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ドキュメント落選

来てる、これは、来てる。

先週、ふぁにーちゃん(大田ステファニー歓人ちゃん)の記事がバズった。その波及効果でnoteもXもフォロワーが増えた。
その前の週に、村山由佳さんが私のnoteをxで紹介してくれ、そちらもバズった。

来てる、これは、来てる。

この流れで、金曜日、私は林芙美子文学賞の二次を通過するはずだった。
ふぁにーちゃんのおかげで通知が止まらないXを眺めつつ、私は合間に何度も林芙美子文学賞のサイト更新をチェックした。
昨年はこの日に発表があったのだ。土日は事務局の方々もお休みだろうし、発表するなら金曜に違いないと踏んでいた。

一向にアップされないサイトを見ながら、
「林芙美子賞、二次通過してました!」
と投稿する自分を想像する。

前回、「一次通過しました!」と投稿したときには、市川沙央さん、西村亨さん、屋敷葉さん、ふぁにーちゃん……と連載で取材し、xのアカウントを持っているひと全員がいいねをしてくれたのだった。

みんなが、こっちおいでって言ってくれてる……!!

脳内で勝手にそう変換し、あのとき私は多幸感に浸っていた。

これで二次通過したって言ったら、どうなっちゃうんだろう。でへへ。
まだ何も起きていないのに鼻の下がのびる。
ふぁにーちゃん経由、村山さん経由で私をフォローした人も「ほう、こいつ、一発屋じゃなくて、ちゃんと実力もあるわけね」と感心するにちがいない。

清は「実力」という言葉に非常にヨワイ。
喉から手が出るほど欲しい。

にじつーか!にじつーか!
心のスタジアムで全清が叫んだ。
が、とうとう夜になってもサイト更新はなかった。

そして土曜日が過ぎ、日曜日が過ぎ、月曜日である。

事務局の方も働き出す月曜日である。
私はそのとき、次回の連載の原稿を書いていた。
文藝賞優秀作を受賞した佐佐木陸さんの回だ。
最終選考に四回も残ったことがある強者で、しかし本人はそれを「落選は落選」と受け止めていた。
「落選」という言葉を連打しながら、縁起悪いな…とひとり笑いして思い出した。

そうだ、今日こそ林芙美子賞の二次、発表されてんじゃないの?

私は姿勢を正す。目をつぶり、手を合わせ、応募した作品を思い出す。タイトルは「そんなとこにはもういない」だった。うん、悪くない出来だった。去年の一次通過した作品より、進化しているはずだ。
だからきっと大丈夫。

えいっとサイトを開ける。「二次選考結果」とタイトルが出る。
キター!
祈る気持ちでスクロールしていく……。

「そんなとこにはもういない」
は、そこになかった。

サイトを閉じて、佐佐木さんの原稿に戻る。
パチパチと文字を打つ、ダメだ。
Xに書き込もうと携帯を取り出す。
「林芙美子賞……」と打ちかけて、
どう打っても痛々しい感じがしてやめる。
裏垢に、「落ちた…」と入れる。友達ががっかり顔のスタンプで返してくれる。
また、佐佐木さんの原稿に戻る。ダメだ。

なんで私、朝に確認しちゃったんだろう。
仕事終わりに確認すればよかった。さしさわりまくりすてぃ。
だって、当然通過してると思ったんだもん。
毎回だけど、その自信どこからくるん?
知らんよ、生まれつき自信があんだよ!
自分に期待すんのやめなー、まなべー。
うっせー!おれ、ちょっと走ってくるわ。

と、仕事が手に着かず、徒歩30秒のチョコザップに行って
15分だけ走る。
仕事は今日も山のようにある。
ありがたくも悲しい。

「実力」を今日も手に入れることはできなかった。
たしかにな、あれは屋敷葉さんの取材に触発されて急遽締め切り二日前に応募を決めて、過去作を突貫で大改稿して出したんだよな。だからダメなんだわ。
と、いう言い訳をする。
「実力」のせいだとは思いたくないから。

それから事務作業に打ち込む。でも脳のどこかではずっと誰かが「落ちた、落ちた、落ちた……」と呟いている。呟くな。

いつもの60%程度しか働けず、保育園お迎えの時間になる。
なぜかおいしい夕食が食べたくなって、めずらしくちゃんとレシピを見て「大根と鶏肉のガーリックソテー」を作る。「死ぬ前に食べたいもの」でいつも答える豚汁も作る。
子どもたちも美味しかったらしくバクバク食べる。
積み木で高い塔を作り、子どもから尊敬のまなざしを得る。
上の子がピカチュウを一生懸命描いて、その上達ぶりに目を瞠る。
その間もずっと、頭の中では「でも落ちた、でも落ちた、でも落ちた」と誰かが言っている。「でも」ってなんだよ。

な、なんじゃこりゃあ!!

お風呂上り、鏡を見て驚いた。歯が黒いのである。歯の神経死んだ人みたいに前歯が黒ずんでいるのである。念入りに歯磨きをする、でも黒ずみは消えない。
もしかして、虫歯に? いや、痛くない、しみない、血も出ていない。

あ、こ、これは……ステイン汚れってやつ⁉
ここ最近ずっと夜中まで仕事か小説をしていて、その間、眠気覚ましにイギリス人の勢いで紅茶をがぽがぽ飲んでいた。

歯の黒ずんだ小説家志望の41歳……。虚しい、なにもかもが虚しい。
この先、小説家になるなんて無理だという気に襲われる。
生まれ持った謎の自信をどこかへ失くす。
せめて、歯の黒ずみは取ろうと、指で歯の表面をこすってみる。

いつまで経っても、黒ずみは取れないのであった。

ひとが見な 我より書けそに 見える日よ








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