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一之輔さんの落語を10日間聞いた備忘録


上野鈴本演芸場で4月下席の夜の部のトリを務めるはずだった春風亭 一之輔さんがこの状況下で寄席が閉まっていることをうけ、なんと10日間連続でYouTubeで落語を無料配信するらしい!という情報を拾ったのは言わずもがな一之輔さんのTwitter。知った時の感想は「なんてこった!」。

前日立川かしめさんのオンライン二つ目昇進披露にゲスト出演していた一之輔さん。「久しぶりの楽屋が楽しくって楽しくって」と喋りに喋って嬉しそうにしていた様子を思い出す…。

一之輔さんの落語を初めて聞いたのはまさしく去年の今頃の上野鈴本演芸場だった。そこから代官山の晴れたら空に豆まいてへ「子別れ」完全版を聞きに行き、いい意味での親戚のおっちゃん感とアドリブの効いた古典落語が好きで、今では好きな落語家さんの一人になった。

せっかくなので全日程連続で聞く、と、駄文でもなんでも記録をなにかしら残す、を私自身の目標にして10日間一言感想とメモのようなものを書き溜めてみた。構えて聞くのは好きではないので、あまり気負わずに。

自分の勉強で後から振り返れるように、いつも拝見させていただいてるホームページ「吟醸の館」様に載っている、噺の解説もリンクを貼らせていただきました。落語の世界と現実の世界を素敵につないでいる記録、そして細やかな解説がわかりやすくがとても好きなホームページです。

一日目 団子屋政談

2時間前くらいにページを覗いたら、まだ開始していないのに300人くらい待機している人がいた。すごい、一之輔さん人気。
定刻ぴったりにスタートし、久しぶりに聞ける毒づいた枕ににやける。今日はお子さんの話が中心。大人になったらswitchを買ってやると言ったら次男が乳歯を自分でぶち抜いた話最高だったな。落語は「初天神」の後半を一之輔流にアレンジした噺。途中まで初天神のつもりでいたから、途中からのまさかの転換に意表を突かれた!いやぁ、面白かった。一之輔さんが話している後ろで、救急車の音が時折小さく聞こえていた。

二日目 粗忽の釘

私は一人でいるときは独り言も言わないし、声をあげて笑うことも少ないのだけど、(ただにやっとしている)、まんまと笑ってしまった。
今日の枕はお弟子さんの話が中心。ひとりひとりに与えた課題が面白くて、本人としては不本意だろうけど一之輔さんの愛情を感じる。「一人東京裁判」で吹いた。今日の噺は「粗忽の釘」。今まで聞いたことのある「粗忽の釘」の中でもピカイチだった。与太の旦那を泳がせて楽しんでる奥さん、最高。こんな夫婦、最高。途中、ものを倒して大きい音を出して破門になったお弟子さん(はやぶさの人)は大丈夫だろうか。笑

三日目 百川

野田ディスからのアーバンパークラインディスからの芝浜ディスの枕。ぐだぐだぐだぐだ枕が続いてネタに入らないのがいい。好きな「百川」が始まりにやにやする。序盤の一之輔幻獣動物園よ。四神と聞いて相撲の吊屋根の房をふと思い出す。百兵衛の表情がコロコロ変わって面白い、憎めない。今日は夢に「シェッ!」が出てきそうだ。今日は一之輔さんの後ろで風の音が聞こえた気がした。四月も終わりなのにまだ寒い。

四日目 千早ふる

会社から速足で家に帰って、シャワーを浴びて、夕飯を作って、レモンサワーを開栓する。そうするとちょうど一之輔さんの落語が始まる。いい流れ。
昨日と打って変わって、枕からスッと早めに落語に入る。「千早ふる」だ。
昨日の枕の一之輔さんみたいにぐだぐだぐだぐだの押し問答。竜田川が振られた理由が最高。二人のやり取りと絶妙な顔芸にじわじわと笑いに浸食されてくる。どの噺でも時折ぴゅう~って口笛吹いてごまかす場面があるの好きだな。「原作のデビルマンがいい」と「人間が一番怖い」。今日も外は風が強い。

五日目 青菜

直前に披露された小三治師匠の千早ふるに嬉しそうに言及。徒然なる国宝。
このグダグダはすべて計算されている、俺はコンピューターだ、今日はシチューだから早く帰ると宣言する枕。噺は夏が恋しくなる「青菜」!去年文菊さんのを夏真っ盛りに聞いたのが懐かしくなる。後半はもう笑いが止まらず…。義経のくだりをどうしてもやりたくなっちゃうところ、たまらない。あぁ、本当に夏が恋しい。今年の夏はどうなるんだろ。今度買い物するときは青菜買ってこよう、鰹節たんまりかけて食べよう、そうしよう。

六日目 らくだ

登場が「こんばんは、長谷川博己です」。枕で昔の大河ドラマ「秀吉」の話が出てきて懐かしくなる。よく家族で見てたな。後ろから今日はバイクの音らしきものが聞こえてくる。
麒麟に対抗して今日の噺は「らくだ」。兄貴分の怖い雰囲気とくず屋の逆らえない雰囲気、だんだんと逆さまになっていく立場の描写にググっと引き込まれた…!シリアスなところもお上手なんだよな。お見事でした。アーカイブでもう一回見ちゃった。

七日目 笠碁

今日の枕はなんか生き生きしていて、自分で笑っちゃうゾーンに入ってしまった一之輔さん。家族にくすぐり合いっこ全面拒否された話と、サザエさん炎上の話と19年前の今日一朝師匠に入門した話。新宿三丁目と上野に飲みに行きたくなってしまった。
まだまだ初心者だけど、噺の始まりでだんだん何の噺なのかわかるようになってきたのを実感して地味に嬉しい。今日は「笠碁」。後半の年寄り同士の意地の張り合いの様子が最高でした。笑いつつも自分にもああいう経験があったのを思い出してちょっとしんみり。

八日目 鰻の幇間

今日もごきげんな話題の枕で始まった。皮肉こもってる!話したそうでしょうがなかったチンアナゴの話題ももう嬉しそうに話す、おもろい。
今日は鰻の幇間!なんか太鼓持ちの噺って好きなんだよなあ~、報われないんだけど明るくて元気で。一八さん。落ち(サゲ)がもう最高、けらけら笑った。落語が終わった後にこれがウーバーイーツとか、さらに最高。あ~あと二日か、楽しみが終わっちゃうと寂しく思っていたら、千秋楽の日はなんと上野鈴本から中継と発表が。鈴本には行けないけど、鈴本の落語が見られる、本当にうれしい。ちょっと涙が出ちゃった。

九日目 お見立て

しまった!会社から帰ってきてシャワーを浴びて、そのままいったん寝てしまい開始時間を大幅に過ぎたところで目が覚めた。あわてて繋ぐと枕がほぼ終わってしまっている…。やってしまった。悔しい。牛と臼の下りだけ見て噺へ。今日の枕は長かったみたいで「お見立て」をまるまる聞く。ド田舎訛りの御大尽杢兵衛と店の若い衆喜助の掛け合いにクツクツ笑う。花魁喜瀬川の傍若無人ぶりもいい。一之輔さんの訛りはなんだか可愛らしくて憎めない。喜助の後半のもう開き直った感じがまた面白い。あぁ、今日は寝過ごしてしまったことだけ後悔。ライブで楽しむと決めたので、しばらくはアーカイブは我慢する謎の意地を張る。明日はいよいよ千秋楽。何の噺なのか、鈴本からの中継が楽しみで今からそわそわしている。

十日目千穐楽 花見の仇討ち

いや~感無量とはまさにこのことであると思う。上野の景色が浮かぶ枕で「不要不急が文化」の言葉。人が客席にいないからか、声も仕草の音もよく響く。寄席に行きたい。今年は花見ができなかったの話から、ずば抜けて明るい「花見の仇討ち」かけるなんて憎いねぇ。最高だな。一之輔さんの落語で今年は花見をさせてもらった。ありがたい。余興を見ている見物人の一人になったように感じた。落語の中で噺に参加していた、この感覚は初めてかもしれない。


10日間見ての感想、「あぁ~楽しかった!そして終わってしまった…」この一言に尽きる。ちょっとナーバスになりがちな今の生活で、日々好きな落語で笑うということでとても気持ちが救われた気がする。落語のそんなところが好きだ。この20時10分からの楽しみはいつのまにか日常の一つになっていた。そしてかしめさんの手拭いを使ったり、落語界のことも冗談を交えつつきちんと話す一之輔さんの人情味というんだろうか、粋な姿がかっこよかった。もう少ししっかり感想を組み立てたいけれど、今日はこのまま面白かった~な気分とちょっと泣いちゃいそうな気分に浸りたい。

こちらのTwitterアカウントで、落語をはじめ浪曲や講談のオンライン配信情報を日々発信してくださっています、本当にありがたい。

明日もどこかに誰かの落語を私は聞きに行こう。

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