老化とマンガ

高校を卒業するまで暮らした自宅には、マンガというものが一つもなかった。

親はマンガもアニメも見なかったし、私が小学校の時に泣きながら「日曜日の夕方だけでいいからテレビのマンガを見せてほしい。私だけが話がわからない」と訴えるまで、一切のアニメも見せてもらえなかった。もちろんお小遣いでマンガを購入することも許されていなかった。

小学校の間はまだよかったが、中学校、高校と進学していくにつれて、自分でマンガ雑誌を買って友達の集まりに持っていかないということに後ろめたさを感じるようになった。自然にそういうお友だちと一緒に遊ぶ機会も減って、気がつくと「マンガを読まない人」という人物像が定着していた。

今から思えば、どこか歪な少女期を過ごしたわけだが・・・。いわゆる高卒デビューとでもいうのだろうか。家から離れて学校の寮に入った頃から、狂ったようにマンガを読み漁った。世の中はこんなに面白いもので溢れているんだと感動した。

同じように、ドラマやアニメ、ゲームにもどっぷり浸かり、今度は「オタクっぽい人」といわれるようになった。他のこともしっかり遊んでいたので、引き込もっていたわけではなかったのだが、ちょっとした時間を見つけてはサブカルといわれるものに没頭した。それらを実家に持ち帰り、破かれ焼かれた時の怒りはいまだに覚えている。

そんな実家だったが、あることをきっかけにあっさりとマンガOKになってしまった。

末の弟が中学1年生のある日、母に言った。「三国志買ってくるから、お金ちょうだい。」親は喜んで一万円を持たせた。よくある話だが、彼が買ってきたのは横山光輝さんの「三国志」で、「半分しか買えんかった」と続きを買うお金をねだったらしい。

親はビックリした。まさかマンガを買ってくるとは思わなかったので、大騒ぎになって「返してきなさい!」と怒鳴る。封を切って読みはじめていたので返品も叶わず。そこで燃やされなかったのは「三国志」だったからなのか、私には理解できない。ともあれ弟は姉達が絶対に許されなかった「家でマンガを読む」ということを平然とやってのけた。

母がマンガにハマり、自ら購入するようになるまでに、長い時間はかからなかった。弟が高校生になる頃には、「ガラスの仮面」と「王家の紋章」は出ているところまで全巻あった。それからも母はずっとマンガを買い続けているし、もう私たちのマンガについても文句を言わなくなった。

その頃、私は母の豹変ぶりに閉口していたし、溺愛される弟にもうんざりしていた。でも、いまならあの時母がマンガにハマった理由が少しわかる。

母は、その頃48才くらいだった。老眼が出始めて細かい字を読むのにちょっと抵抗を感じるようになる年代だ。それでも物語を読みたいと思ったら、ピントの合わない老眼鏡で長時間活字を追い続けるという苦痛を越えていかねばならない。ところがマンガでは風景描写や心情描写が一目でわかるように絵で描かれている。活字はほぼセリフのみだから疲れずに読める。だからハマっていったのだ。

私も歳をとって、既に当時の母を追い抜いているわけだが、活字が辛くなってきている。残念な本をがんばって読んで失望したくない。興味のある題材に関しては(この歳の専業主婦にしては)読んでいる方だと思うが、それでもスピードも理解力も若い頃に比べると落ちる。

同じ題材でマンガがあればそっちに走るし、アニメならもっと良い。と思うようになった。残念ながら、興味深い題材でそういったものは、まだあまり出てなかったりする。

キングダムとかも読んでるし、素敵なマンガは他にもたくさんあるけれど、今のお気に入りをちょっと覚書。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?