ドイツに移り住むまでの道のり⑨ハグする友達
2014.03
こっちのひとの挨拶は、ハグとキスだった。
慣れない文化と生活、考え方、言葉がうまく喋れなくても、日々は前に進んでいく。
仕事のあと、同僚が声をかけてくれて一緒にご飯を食べに行く。
面倒見のいいシルビアは、メニューをあれこれ説明してくれる。
何を食べたいかよりも、何が注文できるのかの方が、その当時わたしには重要だった。
オレンジ色の飲み物と、サラダがこんもりとのったピザ。
ウェイターの人と会話を挟んで笑ったり、お願いしたり、時には意見を正直に伝えたり、自然な人とのコミュニケーションに見とれてしまう。
大きな声で自分のことを話し、仲の良い友達を”mein Schatz”(私の宝物)と呼び、話を聞いてはリアクションを返して、たくさん笑う。
出会ったときや別れるときに、大きなハグや頬へのキスをする。
慣れていないわたしは、肩をすぼめながら小さくハグを返す。
仲良くなった同僚はそんなわたしの態度を珍しく思ったかもしれないが、そのまま受け入れてくれた。
控え目でも、見た目も文化も思想も違っても、否定することなく、ただそこにいることを認めてくれる。
日本を離れて、居心地がいい、というのが正直な感想だった。
その時、わたしは想いをうまく言語化(日本語でさえ)する力を持たない。
ただ、想いを誰かにわかって欲しいと願っていた。
あなたはあなたらしく、わたしはわたしらしく。