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【感想】『観察力の鍛え方』

こんにちは、白山鳩です! クルッポゥ!

マガジン『本を読んだら鳩も立つ』での本のご紹介です。


前回の記事はこちらです。↓↓↓

今回取り上げるのは、

『観察力の鍛え方』

です。


マンガ「宇宙兄弟」「ドラゴン桜」などの編集者が教えてくれる「観察力の鍛え方」に書かれている内容と、

これにまつわる周辺知識との関係性を見ていきます!


1つの記事あたり、だいたい5分で読めますので、お気軽にスクロールしてみてください!


普通の思索を繰り返す

『観察力の鍛え方』では、

どうやったら、「普通」でいられるか

という問いからスタートしています。


「普通」の状態を保つことができれば、特別なことを運良く成し遂げることもある。
「普通」でい続けるのが、一番難しい。
「観察」をめぐる思索にも、ホームランはいらない。
「普通」の思索を繰り返していくことで、たどり着くことができる。

と、さながら、超サイヤ人の常中を思いついた悟空のような発言から始まるわけですね。

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では、そのような「普通」でいられる観察を阻むものは何なのか。

同書は、「3つの要因」を挙げています。


観察を阻むもの

『観察力の鍛え方』では、観察を阻むものとして、

①認知バイアス
②身体・感情
③コンテクスト

の3つを挙げています。

そのいずれもが、その対象をあるがままに観察するのを阻むというのです。

そして、「観察を阻むもののほとんど全ては、自分の中にある」と主張しています。


たとえば、「認知バイアス」

既存の認知が、観察を阻害する
悪い観察は、既存の認知がまったく更新されない、すでに知っていることを前提として観てしまう状態だ。


あるいは、「コンテクスト」(文脈)

人間の脳には、何かに注目するとそこに「ロックオン」するという特徴がある。
注意をある一点に固定化してしまう。


「認知バイアス」や「コンテクスト」により、

「これはこう!」と思い込んでしまうと、

思考が停止してしまい、

目の前の対象そのものを観察するのを阻害してしまう……。


「客はラーメンではなく情報を食ってる」

という某マンガの名言にも通ずるところがあるように思えます。

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これら3つの要因を意識することで、観察の精度が上がる、というわけですね。

観察を阻害するといったとき、ここで紹介した3つの要因
ーー認知バイアス(=脳)、
身体と感情(=感覚器官)、
コンテクスト(=時空間)
がバグを起こしやすいと意識しているだけで観察の精度は変わってくる。

僕は、この3つを総称して、「メガネ」と呼んでいる。


以前、鳩の記事でまとめた、西林克彦さんの新著『わかったつもり』の、

「一度、文脈を通して『わかったつもり』になると、

それ以上は、『もっとわかりたい』と思えなくなり、

思考停止になってしまう」

という主張に通ずるところがあり、非常に納得感がありました。


「問い→仮説→観察」のサイクルを回す

「人は『メガネ』をかけてしか対象を観られない」

というのが、ここまでの主張でした。

この「メガネ」を所与の条件とした上で、

「意識的なメガネ」をかける、

すなわち、「仮説」を持つことの重要性を同書は説いています。


そして、「仮説」→「観察」→「問い」の「観察(思考)サイクル」を回すことで、

「『仮説』を検証したいという欲望を伴った『観察』のサイクルが始まる」

としています。


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佐渡島庸平『観察力の鍛え方』より


とにかく雑にでもいいから、仮説を立てる。
そうすると、仮説を検証したいという欲望が生まれ、
熱量のある観察が始まる。


「PDS」「PDCA」は「振り返り」から回す

さて、少しだけ寄り道をさせてください。


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この「観察(思考)サイクル」に影響を与えたものとして、

「計画」→「実行」→「振り返り」の「行動サイクル」が紹介されています。


若干話がそれますが、

『観察力の鍛え方』の本文中では言及されていないものの、

おそらくこの「行動サイクル」は、

「Plan」→「Do」→「See」の「PDSサイクル」

を指しているものと思われます。


これは、19世紀初頭の経営学者、アンリ・ファヨールが提唱した経営管理の過程を発展させたものです。

そして「PDSサイクル」の「S(振り返り)」が「Check」+「Act」となっているのが、「PDCAサイクル」ですね。


さて、『観察力の鍛え方』では、こんな指摘がされていました。

行動サイクルとは、全ての行動は「計画」→「実行」→「振り返り」のプロセスを踏むことになるというものだ。

通常このサイクルでは、「計画」を起点にすることが多いのだが、
どうも計画倒れになりやすい。
計画から始めると、行動の熱量が上がらないことが多い。

どうすれば行動の熱量が高まるのだろうと試していたときに、
「振り返り」を起点にすると行動の熱量が高まり、
自分ごととして「計画」を立てやすくなる
と感じた。


「PDSサイクル」ではなく「SPDサイクル」、

「PDCAサイクル」ではなく「CAPDサイクル」にした方がいい、

というわけですね。


「振り返り」から始めるべきだというこの主張、

実は、同書以外でも提唱されているのを見かけます。


たとえば、国土交通省は、こんな資料を出しています。

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「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン(ガイドラインセミナー資料)」P33

国土交通省「運輸安全:運輸安全マネジメント制度に関する参考資料」より


「いきなりPDCAサイクルをスタートさせる」のではなく、まずは、

「自社の状況・リスク(脆弱性)等を把握する」=「振り返り」

からスタートすることが提案されています。


ちょっと本を読んでいるときに、こういう偶然のつながりを見つけると、ワクワクしてくる鳩です。


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まずは愚直なディスクリプション

さて、本筋に戻りましょう。

では、いよいよ実際の観察に移ります。


とはいえ、

観察しろというのは……見るんじゃあなくて観ることだ…

と突き放してもしょうがないので……。


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『観察力の鍛え方』では、観察対象に関する事実を言語化してみる

すなわち「ディスクリプション」に言及されています。


では、どうするか。
まずは、見たものを「ちゃんと言葉にする」ことだ。
仮説とは、頭の中のモヤモヤしたものが、やっと言葉になったものだ
と言うこともできる。
なお、ここで求められるのは主観的な感想を排すること。
できるだけ客観的に、事実だけを説明することだ。

事実と自分の感想を分ける練習は、観察力を鍛えるうえで重要だ。
自分の解釈、感想を、事実と思ってしまうと、観察は止まる。
そして、その勘違いは、かなり起きやすい。


この辺りは、さきほどご紹介した本『わかったつもり』でも、

「一度『わかった』と思い込むと、それ以上、『もっとわかりたい』とは思わなくなる」

ことが指摘されています。

すなわち、観察が止まる、というわけですね。


観察が止まって思考がロックされるのを防ぐには、

ディスクリプションが効果的、ということなのでしょう。


どんなものでもいいからディスクリプションをしてみると、仮説が思い浮かぶ。
そして、その仮説をメガネとして、再度見直す。
すると、今まで気づかなかったことに気づき、
新たな問いが浮かんできて、仮説を更新できるのだ。


具体⇄抽象トレーニング

事実と感想を切り分けて、思考がロックされないようにする。

そして、事実と、そこから浮かび上がる仮説とを行ったり来たりする。

これは、「抽象思考」そのものです。


実際、『観察力の鍛え方』でも、抽象を具体を行ったり来たりすることの重要性が説かれています。


頭に浮かぶ漠然とした印象という「抽象」的なものを、
言葉という「具体」に一度、落とし込もう。

そして、その具体の集合から、作者の意図などの「抽象」を推測する。

こうした「抽象→具体→抽象」の作業を繰り返すことで、観察の質は上がる
言葉を使うことで、自分の観察のいい加減さを自覚できる。
自覚すると、人は次の一手を打つことができる。


この、「具体」と「抽象」を行き来することに特化した本が、

その名のとおり『「具体⇔抽象」トレーニング』で、鳩の記事でも以前ご紹介しました


観察力を鍛えるのためのトレーニングにも役立つことかと思いますので、

気になる方はこちらもご覧ください。


正解主義と思考停止ワード

最後に、同書で紹介されていた、

「思考停止ワード」

をご紹介しましょう。


その「思考停止ワード」とは……「わかる」です。

どういうことなのでしょうか。


「わかる」は全く理想の状態ではない。
「わかる」から遠ざかろうとして、世の中を観察すると、違う世界が見えてくる。
わからない状態に身を置き続けるとは、思考を停止しないということだ。
観察をし、仮説を立て、問いを見つける。
それを続ける。


20世紀末から21世紀初頭まで、一世を風靡した「ロジカルシンキング」は、

まさに、あらゆることを分析して「わかる」を作り出そうとする営みです。


一方で、一度「わかったつもり」に陥ると、

それ以上、考えを深めようとすることができなくなります。


常に具体と抽象、問いと仮説を行ったり来たりすることで、

「わかる」という状況に留まらないことが、

「わかったつもり」から脱出するための手段でもある、

と考えてもよいでしょう。


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まとめ

さて、ここまでの内容をまとめましょう。

○普通の思索を繰り返す

・「観察」をめぐる思索にも、ホームランはいらない。
・「普通」の思索を繰り返していくことで、たどり着くことができる。


○観察を阻むもの:①認知バイアス ②身体・感情 ③コンテクスト

観察を阻むもののほとんど全ては、自分の中にある
「認知バイアス」や「コンテクスト」により、「これはこう!」と思い込んでしまうと、思考が停止してしまい、目の前の対象そのものを観察するのを阻害してしまう。


○「問い→仮説→観察」のサイクルを回す


・「仮説」→「観察」→「問い」の「観察(思考)サイクル」を回すことで、『仮説』を検証したいという欲望を伴った『観察』のサイクルが始まる


○「PDS」「PDCA」は「振り返り」から回す

・「観察(思考)サイクル」を「仮説」から始めるのと同様、

「いきなりPDCAサイクルをスタートさせる」のではなく、まずは、
「自社の状況・リスク(脆弱性)等を把握する」=「振り返り」
からスタートするとよい


○まずは愚直なディスクリプション

・まずは、見たものを「ちゃんと言葉にする」
・仮説とは、頭の中のモヤモヤしたものが、やっと言葉になったもの
主観的な感想を排し、できるだけ客観的に、事実だけを説明する
・ディスクリプションの後、浮かんできた仮説をメガネとして、再度見直すと、今まで気づかなかったことに気づき、新たな問いが浮かんできて、仮説を更新できる


○具体⇄抽象トレーニング

頭に浮かぶ漠然とした印象という「抽象」的なものを、言葉という「具体」に一度、落とし込む
・そして、その具体の集合から、作者の意図などの「抽象」を推測する。
・こうした「抽象→具体→抽象」の作業を繰り返すことで、観察の質は上がる


○正解主義と思考停止ワード

「わかる」は全く理想の状態ではない。
・「わかる」から遠ざかろうとして、世の中を観察すると、違う世界が見えてくる。


次回は、この『観察力の鍛え方』でも紹介されていた、

『観察力を磨く』

を見ていきます。


観察力を鍛えるトレーニング方法も出てきます。

お楽しみに。

to be continued...


参考記事

○記事内に登場した各本について、鳩がまとめた記事です。

・『わかったつもり』

・『具体⇄抽象トレーニング』


参考資料

・挿入マンガ①:鳥山明『ドラゴンボール』(集英社)

・挿入マンガ②:久部緑郎(原作)、河合単(作画)『ラーメン発見伝』(小学館)

・挿入マンガ③:荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)


・佐渡島庸平(2021)『観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』(SB新書)


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