医師と舞踊家が語る道、人の身体と心、死、西洋と東洋、アートと芸能、そしてこれからの世界(前編)

バリアージ舞踊団創設15周年記念公演「道」*公演が延期となり2019年12月21-22日@さいたま芸術劇場となりました)の開催に向けて、バリアージ主宰の舞踊家Chie Noriedaと東大病院医師の稲葉俊郎氏が「道」について、人の身体と心について、死について、アートと芸能について、そしてこれからの世界について語り合いました。(企画・文章 山崎繭加)

バリアージ舞踊団創設15周年記念公演「道」(延期公演2019年12月21-22日@さいたま芸術劇場)のチケットはこちらから

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西洋的価値観に対峙する「道」

稲葉俊郎氏:10月のバリアージ舞踊団15周年公演のテーマは「」なんですね。

Chie Norida:はい。宇宙観、死生観、人生観、宗教、哲学。あらゆるものの道の世界観を表現していきます。お客さんが舞台のエネルギーを体感しそれを共有するという空間を創れたら、と思っています。

稲葉:この間、アテネオリンピックの開閉会式の演出を手がけ、ピナ・バウシュの後継者とも言われているディミトリス・パパイオアヌーの「THE GREAT TAMER」を観に行ったのですが。

Chie:私も行きました。

稲葉:とても絵画的で。「道」という世界観と全然違いませんか。

Chie:違います。

稲葉:東洋の人たちが持っていた世界観や自然観、大切にしてきたものと、あの人たちがやっていることはずいぶん違うな、と。やっぱりそれは文化、文明、歴史の違いなのかな。

絵画的、名画のワンシーンというのは、確かに西洋の歴史だし、学校の教科書で習う「世界史」ですよね。だから、あれの東洋版をしないといけないんじゃないかと思って、それをブログにも書いたんです。あの公演にはいろいろ考えさせられ、悩まされました。

だからこの「道」というタイトルを聞いた時に、なんとなくほっとするものがあった。あの人たちのあの世界観に対峙するには、それだけの強度を持った、歴史観をもった何かが必要だと思っていたので。

Chie:よかった(笑)。

道教にも道が入っているし、華道や茶道にも道があるし、あとは方角の道もあったり。太陽が上って沈むという地球の軌道とか、あらゆる道を司るものを表現する中で、生への道、死への道を表現したいな、と思っています。あと、もちろんバリの道も。

稲葉:僕は横尾忠則さんが好きで、彼はすべてを透明な器で受け止める。THE GREAT TAMERも、美も醜も聖も俗も全部あそこに込める、詰め込む、という表現だったんでしょうけれど、横尾忠則の一枚の絵の方がよっぽどすべてを表しているのではないか、と、あの舞台を観ながら考えていました。

時代の流れからみても、巨大な母体から一部だけを取り出して喜ぶというのは違うのではないかな、と思っています。全体のまま、受け止める。

Chie:私もダンスという枠では収まりきらなくなったんです。最終的には、自分の身体を通してエネルギーを伝達する。それをみんなに感じてもらって、五感を拓いてもらう、というところにたどり着きました。

動物的臓器と植物的臓器

稲葉:五感は脳とか神経に直結している動物的臓器です。でも僕は植物的臓器、内側を支える内蔵の世界の方が生命を担っていると思っています。内蔵は人間の意志で動かせません。

都市型社会、脳化社会になると、五感を拓く・整えるということが大事になる。そういうことはよく言われていて、それも大切ですが、僕は内蔵的なものと調和する、対話することがもっと大事だと思っています。

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Chie:内蔵と調和する、対話する、というのはどういうことでしょうか?

稲葉:もともと女性には月経があります。それは自然の周期やリズムと共鳴しているということで、まさに内蔵との対話。身体の臓器は月の満ち欠けや四季などの自然の周期と共に動いている。女性はそういうものを感じやすいのですが、男性は妊娠もできないし月経もないから、自然の周期から離れやすいんです。

僕が日本の「舞踏」(土方巽によって舞踊に対立するものとして創設された踊りのジャンル)が好きなのは内蔵的な動きだからです。筋肉を動かすというより、内蔵が動いたら身体が勝手についてきた、みたいな動きです。この間のギリシャの舞踊団の人たちは、まさに動物的で、脳や脳神経、五感の世界でした。

一方「道」の世界というのは、どちらかというと僕らの中にある植物的な世界の尊重している世界だと思います。自然と一体化した宇宙観というか。

Chie:私は踊るとき呼吸で動いているんです。

稲葉:呼吸は内蔵から派生したものですから。水中にいたときはえら呼吸、つまり内臓そのものの呼吸で、呼吸も食事も同じ動作でした。陸に上がってから肺呼吸になり、呼吸と食事が別のものにわかれましたが。

Chie:そうなんですね。私は呼吸とともに流れる踊りにしています。呼吸がないと動けない。筋肉で動くのでも、脳で動くのでもなくて、呼吸で動く。呼吸の先に身体がどう動きたくなるか、ということを大事にしています。

稲葉:呼吸も東洋の身体観ですよね。西洋の身体観は、ビート、心臓のリズムで、合わせやすく客観性がある。東洋は呼吸のリズムで伸び縮みする。これもまた、その二つのよいバランスがあるんでしょうね。それぞれが違うところで独自に進化してきたもの、異なる文明が出合ってきている。

Chie:3歳からモダンバレエでそのあとジャズもやっているので、そうした西洋の身体観も染みついています。でも最終的に民族舞踊に興味が湧いてきて、バリ舞踊にいきました。

稲葉:普通湧きますよね。民族舞踊が一番プリミティブ(原始的)だしナチュラル(自然)だし。あれをすっとばしてすごく複雑な話にいくっていうのは、どうかなあと思いますよね。

Chie:地位、名誉、売れたい、自分の身体をこうしたい、という欲があると、そうした方向にはいかないですね。自分自身も20代はそういう欲だらけで、欲が全部なくなった時に、興味を持つようになりました。変形性股関節症と診断され10年後には歩けなくなると言われたのが、きっかけでしたね。目の前真っ暗になって、その後「歩けなくなったら車いすダンサーになればいい」と吹っ切れたのですが。

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身体を、宇宙を、全体性で捉える

稲葉:身体に違和感が出ている時は、身体の使い方が間違っているんです。そのまま行くと必ず何らかの心身の異常が起きるという前触れ、だと思います。

自分も医者ですが、医者にも責任がありますよね。これは○○症ですよ、という話じゃなくて、その人のライフスパンの中で今身体が言ってきていることをどう位置づけるのか、そしてどう次に展開していくか。そういうことを医者はちゃんと見立てて共有しないといけないと思っています。医者が言うことは重いので、ちゃんとした言葉を渡さないと、呪いのようになっちゃう人もいる。Chieさんの場合はよい方に展開したからよかったけど。

Chie:でもそういうお医者さんってなかなかいないですよね。

稲葉:身体の身になって現象を見ていないんです。教科書や生理学理論に従って身体を見ている。そして結果しか見ない。身体を全体性から捉えると身体に起こるすべての現象に意味がある。もともと四足から二足歩行になったこの身体は、結構不安定なもので、椅子に座ることですら身体の構造上無理がある。その上専門的な、楽器、ダンス、パソコンなどの特殊な動きを繰り返していくと必ず金属疲労を起こします。医者はそういうことを把握した上で、言葉を投げかけないといけないと思っています。

Chie:東洋医学のほうが自分の考えに合います。

稲葉:東洋医学は全体性を捉え、全体の中の現象として観る視点が常にあります。身体だけでなく自然や宇宙に対しても。西洋医学だけやっても解決していなくて、こぼれているものがある。学校では習わなかったけれど、民俗芸能なんかも意味があるのではないかな、と。

医療者としては生命や身体に関わることについてもっと広く興味を持った方がいいと思っています。ダンスや芸術に携わる人も、一部のものしか見ずにこれがアートだとかダンスだとか言うのではなくて、もっと広い視点で捉えないといけない。ぜひChieさんにはそのあたりを突破してもらいたいです。

Chie:ダンスを超えて知りたいので、バリアージのメンバーたちを連れていろいろな先生から学ぶ機会を作っています。この間は、漢方医の先生に来てもらいました。3時間の講義では一ミリぐらいしか学べないけれど、でもその一ミリを知ったことでその先には膨大な世界がある、というのが見えたし、メンバーにも伝えられてよかった。そういうのを続けていないと頭打ちになる。バリアージをただのダンスをする舞踊団にはしたくないんです。

稲葉:そういう意味でもこの「道」というタイトルはいろんなものを含んでいるのがいいな、と思っています。実際日本人という人たちは「○○道」にしたがる。そこに僕らの感じているものは何なのか、というのはすごく大事だと思います。ただの術ではなく道。柔術ではなく柔道。剣術ではなく剣道。ただの術ではなく道。メタファーという意味でも道というのはすごく好きです。

Chie:ありがとうございます。でも「道」は膨大すぎて大変だなと思っているんですが(笑)とはいえ、非言語表現だからこそ、それだけ広げられるかな、というのはあります。

自然とつながり表現する

稲葉:質問なのですが、バリの舞踊で、手先と目をすごく使いますよね。あれには何か必然性があるのですか。

Chie:きちんとバリの人に聞いたことはないので、私なりの解釈になりますが、人間でないものを表現する上で必要なのかな、と思います。

バリ舞踊って、すべてが逆なんです。肘、手首、全部ついている向きと逆にします。身体も反らせて中腰で、その上すべてを反らせて動いていく。これはすごくいびつで、でも流れはスムーズで自然で。私自身はこの相反する部分にとても惹かれたんです。

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稲葉:僕らの身体は、構造上こっちに動く、というのがあるけれど、そればかりやっていると身体は一方向に向かうので逆にバランスが崩れる。だから時々逆をやることがある種の儀式として必要で大切なのかもしれませんね。

Chie:中腰だから、地球とつながって大地からエネルギーを吸い込んで、それが天とつながって、どんどんエネルギーを放出しているような感覚です。根っこから吸って、枝がぐーっと張って広がって。

稲葉:確かにバリ舞踊は木のような感じがありますね。植物は基本動かないけれど、もし動くとしたらこういう動きだろうな、という。

Chie:これはすべて訓練でやっています。木になれ、とか。土になれ、とか。土も湿り気がある土なのか、砂漠のようなさらさらした土なのか。いろんなものの感覚をイメージにして動くようにしている。

稲葉:それはいいですね。僕はよく小石川植物園に行くのですが、虫や鳥やいろんなものが一つの宇宙として循環しているのを感じます。鳥が飛ぶ。糞を落とす。それが栄養になる。時々は種子を運ぶのでそこで花が咲く。生き物同士、気、葉っぱ、水が、複雑に影響し合っている。止まっているように見えるけれど、裏でたくさんのやり取りが行われている。

都市はそうしたものを切断してきているので、自然につながって感じるというのはこの時代とても大切だと思います。概念的な知識として頭で取り入れるのも必要ですが、身体感覚として、自分の身体の表現として追体験するというのはとても大事な気がしますね。

Chie: 私は感覚と言語と身体表現のすべてがつながっている。そういう人たち、もっと豊かな人間が増えていかないとまずいな、という危機感があります。自分が身体を通じて学んできたことを伝え続けることが使命だと思っています。

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後編へ続く>

稲葉俊郎:1979年熊本生まれ。医師、医学博士。東京大学医学部付属病院循環器内科助教。心臓カテーテル治療や成人先天性心疾患が専門。2010年より往診による在宅医療も行い、学生時代より山岳医療にも従事(東大医学部山岳部監督)。2011年の東日本大震災をきっかけに、医療があらゆる領域との創発を起こすために、様々な分野を横断した活動を始める。著作『いのちを呼びさますもの―ひとのこころとからだ―』(アノニマ・スタジオ)、『ころころするからだ: この世界で生きていくために考える「いのち」のコト』など。HP:https://www.toshiroinaba.com/

Chie Norieda:舞踊団Baliasi創立者・舞踊家・振付家・演出家。3歳よりモダンバレエを始め、モダンジャズ他を学ぶ。阪神淡路大震災をきっかけに人生を全うすべくダンスの道へ。アーティストサポートダンサーとして、コンサート、TV、CM、PVなどに出演。ダンスコンテストでも数々の優勝に輝き、Janet Jacksonからも評価を受ける。2003年渡バリ。バリ舞踊習得のため、国内外でも有名な舞踊家Cokorda Istri Putri Rukuminiに師事。帰国後、「美と癒しの異空間」をテーマにオリジナルアジアンダンス『Baliasi(バリアージ)』を確立。多分野アーティストとの様々なコラボレーションを行い、日本に限らずイタリア、シンガポール、ハワイ、チェコ、スペイン、NY、ロサンゼルス、バリの他、平昌冬季オリンピックオープニングセレモニー招聘(Izanami Project)と海外でも注目を浴びている。




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いけばなをビジネスの世界につなげる活動をしながら、経営誌の編集や、執筆、講義・講演などのお仕事をしています。

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