J2-第2節 愛媛FC対徳島ヴォルティス 2020.06.27(土)感想

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 毎度おなじみ四国ダービー。なんの因果か必然か、再開後初戦で徳島ヴォルティスをホーム、ニンジニアスタジアムに迎えることとあいなる。無人のスタンドにみちるは空白か熱情か。ファン・サポーターがとどける思いはまさに全身全霊ともなろう。
 J2第2節、愛媛FC対徳島ヴォルティスの試合をざっくりとふりかえっていく。

 愛媛FCは4バックでのぞんだ。前野貴徳選手がひさしぶりに本職の左サイドバックで出場。2センターバックはそれぞれ大宮アルディージャユースと浦和レッズユース出身である山﨑浩介選手と茂木力也選手。右サイドバックは新加入の西岡大志選手がつとめる。中盤は山瀬功治選手と田中裕人選手のドイスボランチのようにも、田中選手のワンアンカーのようにもみえた。森谷賢太郎選手はなるべく前め。前線トップには横谷繁選手がはいってゼロトップの雰囲気がただよう。ウイングは右に長沼洋一選手、左に藤本佳希選手と1対1でしかけることができる選手たちだった。
 徳島ヴォルティスは3バック。東京ヴェルディ戦で先発したドゥシャン選手と福岡将太選手は怪我との情報。代わりに内田航平選手とレフティールーキー安部崇士選手がならぶ。3バックだがブロックを敷くときは[4-4-2]になるのが徳島。シャドーの西谷和希選手が垣田裕暉選手と2トップを組み、右サイドの鈴木徳真選手と岸本武流選手がそれぞれ1列ずつ下がる。

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 開幕の松本山雅FC戦で愛媛は昨季と異なる守備の姿勢をみせていた。プレッシングをはじめる位置を高くし、相手陣内でのボール奪取またはボールの即時奪還を目指していたのだ。よりアグレッシブにいこうという意志。ただ、前からえいやと奪いにいくと、ボランチふたりの脇に広い空間ができてしまう。松本戦ではそこをサイドハーフの選手につかわれて涙ちょちょぎれになっていた。だからもし愛媛が前からボールを奪いにいく戦い方をえらぶのなら、4バックにして前線の人数をふやしたほうがよさそうだった。
 さて徳島戦では4バックだ。守備のときは森谷選手と横谷選手が2トップの[4-4-2]であり、ウイングの長沼選手と藤本選手はサイドハーフにかわる。たいして徳島は3バックで攻めてくる。2対3の数的不利である。数が合わないんである。
 愛媛は3バックにつっかけていくよりも、しっかりとブロックをつくって迎え撃つほうを選択したようだった。とくに徳島ドイスボランチの岩尾憲選手と梶川諒太選手を2トップと2列めのあいだでプレーさせまいとしていた。両者を愛媛ブロックの手前まで下げさせれば、徳島のボールは外をまわることになるだろう。サイドへ追いこんでボールを奪い、その勢いのままカウンターを打てればこちらのもの。しかし、外へひらくセンターバックをみにいこうとサイドハーフが動いたところであっさり縦パスを入れられてしまう場面がみられた。そうなると、サイドへ流れる杉森孝起選手をマークしに西岡大志選手がでていかなければならないので、その背後を突かれてしまう場面もみられた。さらにつらいのは、そうなると山﨑選手も中央から外へひきずりだされてしまうので、中央での高さがたりなくなってしまう。
 徳島の先制点はそうしたサイド突破でえたコーナーキックからだった。

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 徳島の追加点もコーナーキックからだった。そのコーナーをえたのもサイドからの攻撃。ハーフウェイライン付近から大外で空くウイングバックへロングサイドチェンジのパスをだされてしまい、パスを受けた岸本選手をみるために前野選手がでていくことになった。その背後へ走りこんだ鈴木選手がボックス内でクロスを送ってこれがコーナーに。そして昨季ツエーゲン金沢との対戦でもきめられている垣田選手に空中戦で本領発揮させてしまった。
 さて、0-2となってしまった愛媛。失点後のリスタートからフォーメーションを[3-4-2-1]にする。馴れ親しんだかたちにもどすとともに、ミラーゲームにしてマークをはっきりさせた。ここから愛媛は平常運転になったようにみえる。またブロックを敷くときも[5-4-1]のかたちから、相手のバックパスにあわせてシャドーの選手が前にでる[5-2-3]にして逆サイドへの展開を奪って苦しませようとしていた。これがうまくいき、徳島はキーパーまでもどしてロングボールを蹴る場面がでてきた。こぼれ球をひろわれてしまったらかなしいが、愛媛は回収することができていた。とはいえ、垣田選手がサイドへ流れてロングボールを受ける流れは脅威だった。
 余談だが見返してみると、はたまたビハインドという状況を意識しないでみていると、3バック後の愛媛はじょじょによくなっているようにみえた。先述通り、守備では相手に蹴らせることができていたし、攻撃ではすくなからず裏を狙う動きが出はじめていた。徳島がプレッシングをはじめる位置を下げたこともあるが、愛媛は相手陣内でプレーする時間をふやすこともできている。この時間での試行錯誤が、もしかしたら後半に活かされたのかもしれない。そういうことはあるのだろうか? あったらいいな。
 そんな前半は、徳島が終了間際ラストワンプレーでえたコーナーキックからオウンゴールで3点めをとって終了する。

 仕切り直しの後半。ハーフタイムで愛媛は3人の選手交代をおこなう。山﨑選手に代わって西岡大輝選手、田中選手に代わって川村拓夢選手、山瀬選手に代わって丹羽詩温選手が出場する。川井健太監督は、準備してきたことをしっかりやりなさいともとれるコメントで選手たちを送りだしている。
 がんがんいこうぜ愛媛FC。右サイドに人をあつめてキックオフ。ロングボールで右サイドを狙い、徳島陣内でプレーするんだ、前へいくんだという意志をみせる。
 愛媛は後半から球際をつくれるようになっていた。ワンタッチでパスをつなげる徳島の選手たちをおさえるには、パスがわたってからではなく、パスを受けるときにはすでに身体をよせている必要があった。マークがはっきりしたからかもしれない。
 前線の選手たちの裏へ抜ける動きも活発になっていった。裏抜けを狙うことで徳島の陣形をゆさぶり、ライン間や大外に空間をつくったりフリーの選手をつくったりしていた。たとえば森谷選手が徳島のサイドバックとセンターバックのあいだへ走りこむと、サイドバックは後退を余儀なくされる。すると長沼選手がタッチライン際でフリーになれるというように。
 プレッシングをはじめる位置を下げたからといって、徳島は自陣深くにひき下がったわけではない。ハーフウェイラインあたりに2トップが位置する高さでブロックを敷いてショートカウンターを打てるようにしていた。だが、愛媛の前線の動きが活発になったことでディフェンスラインを下げさせられ、ライン間が間延びするようになっていった。
 50分に愛媛は徳島のペナルティーエリア手前、ゴール正面の位置でフリーキックを獲得する。前野選手のシュートは相手にあたるも、そのこぼれ球を横谷選手がおしこんで1点を返す。
 57分には前野選手と森谷選手のパス交換から長沼選手の裏抜けをひきだす。抜けだした長沼選手が岸本選手に倒されてペナルティキックを獲得した。長沼選手は前半にも裏抜けから徳島のボックス内へ進入する場面をつくっていた。ところがこのペナルティーキックをGK上福元直人選手がビッグセーブ。なおかつこぼれ球を回収した徳島がカウンターを打ち、前線に残っていた垣田選手にボールがわたる。だが西岡大輝選手が身体をはって阻止した。
 59分にリカルド・ロドリゲス監督が動く。鈴木選手に代わって渡井理己選手が出場する。ペナルティーキックをとめ、選手交代もおこない、流れを自分たちの手にひきもどしはじめる徳島。サイド突破から決定機をつくったり、ボールを保持する時間をふやしたりする。
 だが愛媛は丹羽選手と藤本選手を前線においた[5-3-2]でのブロック、そしてバックパスにあわせたプレッシングで徳島をおしこんでボールを奪っていった。試合の数日前、愛媛新聞ONLINEで、愛媛FCが守備の確認をしていたという記事があった。どうやらプレッシングのかけ方や、それをはずされたときにどうするかを確認したようだった。きっと、前半からみられている効果的なプレッシングは偶然ではないのだろう。川井監督の、守備は前からアグレッシブにいこうというコメントは、気持ちの面だけを鼓舞したわけではないのだろう。ところで川村選手が徳島の縦パスを防ぐ場面がなんどかあり、前へ突き進むチームにバランスをもたらしていた。
 67分。飲水タイムのタイミングで愛媛は選手交代をおこなう。藤本選手に代わって有田光希選手が出場。松本戦では前線で孤立し苦しんでいたが、おしこむことができている時間帯なので、ゴール前での勝負に専念しやすかろう。

 徳島はボールを持ってもなかなか自陣からつなげなくなっていく。すると前線の選手たちが守備にもどってくるまえに攻めこまれてしまう状況がでてくる。なので、70分に中央をつかわれてピンチを迎えてからはブロックを[5-4-1]に変更している。
 愛媛は相手を下げさせたときに、やはり裏へ抜ける動きでボールホルダーにはよゆうを、徳島の選手たちには困惑をあたえていた。パスをだした選手がそのまま前へ移動すれば徳島の選手もついていく、もしくはその場にとどまらなければならなくなる。するとボールホルダーに寄せる人がいなくなる。このしくみで愛媛は徳島陣内で味方をうまくフリーにしていた。さらに、茂木選手が高い位置へでていくことがおおくなって攻撃に厚みがでた。徳島の左サイドは丹羽選手や森谷選手だけでなく茂木選手にも対応せざるをえない状況になってしまい、てんやわんやだっただろう。

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 73分。茂木選手の動きでフリーになった横谷選手がエリア内へクロスを送ると、丹羽選手が頭であわせる。ゴールの枠をとらえたシュートはしかし、GK上福元選手が指先ではじきだした。ただこのプレーでGK上福元選手がポストに激突。出血する怪我を負った。出血だけでなく脳震盪の可能性もあるためこわかった。それでも止血を終えるとプレーへ復帰した。治療後にみせた頬笑みにはふるえた。
 だれもが絶句するプレーと雄姿をまえにしたむずかしい状況でしかし、愛媛は直後のコーナーキックから追加点を奪った。森谷選手からのクロスを、ニアへ飛びこんだ有田選手がヘッドでそらしてきめた。やはり有田選手はゴール前で勝負できるとつよい。
 失点直後、徳島は準備していた交代をおこなう。西谷選手に代わって榎本大輝選手が、垣田選手に代わって佐藤晃大選手が出場する。徳島も代わったふたりをトップにした[5-3-2]で前線からふたたび制限をかけていこうとする。しかし愛媛はライン間をつかってボールを前進させ、相手陣内へはいれば前線のランニングで翻弄しゴールへせまっていく。そして、やはり茂木選手も参加した右サイドからの攻撃でえたコーナーキックから西岡大輝選手が同点弾を決める。
 同点に追いついた愛媛。しかし攻撃では的確なパスとクロスを供給し、ボランチにはいってからは身体をはってピンチをつぶしていた横谷選手が足を負傷。怪我なのか攣ったのかはわからないがアクシデントでの交代となった。代わりに出場するのは帰ってきたハードプレッシャー渡邊一仁選手。かつては中盤のつぶし屋としてファウルをおそれない守備をみせていた渡邊一仁選手だったが、この試合では中盤で時間をつくるプレーや下がりすぎないで後方の選手に余裕をあたえる位置どり、さらには2ライン間を突く縦パスなども披露していた。小生、感激。
 ロスタイムは8分。耐える時間のつづいていた徳島が、90+4分に愛媛ゴールを襲う。あまりつなげられなかったキーパーからのロングパスをここでとおし、愛媛ペナルティエリア前で4対3の状況をつくった。そして渡井選手からのパスを受けた榎本選手がエリア内でシュートを放つ。が、GK岡本昌弘選手がわずかにふれてサイドネットへそらした。前半からなんどとなく好守をみせていたGK岡本選手がここでもチームを救うセーブをきめてくれた。
 時間は90+6分。最後まで倦まずプレッシングをつづける丹羽選手により、徳島はキーパーまでボールを下げる。しっかりと丹羽選手の動きに連動した川村選手がキーパーからのパスをカットしてエリア内へ進入。シュートはGK上福元選手に防がれるも、こぼれ球を丹羽選手が身体を投げだして西岡大志選手へのこす。西岡大志選手がはなったシュートは地を這い、立ちはだかる徳島の選手たちのわずかに横をぬけていってゴールマウスへ流れこんだ。
 その後ラスト2分、愛媛は徳島の猛攻を守り切り、再開後初戦の四国ダービーを4-3の大逆転で制した。

 昨季から試合状況にあわせてシステム変更ができるようになった愛媛FC。満を持して4バックスタートとなったが、残念ながら機能したとはいいがたかった。とはいえ相手がボール保持にたけた徳島であったことを考えればそんなものなのかもしれない。その徳島相手にビルドアップを困らせた場面もあったのだし。試合中の3バックから4バックへの変更は造作なくできるのだから、併用できるようになってほしい。問題はサイドアタッカーの成長か?
 今季こそはJ1昇格が合言葉であろう徳島ヴォルティス。チームの中心選手が抜けてもアジリティーのある西谷選手や杉森選手、さらには浜下瑛選手などを獲得してより縦への勢いがましているような。そのうえ垣田選手が前線にいることで、ビルドアップで相手を自陣にひきつけてからのロングパス一閃という武器までえている。いわば、どんなフットボールだってできてしまいそうなチームだった。実況の古谷崇洋さんが最後におっしゃっていたように、GK上福元選手が次節も元気にプレーできるのを願っています。杞憂でありますように。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

試合結果
 愛媛FC 4-3 徳島ヴォルティス @ニンジニアスタジアム

 得点者
  愛媛:横谷繁、52分 有田光希、78分
     西岡大輝、83分 西岡大志、90+6分
  徳島:岩尾憲、10分 垣田裕暉、16分 オウンゴール、45+3分