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東京お散歩日記#2(丸の内)

お散歩日記(丸の内)

・・・1月◇日 くもり ・・・

今日はとても寒くて、風の強い日だった。
丸の内はオフィスビルだらけなので、いわゆるビル風のせいで余計に吹く風が強く、歩いていても頬が痛い。今にも雨が降りだしそうなくもり空の下、最初に向かったのは、丸の内仲通りにあるローズベーカリーだ。

開店と同時に入店し、窓側にある二人掛け卓に席をとる。
コムデギャルソンに併設されているこの店は、ガラス張りで開放感があって、通りを行き交う人たちがよく見える。。―ということは、逆に通りを行く人たちからも自分の姿が丸見えなのかもしれないけれど。

注文したのはクリームティーセットで、紅茶はブラックティーを、スコーンはプレーンを、ペストリーはキャロットケーキを、それぞれ選んだ。

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クリームティーがくるのを待つあいだ、外の景色をぼんやり眺める。

すぐ目の前に、ブリックスクエアがある。なんだかラグジュアリーな建物だ。そして通りを行き交う人たち。オフィス街なのでスーツを着た人の姿を多く見受けるが、場所柄、観光客の人たちもちらほらいる。

向こうから、いかにも観光客然とした親子が歩いてきた。
アジア系外国人とおぼしきその父親は、一眼レフカメラを首からぶら下げていて、手には青い紙袋を持っている。おそらく目の前のブリックスクエアにあるエシレ・メゾン デュブール*の紙袋だろう。そしてその息子であろう少年は、日本の子供と変わらず携帯ゲーム機を胸に携えながら、あまり街には興味なさそうに、父親のあとをのっそりとした歩調でついていく。
          *フランスの発酵バターであるエシレバターの専門店

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そういえば、この店にはBGMがなかった。
ゴウゴウと空調の鳴る音と、ゴリゴリとパンを切る音だけが聞こえてくる。そして窓ガラスには、カウンター内にいる店員さんたちが働く姿がうっすらと映っていて、ぼんやりしている自分の姿もまた、通りに透けるようにして映っている。

そのまま外の様子を眺めていると、あ、と思った。
二人組がすうーっと道のうえをすべるように動いていく。何かと思えば、それはセグウェイだった。「i」とロゴの入ったセグウェイを運転しているのは、どうやら街のコンシュルジュこと案内人らしい。近未来的だなあと私は驚いたけれど、道行く人たちはさして気にしていない様子なので、このあたりで働く人にとってはわりと見慣れた光景なのかもしれない。

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しばらくすると、クリームティーが運ばれてきた。
丸いお皿のうえに、ぽってりした円柱形のキャロットケーキと、ごつごつとしたスコーンがひとまとめに載っている。そして小さな二つのガラスボウルのなかには、クロテッドクリームと、ラベンダー入りのアプリコットのジャムが、それぞれ入っている。

ブラックティーを一口飲んでから、さっそくいただく。
ほんのり温かいスコーンはさっくりしていて、粉の風味もしっかり感じられて、そのままでも十分おいしい。ねっとりしたクロテッドクリームをつけて食べればさらにおいしく、オリジナルだというジャムをつければ、さらにさらにおいしい。

そしてローズベーカリーといえばの有名なキャロットケーキ。
刻んだ人参やクルミがふんだんに入っているスポンジ生地は、シナモンの風味ゆたかでスパイシーで、濃厚なクリームチーズのアイシングの甘さと合って、とてもおいしい。ぱくぱくと、フォークを持つ手がとまらない。

どうも自分は昔から、甘い野菜を使ったデザートに目がない。
人参とか、さつまいもとか、南瓜とか、そうした野菜を使ったデザートやお菓子があると、むしょうに惹かれる。なぜだろう。甘すぎないからか、罪悪感から逃れられるからか。そういえば、子供のころ母がよく作ってくれていたホットケーキにもすりおろした人参がたっぷりと入っていた。記憶の刷り込みもあるかもしれないけれど、やはり甘い野菜を使ったデザートはおいしいと思う。そしてここのキャロットケーキもまた、期待を裏切らないおいしさだった。

まだ午前中だというのに、クリームティーをきれいに平らげてしまった。
本来なら、午後のティータイムに優雅にいただくのがクリームティーなのかもしれないけれど(クリームティーとはアフタヌーンティーの一種で、スコーンと紅茶を組み合わせたもの)、たまにだし、朝ごはんもちゃんと食べたし、好物だからと、誰に言うでもなく胸のうちで言い訳してみる。ペストリーが付くおかげで結構なボリュームがあるので、お腹はとても満たされる。

気がつくと、店は満席になっていた。
デリやペストリーがずらりと並ぶカウンターを囲むようにして配置されている席すべてが女性のお客さんたちで埋め尽くされていた。

ほどよい賑わいのなか会計を済ませ、店を出ると、さっきよりも寒さが厳しくなっているような気がした。今日は午後に日比谷で映画を観る予定があるので、それに遅れないよう、時間を気にしながらも丸の内の街を歩きだす。

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オフィスビルが建ち並ぶ丸の内仲通りは、いかにも洗練されたショッピングストリートで、清潔で、折り目正しい空気が流れているような気がする。
丸の内には普段あまり訪れないので、久しぶりにくると、やたら落ち着きなくきょろきょろあたりを見回してしまう。

風がますます冷たくなってきた。
電飾の施された裸の街路樹がやけに寒々しく、明かりの灯らない電飾は木から無数に生えたトゲトゲみたいにも見える。

通りには誰かの作品であろうオブジェがところどころに置かれてあって、暖かい日ならばゆっくり鑑賞していくのも楽しいかもしれないが、なにせ寒いので、のんびり散歩のつもりがどんどん早足になってしまう。

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丸ビルに辿り着き、暖を取るような気持ちで急いでなかに入る。息をつき、そのまま建物を通り抜けるようにして入った側とは反対側のエントランスからビルを出ると、東京駅が目に飛び込んでくる。

2012年に復元工事を終えた東京駅の丸の内駅舎は精巧で美しく、遠目で見ていると模型のようにも見えてくる。駅前の広場もきれいに整備されてあり、今日もたくさんの人たちが行き交っている。

東京に住んでいても案外、東京駅には来ないものだ。だからこうして改めて眺めていると、ちょっとした観光気分を味わえる。レトロな赤レンガの駅舎の向こうには高いビルが何棟もそびえていて、今と昔が混在しているような不思議な景色にも見えてくる。

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時間にあまり余裕がないので、どこに行こうかとまごまごしながらも、とりあえず近くにある商業施設KITTEに入った。この名前、日本郵便がつくった施設なので、「切手」と「来て」に掛けての名称らしい。

入ってすぐ、吹き抜けのアトリウムは大きな三角形の空間で、ガラス張りの天井のおかげで開放感があって気持ちがいい。もし晴れていたならば燦々と太陽の日が降り注ぎ、今日よりもっと明るいのかもしれない。

KITTEは、このアトリウムだけでもなかなか見応えがある。
首を痛くしながら天井を見上げて開放感を味わいながらも、どうもこういう吹き抜けの空間にいると、上からなにか落ちてきたらどうしよう、なんて心配なことを考えてしまう(ただの杞憂)。逆にフロアをのぼり、上から見下ろしてみると、行き交う人たちの姿が小さく見えて、面白いような、若干足のすくむような感じもする。

本屋や雑貨屋など、いくつか気になる店を足早にめぐったあとKITTEを出て、また丸の内仲通りへ戻った。その途中、タクシーを多くみかけた。不思議とどのタクシーもイギリスのブラックキャブのようなかたちの黒いタクシーばかりで、そしてダブルデッカーのような赤いバスも見かけるものだから、東京駅にいるのになぜかロンドンが頭に浮かび、ちょっと可笑しな気分になる。

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そろそろ日比谷に行かないと映画に間に合わなくなるので、急いで通りを歩いていく。それなのに、ふいにブリックスクエアが気になって立ち寄ってしまったのはきっと、エシレの存在があったからだ。ひょっとすると、午前に見かけた観光客が持っていたエシレの青い紙袋が脳裏に残っていたせいかもしれない。

通り過ぎさま、気になって店のなかをのぞいてみたら、普段は混雑しているはずの店がタイミングよく人もまばらだった。しかもバターの香りなのか、焼菓子の匂いなのか、店の外まで甘い匂いがたちこめている。これはもう入るしかない!と甘い匂いに誘われるようにふらりと店の扉を開けると、目の前のショーケースにはエシレバターが各種並び、そのとなりにはマドレーヌとフィナンシェがカゴにきれいに山盛りされてあった。

なんだか随分と焦げ茶色だなと思った。エシレのマドレーヌやフィナンシェは、自分が普段よく食べているものよりも色が濃い。となると気になるのは味、なので、物見高く買ってみようかとレジに向かうと、「○○番の方」と店員さんが番号を告げていた。どうやら整理券を受け取ってから買う仕組みらしく、しかも他にも会計の順番待ちをしている人がいることが判明し、結局あきらめて店を出た。

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べつに今日買うつもりもなかったし、日頃気にしてもいなかったくせに、買えないとなるとむしょうにエシレの焼菓子が気になってしまう。でも仕方がない。ちょうどすぐそばにある三菱一号館美術館で今度開催される「画家が見たこども展」のポスターを見かけ、観に行こうかと思ったところなので、そのときにでも再度チャレンジしようと心に決めて、急いで日比谷へ向かう。甘い匂いを鼻に残しながら、でも映画には時間ぎりぎり間に合った。

◇◇◇ 今日のお散歩写真 ◇◇◇

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くもり空の丸の内

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洗練された街にある丸の内仲通り

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水玉模様に囲まれているコムデギャルソン

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併設されたカフェRose Bakery

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クリームティーセットのペストリーは好きなものを選べる

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キャロットケーキの断面 人参とクルミがたっぷり

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ブリックスクエアの建物と電飾の巻かれた街路樹

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いろんな作品が目にたのしい丸の内ストリートギャラリー

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赤レンガの外壁が美しい東京駅丸の内駅舎 

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背後には高層ビルがいくつも建っている

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旧東京中央郵便局舎を一部保存しているKITTE(JPタワー)

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アトリウムは天井からの光で明るい
KITTEの内装デザインは隈研吾さん

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ふたたび戻ってエシレ・メゾン デュブールへ
しかし時間がなくて買えず、次回のたのしみに

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エシレの甘い匂いただよってくるブリックスクエアの中庭
この奥に三菱一号館美術館の入り口がある

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日比谷ミッドタウンにあるTOHOへ駆け足で到着

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映画のあとはミッドタウンの地下広場へ
アーケードがきれい

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お読みいただきありがとうございます。