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普通の人のための感染症モデル

感染症の解析をするためにはモデルを考えてその上でデータを見て行く必要があります。

数式がでてくると普通の人はそれだけで拒否反応を示します。この拒否反応を利用して普通の人が自分たちの意見に身を任せるように仕向けるのは詐欺師の常套手段ですから気をつけなければなりません。

感染症の基本的な数理モデルにSIRモデルがあります。8割おじさんと言われた西浦教授が紹介していますが$${^{1)}}$$、実はそれほど難しい式ではありません。このモデルは感受性者$${S}$$、感染者$${I}$$、回復者$${R}$$、の関係を次の3つの簡単な連立微分方程式で表現したものです。$${t}$$は時間で単位は日です。

(1) $${dS/dt=-kSI}$$($${k}$$は比例定数)

感染は感受性者$${S}$$が感染者$${I}$$に接触することにより成立します。ある集団の一日の感染者数はその時点での感染者数と感受性者数に応じて増加します。感受性者は感染者が増えただけ減ります。この式は一日の感染者の増加、すなわち感受性者数の減少、はその時点の感染者と感受性者の数に比例することを表現しています。$${k}$$は比例定数です。

(2) $${dR/dt=I/T}$$

感染者はいずれ治ります。あるいは不幸にして亡くなっても感染者ではなくなります。両者をひっくるめて回復者$${R}$$とします。感染期間を$${T}$$日とするとそのときの感染者数$${I}$$は$${T}$$日後には回復するわけですから、一日当たりの回復者$${dR/dt}$$は$${I/T}$$の速度で増加します。これを表現したものがこの式です。

(3) $${dI/dt=kSI-I/T}$$

感染者の増加$${dI/dt}$$は新たな感染者の増加分すなわち感受性者の減少分$${-dS/dt}$$から回復者の増加分$${dR/dt}$$をひいた数になります。ということで$${dI/dt=-dS/dt-dR/dt=kSI-I/T}$$となります。

次に比例定数$${k}$$について少し考えてみましょう。

感染者一人が感受性者一人に出会ったときに感受性者に感染させる確率を$${r}$$とします。$${r}$$を決める因子の一つはウィルスそのものの生物学的性質でしょう。SARS-CoV-2ではスパイク蛋白質が細胞のACE-2に結合するところから感染が始まりますからその親和性は$${r}$$を決める重要な因子となるでしょう。

またその集団での接触特性も重要な因子となります。欧米のように挨拶するときに握手や抱擁やキスをする習慣があると感染確率が大きくなります。逆に日本人のようにお辞儀程度しかしない民族では小さくなるでしょう。あるいはマスクをしたり手を洗ったりする行為は感染確率を下げる筈です。日本人特有のファクターXがあるとするとこのような生活習慣かもしれません。

$${k}$$を決めるもう一つの因子は一日の接触回数です。

感染者と感受性者が一日に$${n}$$回接触した時にまだ移されていない確率は$${(1-r)^n}$$となり感染している確率は$${1-(1-r) ^n}$$となります。その集団の人口が$${P}$$人ならば感染者の割合は$${I/P}$$ですから、一日の接触人数を$${m}$$人とすれば感染者と出会う人数は$${n=mI/P}$$、感受性者一人が感染者から移される確率は$${1-(1-r)^{mI/P}}$$です。

感受性者は$${S}$$人いますから人口$${P}$$の集団の中で感染者になることで減る感受性者の人数は一日で$${S[1-(1-r)^{mI/P}]}$$、感受性者の増加人数はマイナスをつけて$${dS/dt=-S[1-(1-r)^{mI/P}]}$$ということになります。ということは$${dS/dt}$$と$${I}$$は厳密には比例関係にないことになります。

しかし、もし$${1>>r}$$あるいは$${mI/P}$$が十分小さければ、すなわち極端に濃厚な接触方法で極端に多くの感染者と接触しない条件ならば$${(1-r)^{mI/P}}$$は$${1-rmI/P}$$とみなせるので、$${dS/dt=-S(rmI/P)= -(rm/P)SI}$$となり$${dS/dt}$$は$${I}$$あるいは$${S}$$と比例関係になります。すなわち$${k=rm/P}$$となります。

この微分方程式を解けば感染者の推移が予想できます。西浦氏の解説では$${t}$$日後の感受性者の数$${S_t}$$は標準化した数値、すなわち最初の感受性者$${S_0}$$との比$${S_t/S_0}$$で表現していますが、厚労省の生データは感染者数そのものですから、ここでも感受性者の人数そのものを使っています。そのほかにもいくつか修正したい点があるのでこのモデルは修正SIRモデルとしておきます。

$${^{1)}}$$ 日本内科学会誌 109, 2276 (2020)