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思い出ごと全部、剥製にしておきたい

 私の情緒ってのはそれはもう夏の天気よりも不安定なもんで、ちょっとのことで舞い上がったり、奈落の底まで真っ逆さまに落ちていったりする。何か嫌な出来事があったならまだしも、「嫌な出来事が起こる想像」をして発狂することもある。客観的に見たらだいぶヤバい奴やな、私。

 最近よく陥るのが、「ペットが死ぬ」という想像。こればっかりはマジで辛い。
 今現在、終盤のジェンガより崩れやすい心をなんとか保ってくれているのがうちのペット、うさぎ様。名前はまあ伏せとくか。別に伏せることに意味は無いけど。うちのうさぎ様ガチ勢なもんで、あんま知らん人に名前教えたないんよね。どうでもええか。

 うちのうさぎ様、まあまあいい歳。人間で言うと七十歳くらい。でも、言うてまだぴんぴんしてるしめちゃくちゃ食欲も旺盛。
 ただ、最近トイレを決まった位置でせんくなった。それがもう、打ちのめされるくらいショックだった。なんでって、生後半年くらいでうちに来た頃から今まで、絶対トイレだけは同じ場所でしてたから。部屋んぽ中も、遊びたさとトイレしたさでめちゃくちゃ悩んだ末仕方なくトイレに行くようなお利口さんだったのに。それがもうどうだい、見境なんかありゃしねえ。部屋んぽ中も思いっきり粗相しまくる。お気に入りでいつも入ってる箱の中でもガンガンしまくる。

 トイレじゃない場所で粗相をした時はまず最初に病気を疑った。体調が悪いからトイレに行けへんのとちゃうかって。でも、動物病院行っても何ともない。おやつを食っても食っても催促するくらい超元気。排泄出来ないとなるとそれはかなり重症かもしれんけど、うさぎ様はもうびっくりするくらい快腸。
 色々調べたら、どうやら歳とってくると「トイレに行くのが面倒臭い」ってなる子が多いらしい。だからところ構わず粗相する。まあもうおばあちゃんだからね。しゃあないしゃあない。いくらでもケツ追っかけて掃除して回るよ。下僕なんでね。

 そんなわけで、情緒不安定マン私、嫌でも「終わり」を意識するようになってしまった。まだまだ元気だと思ってたし、これからもずっと元気だと思ってた。でもちゃうねんな。うさぎ様も、歳取るねんて。あんなに可愛くても、歳取るねんて。びっくりしちゃった。歳とって死ぬんなんか、醜い人類だけで十分やろ。

 どんな時でも、「終わり」がよぎる。おやつをあげてる時も。ふわふわの頭を撫でてる時も。お布団みたいな匂いの背中を吸うてる時も。粗相したケージの中を掃除してる時も。ふとよぎってしまう。いつかうさぎ様がいなくなる時のこと。
 正直想像がつかない。なんかもうずっと一緒にいれる気がしてる。でも、そうはいかない。遊んでる最中、ごろんと寝転がることが多くなってることからは目を背けられん。たっかいジャンプの回数が減りつつあることからも。
 帰宅して一目散に走っても、そこにうさぎ様の姿が無い日が来る。無意識に、別に何の用も無いのに名前を呼んでしまうのが笑い話じゃなくなってしまう。このケージの中が空になる日がいつか来る。来てしまう。

 そう思ったら発狂したくなる。頭抱えて人間を辞めたような声で叫びたくなる。考えたくない。でも考えないといけない。心の準備をしとかんと、準備が出来ないままその日を迎えたら、今度こそぶっ壊れてしまう気がする。

 発狂したくなる度、小さい声でうさぎ様に言う。「お願いやから長生きしてよ」と。「絶対死なんでよ」と。「もしも、もしも君が死ぬことがあったら、本当に申し訳ないんだけども、剥製にしてもいいかな」と。

 過去に一度、うさぎ様の絵を描こうとしたことがある。写真も動画も毎日のように撮りまくってるけど、それじゃ足りなくて絵にしようと思った。でもね、全然似やんのよ。こんなに毎日見てるのに。特徴なんか嫌になるほど知ってるはずやのに。これっぽっちも似やんのよ。
 写真もそう。思った通りに写ってくれんのよ。どでんと出っ張ったお腹を撮っても、もちもち感が写真では伝わらない。お口のふにふに感を撮っても、全然見たまま写らない。目で見たのと写真じゃ、可愛さも全然違う。

 この家の中にうさぎ様がいなくなることが考えられない。だからいっそのこと、剥製にしてずっと立体のまま置いておきたい。色んな角度から眺めたい。心ゆくまで眺めたい。だけど、勿論家族は反対する。反対する意見も分からなくはない。残酷だって言うんよね。
 でもさ、正直、正直よ。火付けて燃やすのも、ふわふわだった毛に土かけるのも、同じくらい残酷な気すんの私だけなんかね。そうやって壊してしまうよりも、綺麗な姿のまま保たせてあげる方がいいと思うんやけど。違うんかな。違うんやろうな。

 私は耐えられない気がする。空っぽのケージに。立体感の無い二次元のうさぎ様に。たとえ息をしていなくても、きちんとここにいた、ここにいるという確証が欲しいと思ってしまう。

 もしも、もしもうさぎ様がいなくなる日が来たら、マジで私はどうなってしまうんやろうか。考えたくも無いしもう夢でも見たくないけど、やっぱり改めてひしひしと感じてしまうな。
 永遠なんてマジで存在しないんだなって。

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