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怠け者のメイドとお坊ちゃまの話 1

初夏、ミンミンと蝉がにぎやかに音を搔き鳴らす。私はぱちぱちと瞼を上下させ目覚める。日差しが体を温め、そのうち熱を帯びる。私は布団の横に丁寧にアイロンをかけて畳んだメイド服に裾を通す。お坊ちゃまの朝食に取り掛かる。

「おはようございます。お坊ちゃま。今日は学校ですか?」

「学校だよ、面倒だねぇ。僕は学生だから嫌々通っているだけなんだが、休日であればお前とオセロでもしてだらりだらりと過ごしたいもんだね」

「まぁそんな、不平不満をおっしゃらず。旦那様が心配しますよ。」

「そうだ、今日は見たい映画の公開日だった。お前も一緒に見に行こう。学校が終わったら映画を見に行くぞ」

「畏まりました。行ってらっしゃいませ、お坊ちゃま。」

お坊ちゃまからデートのお誘いがあった。さて、どんな格好をすればいいのだろうか。

私はこの家に仕えるメイド、名を良子(よしこ)、お坊ちゃまと二人暮らしである。旦那様がお屋敷から離れた都内の高校にお坊ちゃまを通わせるとなったので、これも自分の力で生きていく辛さを知りなさいとのこと。お坊ちゃまをマンションの一室に、私を面倒係としておつかいなさった。何故数あるメイドの中から私が選ばれたかといえば、一番働き者ではないからだろう。あまりに働きすぎるとお坊ちゃまが自立の力をつけられない。加えて私はサブカルチャーに詳しい。お坊ちゃまが時々話す映画や漫画の話についていけるのが私ぐらいだからその点も買われたのだと思う。

「とりあえず、お坊ちゃまの学校が終わるまで喫茶店に行って小説でも読もうかしら」

私はメイドであって働き者ではない、怠け者のメイドであった

つづく


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