うどんおじさん
「私はうどんが好きなんだ、本当なんだ、頼む、うどんが好きなんだよ」
うどんおじさんは突然現れた。
僕が行く道を阻んでいる。
うどんおじさんといっても、見た目は普通のおじさんだ。ただ、うどんが好きらしいので僕がそう名付けたのだ。
「うどんが好きなんだ、頼むようどん」
何を頼んでいるのかわからないけれど、多分うどんが食べたいのかな。僕は訊いてみた。
「うどんが食べたいの?」
「うどんが好きなんだ、本当なんだ、本当に好きなんだよ、頼む」
「何を頼んでるの?」
「何も頼んでいない、私はうどんが本当に好きなんだよ、お願いだよー」
うどんおじさんは何も頼んでいなかった。ただ頼むという言葉を発していただけだった。
一人称が私だ。上品なおじさんだ。
うどんおじさんと話していると、どうも僕の方がうどんを食べたくなってきた。
「おじさん、うどん食べに行くけど、どう?」
「うどんが好きなんだ、本当なんだ、お願いだ、好きなんだよー」
多分行かないのかな、と思い方向を変え、近くのうどん屋に一人で行くことにした。するとうどんおじさんは僕についてきた。
うどんおじさんは向かう途中、ずっとうどんが好きなことを僕に教えてくれた。あまりにうどんうどん言うので、僕は早く食べたい気持ちでいっぱいだった。
店内に入り、僕は冷やし肉とろろぶっかけうどんとろ玉付きの並をネギだくで頼んだ。うどんおじさんは何も頼まなかった。
お冷を取って席に座る。目の前には輝かしい肉と卵、とろろやネギ、そして麺。僕は思わず息を飲んだ。
割り箸を割る。
するとうどんおじさんは僕の目を見て
「邪道だな」
と呟くのだった。
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