当たりにしたようなワクワク感にほかなりませんでした。サッカーはわからない。そしてそれ故におもしろい。
 川井監督と共にあった2年半は、愛媛FCを未来で照らしてくれると信じています。願わくは、愛媛を去ることが川井監督にとっての旅立ちでありますように。再会を祈っています。
 強く手を振って、サヨナラを。またね。