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読書メモ | 「Redefining Global Strategy」パンカジ・ゲマワット

2007年にハーバードビジネススクールのグローバル戦略の大家、パンカジ・ゲマワット教授が書いた論文の日本語訳。ゲマワット教授は16歳でハーバードで応用数学の学士号を取得、22歳でビジネスエコノミクスの博士号を取得している。日本語版のタイトルは「コークの味は国ごとに違うべきか」、なんて新書か何かみたいな名前だが、原題は"Redefining Global Strategy"でがっつり難しいことを言っているw

前提として、本書は2007年に原典が出版されているので、「グローバリゼーション」の姿が2024年の今とはまるで異なっている。当時は、グローバリゼーション=世界の差異がなくなる、と本気で唱えられていた。ゲマワットはこの考え方に異論を唱え、完全に国家間の差異が消滅したわけではない世界の状態を「セミグローバリゼーション」と捉え直し、戦略的にビジネスに取り入れるべしと主張する。

2007年時点の世界と2024年時点の世界は当然異なっている。中国はGDP2位の経済大国ではないし、世界の工場ももはや中国ではなく更に労働力の安い地域に移っている。本書に書かれている世界観は一定程度古く、2024年現在でどこまで有意義なのかはわからない。しかしゲマワットが活用する分析のためのフレームワークは今でも十分使えるのではないかと思う。そんなフレームワークを簡単にメモする。

国ごとの差異の捉え方:CAGE分析

国ごとの差異を捉える4つの軸として以下のものが有効。
C:文化的(cultural)ー異なる言語、民族の差異、宗教の差異、信頼の欠如、異なる価値観、規範、気質
A:制度的/政治的(administrative/ political)ー植民地関係がない、
G:地理的(geographical)
E:経済的(economic)

グローバル市場進出をするべきかの分析:Adding Value Score Card分析

それぞれの軸で+/-の評価を行い、総合的にグローバル進出すべきかを検討する。
Adding Volume 販売数量の向上
Decreasing cost コストの削減
Differentiating 差別化
Improving Industry Attractiveness 業界の魅力の向上
Normalizing Risk リスクの平準化
Generating Knowledge 知識の創造と応用

グローバル市場での戦い方:AAAアプローチ

Adaptation 適応ー進出先に合わせて商品・サービス・ビジネスモデルを変える e.g., マクドナルドはインドで羊肉のバーガーを売っている
Aggregation 集約ー地域ハブなどを作り、商品・サービスなどの規格化を図り、効率を上げる(その分、適用度は一定以上下がる) e.g., トヨタは世界を網羅した生産ネットワークを構築した
Arbitrage 裁定ー地域の差を活用し、グローバルで事業をマネージする(労働力の安い地域に工場を作るなど) e.g., 自国生産にこだわっていたレゴは、中国での生産に切り替えた競合に負けた

AAAアプローチは3つのうち一つを選んで進出するケースもあれば、複数のAを選択するケースもある。また、選んだアプローチは固定ではなく、事業ステージや世界情勢などに合わせて変遷していくべきもの。自社にとって有益なアプローチはCAGEやADDING Valueのフレークワークを使って常にウォッチしていく必要がある。経験の浅い企業はまずは一つのAからチャレンジしていくのが良い。

感想

ポップな邦題は裏腹に、かなりボリューミーかつ難解な本だった。レビューの中には、訳がいまいちとか、そもそも原著でも筆者がやたら難しい表現を使いたがるので解読不能みたいなコメントもあった。また、書かれた時代背景が今と異なるので筆者の目線を理解しづらいところもあった。
ゲマワット氏のより新たな知見に触れるため、2020年に出版されたこちらも読んでみようと思う。

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