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結婚と食、どちらが長く続くのか

年末年始、久しぶりに神戸の実家に戻りました。

年老いた親を持つ人って、だいたい私と同じような状況だと思うんですが、
遠い場所に暮らしていて、久しぶりに実家に戻る時ってちょっとドキドキします。
正直に言いましょう。

親二人、ちゃんと健康的に生活できてるんだろうか?

と、半ば健康診断の結果を開封するような気持ちで訪ねるわけです。

今年も、ありがたいことに結果は良好でした。
・大晦日の夜に出してくれた料理はいずれも、たっぷりと新鮮野菜と魚と肉を使った、薄味仕上げの美味しいものだった。
・飲み物に合わせて、最も美味しく飲めるグラスを使ってくれた。
・私の好物をよく覚えていた。
・よく食べ、よく飲んだ(大人4人でシャンパン1本、ワイン1本、日本酒一升瓶1本。ちょっと飲みすぎか)。
・バスルームの隅に、父が庭で摘んだ水仙が活けてあった。
・ふとした瞬間に淹れてくれるほうじ茶やコーヒーが美味しかった。
……というミニチェック項目を多数クリアし、たった1泊だったけど、本当にうれしい気分で東京に戻ることができました。
私がこんなに厳しくチェックしてること、親は気づいたでしょうか。w

25歳と20歳で結婚し、今年で結婚53年目を迎える父と母。
途中、単身赴任などもなくずっと共に暮らし、
私と違って外食をそれほど好まない父は、会社が退けると一直線に帰宅していました。
専業主婦だった母は、なかなか料理上手だったのです。

が、今回、酔いも手伝って饒舌に昔のことを語ってくれた両親。
その中で、ちょっと驚いたことがありました。

母は昔、まったく料理ができなかった。

それどころか、結婚前は肉料理が好きだった母と違い、父は魚が大好き。
ですが、今では母は魚を上手にさばきます。
朝は「トーストと紅茶」を50年以上続ける母に対し、
父はずっと朝は和食でした。母が一人分の和食を毎朝作っていたのです。
子供ながらに「よくやるよ〜。私には無理」と思っていたのですが、
母曰く、「食事くらいしか、合わせられないではないですか」とのこと。

びっくりしました。確かに、二人は好みも性格も価値観もかなり違います。
食事の趣味だけは合うんだねと思っていたらそうではなくて、
ただ、お互いを思う気持ちで、徐々に食の好みを融合させてきた結果が今なのだと。

「食の趣味が合う」というのは、サステナブルな結婚生活のために最も必要なことだと
常々、思っていたのですが、
完全に同じ趣味を、独立した大人二人が持ち合わせる必要はないんですね。
そうではなく、「相手の食の姿勢も尊重し、何でも2人で試してみる」ことこそ、
長い人生を共に楽しく健康的に歩んでいくには、効果的なのかもしれません。

さて私。
会社を辞めた後もずっと、食を取り囲むライフスタイルをテーマに仕事を続けていけたらいいなと願い、
立ち上げた会社に「フードコンテンツ」と名を付けました。
日々変化していく食のトレンドを追いかけているのが、今、幸せです。
が、関われば関わるほど、食はトレンドだけでなく、時代の息吹きや人間のストーリーと深く関わるジャンルだと気づいてばかり。

半世紀もの時間を、機嫌よく楽しく暮らしてきた老夫婦を支えるものが
娘の私も知るよしのなかった、食との優しい向き合い方なんだと知り、
うーん、まだまだ身の回りにも、きちんと目を向けるべき食があるんだねと
発見した思いです。

母が作った赤かぶのお漬物をたっぷり持ち帰りました。
新年初のチャレンジは、この味の再現です。

みなさま、今年もどうぞよろしくお願いいたします。
楽しく、美味しい2020年になりますように。

#COMEMO #料理

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。