4冊目 「箱庭の巡礼者たち」

挨拶

 皆さんお久しぶりです。maziceroです。晴れて大学生になったので、そして、ようやく余裕ができてきたので、本格的にこのnoteの連載を再開したいと思います。

 今回紹介するのは恒川光太郎さんの「箱庭の巡礼者たち」という作品です。僕は初めての作家さんでしたが、知人は直木賞候補作の「夜市」なら読んだことがあるそうです。「夜市」は2005年の日本ホラー小説大賞を受賞し、同作でデビューしているそうです。デビュー作で直木賞候補作家とはすごいですね。僕もいろいろ読んでみようと思います。
 それでは、作品紹介に移ります。

ジャンル

 まずはジャンルから。
 ジャンルとしてはファンタジーです。表紙もホンワカとしていますね。
 さて、ファンタジーとは言いつつ、第一話は現実世界と箱のお話になっています。目次の「箱のなかの王国」ですね。なので、ファンタジー要素が薄いと感じるかもしれません。
 ですが、ちゃんとファンタジー世界のお話です。ネタバレはしたくないので言いませんが、ちゃんとファンタジーになっているので、飛ばさずに、前から順番に読んでいってください。

特徴① 構成

 次に、この作品の特徴の一つである「構成」を見ていきたいと思います。
 目次を見ると分かる通り、これは短編集形式、オムニバス形式になっています。そして、その間に「物語の断片」というものがあります。断片ということは、一つの連続する長い物語の一部ということになります。
 実際、それらの断片は「ルルフェル」という人物の物語ととらえることもできます。このことについては、グダグダ説明するよりも、実際に読んでもらった方がはるかにわかりやすいと思います。
 では、なぜ「ルルフェル」なのでしょうか。この人物は一話(便宜上、このようにカウントさせてください)の「箱のなかの王国」というおはなしから登場します。第一話で登場するのですから、物語の根幹にかかわる人物だとしてもおかしくありません。
 一方で、この小説を読むと、物語として描くにふさわしい人物がもう一人いると思うでしょう。少なくとも、私はそう思いました。
 それは一話の主人公です。
 しかし、読んでも読んでも、彼は出てきません。出てくる名前は、決まて「ルルフェル」その人です。
 真相は分かりませんが、いろいろ考えた結果、一つの推論を導けました。ですが、その前にもう一つの特徴について触れさせてください。

特徴② 繋がってる

 もう一つの特徴というのは、登場人物たちに何かしらのつながりがあるということです。もちろん、バラバラに読んで行っても分かりそうですが、個人的には前から順番に読むことをお勧めしたい。そうすることで、より繋がりが分かりやすいと思うからだ。
 また、そのつながりによって、物語全体を通して、すべての物事は繋がっているという意識が感じられる。それが、この作品の特徴のひとつであり、ファンタジーという世界の話でありながら、その世界の中ではなく、外から見ている気分にさせる。  
 通常、物語での読者は主人公の肩に視点があると思えばいい。特に、ファンタジー小説はその傾向が強いと思っている。
 だが、これは違う。もっと空から眺めているような感覚を覚える。どこか冷めた視点から見ているといえば適切だろうか。
 とにかく、この特徴は短編の集まりというよりは、世界について語ったときに、その中でも印象的な部分を抜粋したかのような印象を与えます。

話を戻すと

 さて、なぜ、二つ目の特徴を先に話したかと言えば、物語の断片では、「ルルフェル」という人物の物語に絡めて、物語全体の主軸ともなる「絵影」という少女と、その一族の話が語られているように思われるからです。つまり、つながりのある彼らの物語を傍観する役目として「ルルフェル」が最適であったということになる。このことについては、一話と「物語の断片」の一つ目を読んでいただければすぐに分かる。あえて深入りしないが、なぜかといえば、彼(ルルフェル)は一話の中でも異質な存在であり、だからこそ、物語の視点とするには都合がよかったからです。
 これ以上はネタバレになるので、書きません。気になった人は試しに読んでみてください。最悪、「物語の断片」の一つ目だけ読んでも、理由は分かります。

個人的感想

 ということで、ネタバレなしで紹介するとしたらここまでです。個人的には「円環の夜叉」が世界観的に一番好きです。殺伐としていないうえに、温かい。そんな世界観は僕の大好物ですね。

 さて、ここからは今回から導入した評価システムを使っていきたいと思います。あくまで個人の感想なので、先に読んでから見るのをお勧めします。
 総合的には80.75点です。
 まず、つかみがちょっと長すぎる気がします。一話全体でつかみとなっているので、流石に長いかなと思います。ですが、その分、つかみとして大きな成功を果たしていることは言うまでもありません。
 次に、あえて隠そうとしていることは分かりますが、誰がしゃべっているのか分からなくなる時があります。もちろん、Aさんのセリフの後だからBさんのセリフという風に読んでいけばいいのですが、誰の視点でしゃべっているのかが書かれていないまま進むので、読んでいる側としてはめんどくさく感じます。特に、「物語の断片」の五つ目は、それが強く出ています。
 最後に、偶に、よく分からないことが起きます。文章を読んでいけば、こういうことだったのかなとも思えるのですが、首を傾げたまま数行読んでいくことになるので評価としては減点とさせてください。
 これらの要素を加味して、文章表現を35点/50点、キャラクターを50点/50点、面白さを0.95として、総合点を80.75点としました。
 この評価については個人の感想です。正直、作家の方には本当に失礼だと思います。評価するなら、誰もが認めるようなすごい作品を書いてからにしろと言いたくなりますよね。大体、満点が出るということは三項目について、すべて満点を出しているということです。
 まあ、無理なので、むしろ、面白さがほぼ満点だということに注目してください。そのうえで、ファンタジーが好きな人とか、ライトノベルから堅い小説に移るときの懸け橋として、この作品をお勧めしたいと思います。

 いかがでしたでしょうか。次回は一週間後の9月21日に更新予定です。もっと頻度を置くしたいのですが、明日からの一週間は忙しいことが分かっているので、少しだけお待たせします。すみません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?