世界で戦う日本人レーシングドライバー イタリアF4で戦う山越陽悠選手へインタビュー - イタリアF4 第3戦振り返り

今回もイタリアF4選手権に参戦中の山越陽悠選手(Van Amersfoort Racing)にインタビューを行うことができました。今回はヴァレルンガで行われたイタリアF4の第3戦を中心にお話を伺いました。


前回のインタビューをまだ読んでいない方はこちらから↓


—――第3戦が行われたヴァレルンガサーキットではフォーミュラのレースがあまり開催されていないので、視聴者にもあまり馴染みのないサーキットと言えるかもしれません。どのようなサーキットなのでしょうか?
基本的には狭くて抜きづらいサーキットですね。少しバンピーな部分もあったり、ブレーキングも真っすぐではなく斜めに進入していく場所があるのでタイヤがロックアップしやすかったりと、まあまあ腕が求められるサーキットです。特に予選では1周をまとめきるのが難しいですね。路面の舗装はイモラよりもミサノに近く、タイヤのラバーが乗りやすいコースです。
今回は開催1週間前にKATEYAMAの走行セッションがあって、そこで練習してからレースウィークに向かった形です。

—――続いてレースウィークについて伺います。まず予選までのセッションはいかがでしたか?
みなさんが見ているリザルトだと金曜日の朝のFP1はトップタイムだったと思うんですけど、その前日に行われたコレクティブテスト(練習走行)では全体で18番手かな?(実際は19番手)のタイムだったんです。チームメイトからコンマ3秒落ち、トップからコンマ8秒落ちの状態だったので、「これは終わったかな」って一瞬思ったんですけど、コレクティブテストが終わった夜の6時前から10時くらいまでチームやエンジニアと話し合ってデータやドライビングを見直しました。長時間のミーティングの結果、次の日のフリー走行ではマシンのセットアップを大幅に変えて、僕のドライビングも少し変えた結果、コンマ8秒のタイム向上でトップタイムだったわけなんですよ。

—――ワンメイクシリーズでの0.8秒差は、正直かなり厳しい状況だと思うのですが、この状況を打破できるのが今のVARと山越選手の凄さですね。
そうですね。チームメイトのグスタフ(・ジョンソン)がコレクティブテストで8番手で、トップからコンマ4秒くらいの差だったんですよね。基本的にはそっちのセットアップを少し真似して、そこからさらにひと手間ふた手間加えて、そこにドライビングも合わせていった結果ですね。

—――土曜日に予選がありました。こちらについてはいかがでしたか?先ほど1周のラップタイムをまとめるのが難しいという話もありました。
まとめるのが難しいというのは、100%や110%のプッシュした状態でまとめるのが難しいってことになりますね。僕の場合は90%のアタックでミスを極力減らすことで、全体のラップをまとめきれるという良さがあるので、少しアドバンテージを持って予選アタックに挑んでいます。その結果、今回もQ1が4番手でQ2が3番手と大きなミスなくまとめることができました。Q1はジャック・ビートン(USレーシング)が抜けて速かったんですけど、Q2はトップとコンマ1秒未満の差で、ちょっとミスをした分遅れてポールポジションを逃した形だったので悔しかった部分はありますね。

—――サーキットを見ていて思ったのですが、ヴァレルンガはコントロールラインから最初のブレーキングまでが非常に長いですよね。この区間ではスリップストリームが効いてタイムを稼げたりするのでは?と思ったりもしたのですが。
スリップストリームは一応効くんですけど、アタック時の推奨ギャップが2.5秒くらいで、それ以上近づくとダーティエアーの影響で今度はセクター3でタイムを失ってしまいます。ダーティエア―を受けてしまうとお話にならなくなっちゃうので(笑)。上手く直線区間でスリップだけを得られれば0.2秒くらい稼ぐことはできると思いますが…。

—――サーキットで一番難しいポイントとなるとどこになりますか?
一番難しいとなるとターン12の180度左に曲がる一番きついヘアピンですね。あそこはやっぱりローテーション(回頭性)がないときついですし、ミスすると簡単にコンマ1-2秒は失っちゃうので、タイムに影響するポイントですね。
—――ローテーションというのはクルマの曲がりやすさという認識であってますか?
そうですそうです。角田選手がF1でよく無線で言ってると思うんですけど、クルマの動き、曲がりやすさについてですね。

—――予選はQ1が4番手、Q2が3番手、セカンドベストも3番手で3レースともに2列目スタートとなりました。
まずはレース1について伺います。スタートで3番手のマティウス・フェヘイラ(US)の前に出るなど今回もいいスタートに見えました。
そうですね、レース1は特に決めに行きましたね。4番手スタートでオーバーテイクも難しいサーキットなので、スタートで追い抜かないと厳しいなと思っていました。個人的にマティウス(・フェヘイラ)はスタートがそんなに上手いイメージが無く、自分がちゃんとスタートを決めれば絶対に抜けるという自信があったので、そこは結構攻めた感じのスタートで行きました。

—――前回のインタビューでフレディー・スレイター(プレマ)とビートンはスタートが上手いという話がありました。レース1は彼らがフロントロウでしたがいかがでしたか?
今回僕は3レースともスレイターの後ろからスタートしましたが、彼に関してはやっぱり上手いですね。ジャック(・ビートン)はポールポジションだったレース1では結構大きなミスをしていたので、そこはやはりポールポジションというところでメンタル面が影響してミスしちゃったのかなと思います。

—――1周目に前のスレイターとビートンの争いでビートンがコースアウトしましたが、あの瞬間に2番手は狙えそうでしたか?
あのとき僕はマティウスを抑えるのにフォーカスしていたので、リスクをあまり取らないようにちょっと距離を開けていました。もう少し前でバトルしてくれたら行きたいなくらいの気持ちだったんですけど、中途半端なミスをされると逆に差が縮まるのでやめてほしいなって思いましたね(笑)。

—――序盤から終盤までセーフティカーが何度も出動する展開でした。前回のイモラを経てセーフティカーのリスタートについての視点に何か変化はありましたか?
やっぱりドライバーとしての視点、感覚は変わりましたね。あとは緊張感がかなり無くなってリラックスした状態でリスタートに臨めました。

—――最終的に後方集団のクラッシュで赤旗終了、3位フィニッシュとなりました。レース1全体を通していかがでしたか?
グリーンで全然走ってないですが感覚的にはそんなにペースが良くない気がしていたので、赤旗という形はラッキーかなと僕は思っていました。なるべくジャック(・ビートン)にはプレッシャーをかけずスレイターに集中してもらおうっていう戦略でプッシュはしてなかったのもあるんですけど、それでもやっぱり2人はちょっと速い気がしていました。

—――続いて翌日のレース2について伺います。今回は3番手グリッドでレース1とは異なる奇数列でしたが、何か違いはありましたか?
あんまりないですね。景色がちょっと良くなったくらいです(笑)。
レース自体は練習の時から悩まされているロックアップに苦しんでいて、あれが無ければ後半のペースも上がって2番手のアレックス・パウエル(プレマ)を抜けてたとは思いますね。

—――レース1からレース2にかけてレースペースは改善したのでしょうか?
そうですね、レースペース自体はかなり改善したと思います。パウエルのダーティエアーに引っかかってペースが上がらなかったので、もし前に行けてればあとコンマ1秒はペースを上げられたなっていうのはありましたね。ただ、完全に1周目のロックアップで僕の2番手の可能性はなくなってしまいました。ちなみに、このサーキットは全くタイヤに厳しくなく、デグラデーションはゼロなので予選ラップが20分30分を続ける感じです。

—――レース2は3番手フィニッシュ。続いて午後のレース3について伺います。スタートの蹴りだしは上位では山越選手が一番良いように見えました。
僕のあれは一番良いように見えて、実はほぼエンストしかけていました。なんとかクラッチをちょっと踏んでストールを避けた感じですね。フロントロウの2人も多分スタートを失敗していたと思います。
その後のターン4はレース1と2ではイン側で行ったので、今度はアウト側から行ってチャンスがあれば前に出たいなくらいの気持ちで仕掛けたのですが、流石に厳しかったですね。ターン7でパウエルを抜こうと思ったらパウエルもスレイターを抜こうとして、3ワイドになってしまいました。

—――レース3もセーフティカーが長い間出動する展開となりました。グリーンフラッグのラップが長ければ2位のチャンスはありましたか?
間違いなく抜けましたね。最後のセーフティカーが1-2周遅ければ間違いなく抜けました。レース3に関してはパウエルを抜ければスレイターより速かったと思うので、パウエルにはリスクを冒しながらも攻めていきました。

—――レース3は最後のセーフティカーの影響で3位フィニッシュ。週末の3レースともに3位でしたが、週末全体を通していかがでしたか?
1日目が18番手だったってこともあったので、チームが本当に凄く良い仕事をしてくれてカムバックができました。一夜でコンマ8秒もペースを上げられたことで、僕らにポテンシャルがあるということがちゃんとわかったので、そこに関しては本当にポジティブな面が大きいですね。

第3戦 ヴァレルンガでの山越選手の成績

レース1:4位スタート→3位フィニッシュ
レース2:3位スタート→3位フィニッシュ
レース3:3位スタート→3位フィニッシュ

ポイントランキング

1位 165pts:フレディー・スレイター(プレマ)
2位 127pts:山越陽悠(VAR)
3位 102pts:アレックス・パウエル(プレマ)
4位 93pts:アクシャイ・ボーラ(US)
5位 68pts:ジャック・ビートン(US)


—――ポイントランキングでは2番手、トップのスレイターとは38ポイント差という状況です。
まあ良い感じの差だと思います。38ポイント差だったらまあこのくらいかっていう気持ちで走れるので。やっぱり(ポイント差が)近すぎると意識過ぎちゃうっていうのはあります。ただ、後ろとのポイント差が近いのが嫌かなって感じですね(3位のパウエルと25ポイント差)。パウエルが覚醒してスレイターに肩を並べる速さになると本当に厳しくなってくるので、彼が完全な力を発揮する前の今のうちにポイントを稼ぎたいというのはありますね。今回のようにプレマのスレイターとパウエルがいて、2人ともに自分と同じペースとなると、プレマの壁が2台になって流石に厳しくなります。

—――イタリアF4も3ラウンドが終わり、次戦は1か月のインターバルを挟みイタリアのムジェロです。その後は連戦でフランスのポールリカールとなります。サーキットについてはいかがですか?
ムジェロはレースの1週間前にテストがあるので、そのタイミングで初走行ですね。そこで経験値を積んでレースに挑むことになります。ポールリカールに関しては得意サーキットでもあるので心配はしていませんね(2023年のフランスF4とイタリアF4のプレシーズンテストで走行経験あり)。
ただ、次の2戦はどちらも左のハイスピードコーナーばかりで、タイヤのデグラデーションが半端じゃないサーキットになります。予選でこれまで上位にいたのに沈んだドライバーがいたりした場合は、アタックの途中でタイヤが終わってしまった可能性が高いです。中継で表示される路面温度やレースペースを見て、ドライバーのタイヤマネジメントや誰がユーズドタイヤなのかを注目してもらうとより面白いと思います。

—――この2戦が終わるとイタリアF4は終盤戦に入ります。この2戦が鍵となってきそうですね。
そうですね。イタリアF4の夏休みが始まる前には少なくともチャンピオンシップではかなり良い位置につけたいので、今回のヴァレルンガのように安定してポイントを取って上位に進出していきたいですね。もちろん目指すべきはトップなんですけど、そこまで意識しすぎずにきちんとできる限りのことをするというのが今の目標ですね。


おまけ:
カーナンバー「6」の理由について聞いてみました

もともとカートの頃は「66」を使ってて、去年も66を使うつもりだったですけど、スペインF4では使われてて、フランスF4でも使われてたんですよ。なので「6」を使ってます。「なんで66なの?」って理由に関しては、僕が生まれた時刻が6時6分なのが理由です。2006年の10月13日の金曜日の6時6分生まれなんですよね(笑)。実は、初めてF4に乗ったF4 UAEでは「66」で走ってました。
F1に参戦するときは「66」にしますか?
いや、もう僕は6号車の人のイメージが付いちゃったんで、6でいいかな~(笑)。


山越陽悠選手の各種SNS
X(旧Twitter)https://x.com/HiyuYamakoshi
Instagram https://www.instagram.com/hiyu.yamakoshi

イタリアF4選手権のレースはYouTubeでライブ配信が無料で視聴可能!
第4戦のムジェロは7月13日~14日に開催されます!

今後のイタリアF4選手権とユーロ4選手権のレース日程
7月13日~14日 イタリアF4 第4戦 イタリア:ムジェロ
7月20日~21日 イタリアF4 第5戦 フランス:ポールリカール
8月24日~25日 ユーロ4 開幕戦 イタリア:ムジェロ
9月14日~15日 ユーロ4 第2戦 オーストリア:シュピールベルク
9月28日~29日 イタリアF4 第6戦 スペイン:バルセロナ
10月5日~6日 ユーロ4 最終戦 イタリア:モンツァ
10月26日~27日 イタリアF4 最終戦 イタリア:モンツァ
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