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大人の発達障害

つい先日、高校以来の友人から連絡があって「なんかね、うちの兄ちゃん発達障害やったらしいわ。どうしたらいい?」と言われた。

その子の兄ちゃんは、私もよく知っている。ちょっと変わった人だったが、とにかく頭が良かった。

難関の国立大を出て、それなりの企業に就職し、それなりにエリートといわれる程度には出世して、この春定年を迎えたという。

私たちが高校生の頃にはすでに働いていたし、「24時間働けますか」の時任三郎のようにエネルギッシュで海外赴任もこなし、イケメンでもあったので、ちょっと憧れの存在でもあった。

「なんで?検査かなんかしたの?」
「いや、本人が望んで心療内科の受診して検査してもらったらしい。アスペルガーやって。」
「へぇー。それ、最近のこと?」
「先月(7月)」
「へぇー。またなんで?」

友達も「理解できない」という様子だったが、私も実に不思議だった。仕事がうまくいかないとか、なにかトラブルが続くとか、生きづらいとか、そういった負の側面はほとんどなかったらしいのに、わざわざ検査を受けにいくというのは、何なんだろう?

友達は、私の子どもが自閉症だから「これからどうしたらいい?」と聞いてきたわけだが・・・。そんなこと言われても正直わからないし、困る。

そもそも、なにか問題があって解決したいとか、そういうことは何もないのだ。

とりあえず、お兄ちゃんは退職を期に結婚しようと思ったらしい。それでコロナにも負けず何度かお見合いをしたのたけれどうまくいかない。きっかけはそこにあったようだ。

だからといって、何がなんでも結婚というわけでもないらしく、両親もすでに他界し、いまの生活(悠々自適の独身生活)を楽しんでいるらしい。

「これからどうしたらいい?」と言われても、何をどうするために?みたいな感じだ。

診断を受けた本人はケロッとしていて、特にダメージを受けてる感もないという。「今まで通りでいいんじゃない?」としか言いようがなかった。


それから1週間ほど何も連絡なく、すっかり忘れていた頃に、お兄ちゃんご本人から電話が入ってきた。

「あ、お兄ちゃん、おひさです~。」
「あ、○ちゃん、オレの発達障害の話聞いた?」
「聞いたよ。」
「なんかプレゼントもらった気分だよね~。ご褒美っていうか。」
「は?」
「いや、オレ、定年で退職したし、もうなんもすることないなぁと思ってたんや。そしたらこんなことになって、なんかこれからやることができた。」
「へぇー。お兄ちゃんなにするの?」
「それよ、それ。○ちゃんちの息子は何に秀でてるの?」

なんでも、発達障害のある人は何かに秀でていると本気で思っていて、いろんな発達障害の子どもをもつ人や本人に聞いて回ってるのだそうだ。「何に秀でている?」

秀でてるもんなんか、そうそうある訳がない。そもそも、発達障害があるから秀でてるわけではなくて、もともとそういう才能がある人が、集中力とかこだわりとかで伸ばしやすいというだけじゃないの?と私は思っている。

相手のそういう気持ちとか考えずにストレートに聞いて回るところがアスペルガーなんだろうと思ったが、それは言わずにいた。研究職とはいえ、よくエリート社員なんぞやってられたものだ。

「お兄ちゃんはすでに一芸どころかいっぱい秀でてるやん、もうええんちゃう?」
「いやいや、オレ、もしかしたら画家になれるとか?音楽家とか?写真家とか?なんか今からでも何にでもなれる気がしてきてうれしいよな。」

そういって笑っていた。

とことん前向きな人だ。こんな人の奥さんになったら楽しいだろうに、なんで結婚しなかったのかも不思議だが、60歳とはいえそれなりの資産もあって悠々自適のこの人にお嫁さんが来ないというのも不思議だ。ダンディなイケメンなのに。

「旦那死んだらうちにお嫁においでよ。」
「はいはい。それまでに芸術家になっといてください。」
「任しとけ!んじゃな!」プツンと切れた。

そういうことは30年前に言うてほしかったわ。

その日のうちに、妹である友達からも電話があって「変なこと言うてなかった?」と聞くので「相変わらずやったわ。心配することないんちゃう?芸術家になるらしいよ」と言うとため息をついていた。

大人の発達障害もいろいろだ。。。



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