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私の化けの皮とは

「あんたは本当は冷たい人間だ。よく覚えておきなさい。」
「周りが騙されたって、私の目は騙せない。いつかその化けの皮が剥がされるから、覚悟しておきなさい」

母が6歳だった私に投げつけた言葉だ。
なぜ母はそんな事を言わなければならなかったのか、自分に子どもが生まれたら私にも理解できるかもしれないと思っていたが、とうとう分からないままだ。
言い放った当人は、娘たちが成人して仕事に就き、結婚して親になったり離婚したりという時の流れの中で、一人だけ幼児のような承認欲求を爆発させ続けながら、脳幹出血で呆気なく死んだ。74歳だった。

母は若い頃から死ぬまで、感情のままに言葉を発し、行動し、その結果周りとの摩擦を発生させた。相手は家族に限らず、カッとなったら初対面だろうと隣人だろうと見境なく鬼の形相で喚き散らすのだ。その度に家族は肩身の狭い思いをしたが、当人は感情を吐き出してしまったらスッキリしたもので、何事もなかったようにテレビを観て笑っている。そこでこちらのわだかまりを少しでも見せようものなら再び鬼に豹変するのがわかっているので、家族は全てを無かったことにするしかなかった。

そこで私の化けの皮である。
時は流れて、私が産んだ子どもたちは全員成人したが、母の言葉は今も私を6歳のまま捉え続けている。
私の化けの皮はいつ剥がされるのか。
剥がされた時、私はどんな姿をしているのか。
魂の奥深くに食い込んだ棘が疼き続ける。

母はあの世で、知ったこっちゃないとそっぽを向いているはずだ。


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