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オミクロンインデックスの重回帰分析

前回$${^{1)}}$$はオミクロンインデックスとワクチン接種率との相関関係について述べましたが、前に述べたように相関関係には交絡因子が隠れている可能性があり$${^{2)}}$$、ワイラー氏はその1つとして人口密度を組み込んでいました$${^{3)}}$$。

このように一つの目的変数と複数の説明変数との相関関係を分析する手法を重回帰分析といいます。

感染率はワクチン接種率と人口密度に影響をうけ、3つの変数を座標軸とする3次元空間に分布する個々のデータに対する多重相関関係を求める必要があります。線形近似式$${z=ay+bx}$$ ($${x}$$: 人口密度、$${y}$$:接種率、$${z}$$: 感染率)は平面になります (図1)。

図1


すると2次元の単回帰解析で求めた相関係数(図1A)と3次元の重回帰解析で求めた個々の説明変数の相関係数(図1B)は異なる値をとるようになります。

ただし個々の変数のそのままの値で相関関係を求めると係数はその単位に依存することになります。例えば、接種率を%で表した場合の相関係数は比率で表した時の100倍の値を示すことになります。

ですから、複数の説明変数(接種率と人口密度)の相関係数を比べてその目的変数(感染率)への貢献度を評価するためには単位を標準化する必要があります。図1ではそれぞれの変数のデータの平均値と標準偏差を計算し、($${x}$$-平均値)/標準偏差を計算してプロットしてあります。

この操作により個々のデータは正規分布確率におきかわり、説明変数の係数を比べることにより、目的変数への貢献度を比較することができます。

このようにしてオミクロンインデックスに対する人口密度とワクチン接種率、オミクロンパンデミックが始まる2021/12/1前までの感染率、死亡率、致死率の影響を重回帰解析で評価してみました。

これらの説明変数は風俗習慣、年齢分布、医療衛生環境、経済状態、などSIRモデルの定数$${k^{4)}}$$に反映される地域的特性を包含しているはずです。これらの説明変数の重回帰分析により、何がオミクロンインデックスの上昇リスクに貢献しているか定量的に知ることが目的です。

目的変数は感染率オミクロンインデックス($${iOI}$$)、死亡率オミクロンインデックス($${mOI}$$)、致死率オミクロンインデックス($${fOI}$$)の3つで、これに対する5つの説明変数の影響を重回帰分析することになります。

表1に結果を示します。最初の6列は前回$${^{1)}}$$示した世界157カ国のそれぞれの国についての相関関係を地域別に標準化した変数について重回帰分析したものです。

画像2


全ての国を解析すると$${iOI}$$と有意な重相関 ($${R=0.2964}$$)が認められますが、地域別に見ると中東とヨーロッパしか有意差は得られません。ヨーロッパはワクチン接種率だけが、中東では感染率のみ有意な順相関を示します。

一番右の列は日本の47都道府県のデータの重回帰です。$${iOI}$$は有意な相関($${R=0.5626}$$)を示しますが、ヨーロッパや中東と異なり、接種率や感染率は逆相関を示します。つまり、接種率と感染率の高さは有意に$${iOI}$$を下げています。

$${mOI}$$と$${fOI}$$については世界では有意な重相関がありません。あるのはヨーロッパ、アメリカおよび日本でした。アメリカやヨーロッパでは致死率は順相関をしているのに対し日本では逆相関を示します。

こうしてみると日本でのオミクロン波の感染拡大は世界のものとは性質を異にしているように見えます。ヨーロッパではワクチンはオミクロンの増幅を助長しており、接種率の増加がオミクロンのパンデミックをおし進めているように見えます。これはデンマークの報告$${^{5)}}$$と一致します。

日本では$${iOI}$$と接種率は逆相関しています。厚労省のデータではワクチンよるオミクロンの抑制率は76%を維持しているようです$${^{6)}}$$。

「もともと感染率が低い地域ではオミクロンのインパクトが大きく$${iOI}$$を上げるが、ワクチン接種はオミクロンを抑制し$${iOI}$$を下げる。オミクロン自体は弱毒化しているので$${fOI}$$は下がる」ということでしょうか?日本では$${iOI}$$の平均値は世界の2倍にもなりますが、$${fOI}$$は30%しかありません。

データの解釈はいろいろありますが、専門家曰く「重回帰分析を使った地域相関研究は様々な仮説が引き出せるが、因果関係の証明にまでは遠い」そうです。

研究者の煮え切れない態度に一般の人はいらつくかもしれませんが、事実は事実として受け取って断定的結論を出すことには慎重なのが誠意ある研究者の態度とも言えます。

$${^{1)}}$$https://note.com/mbi/n/nbbc2af25e0e5

$${^{2)}}$$https://note.com/mbi/n/n81c495f94cf1

$${^{3)}}$$https://popularrationalism.substack.com/p/in-the-united-states-vaccination

$${^{4)}}$$https://note.com/mbi/n/n39010e7cb503

$${^{5)}}$$https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.12.20.21267966v3.full

$${^{6)}}$$https://twitter.com/mbi92710920/status/1491651450468188161