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日本人の心を解明するキーワードはこれだった。井沢元彦『逆説の日本史』①

 “日本史”本市場というものがあるのなら、【大胆な仮説】というのは非常に興味をそそられるワードであるが、一方単たる創作だったりよくある陰謀論だったりする場合も多い。あくまで読み物として面白ければいい、という考え方もあるが、歴史好きからするとある程度のファクトを押さえた上でイマジネーションに訴える仮説が欲しいと思う。
その点、井沢元彦の『逆説の日本史』が示す古代日本像は想像とゆるぎない理由のバランスが素晴らしい。最初に読んだ時、私はこういう視点からの日本史解説が欲しかったと思った。
井沢氏は日本人の信仰の最大のものは怨霊信仰だという。怨霊信仰は単なるお化けを信じているということではない。人が恨みをもって死んだ場合、その魂は「怨霊」化し、その後の世界に災いをもたらすという考え方で、この恐怖は奈良平安の時代を通じて都市部の日本人を震え上がらせた。日本の古代に長らく死刑が行われなかったのはそのためであり、治安維持のための警察力や軍隊への参加を高貴な身分の人間が嫌がったのは、ケガレと共に怨霊に触れる機会が多いということもある。

もう一つは言霊(ことだま)信仰で、言葉に出すことは一つの実体化と同じ価値を伴っているという考え方で、和歌を重視する日本人が単なる美意識の発露として歌を詠んでいるのではなく、言葉に呪いにも近い思いあると信じているのがわかる。
これは非科学的であるといって現代人が切り捨てられる問題でもない。なぜなら我々は、人の健康や運を天に託すような出来事に出会った時「縁起でもない」といって最悪の可能性を口にするのをためらう。口から出た悪い言霊が影響力を及ぼすことを無意識に信じているのだ。

だから、よく言われる日本人が無宗教だ、というのはとんでもない間違いで、まさに数千年前からの最古の信仰を日本人は決して捨てないで大事に大事に現在まで伝えてきているのだ。逆に滑稽なのは、ほとんど日本人が自身の心を包んでいる分厚い信仰に気づいていないということだ。

現代まで及ぶ日本人の根本的な思想、「怨霊」「言霊」。その始まりは一体何だったのか?『逆説の日本史』はそれだけを解明する本ではないが、実に重大な示唆を与えている。

◆日本人の心解明するキーワードはこれだった 
井沢元彦「逆説の日本史」②https://note.com/mazetaro/n/nd5bb8425b01e




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