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親の背中をみせるということ

私は10代から絵を描き初めて、美大に入ってからはかさみ続ける絵の具代のために大道具などでアルバイトをしたりしていた。初めて仕事をした大道具屋の親方は叩き上げの人で、とても厳しくて 何も教えてはくれず見て空気を読んで頭で考えて動け!という典型的な職人さんだったから、10代の頭デッカチで実社会経験が全くない美大生の私は、全く使えなくて怒鳴られてばかりでビクビクしながら働いていた。朝早くから夜遅くまで、怒鳴られながらヘトヘトになって働いていたある日、いい加減ビクビクするのがいやになって、私は親方に怒鳴り返していた。
「わかんないからきいてんじゃないかっ!!なんなんだっ!!」と。
どういうわけか、それから親方は急に優しくなって、飲みにつれていってくれたり、仕事で使う ハケ を、制作に使えと、沢山くれたりするようになった。
職人にとって、手足のように道具は大事だと言う事。整理整頓しながら作業することがとても大事だと言う事。沢山学ばさせてもらった。
そう、私達は、ハケや筆がとても高価で大切だから一緒にお風呂に入ってシャンプーしたりするほどだ。
今は、100均で安い筆が売っていたりするから ハケや筆を使い捨てにする作家さんも見受けられてそんな時代なのか!?とビックリする。が、やはりわたしは一緒にお風呂に入って自分の頭より丁寧に洗いたい。
大工の夫も、道具は商売道具なので 安易に人に貸したり触らせたりはしない。道具Loveだ。
だから、我が家では<道具は大切に>が合言葉だった。

先日、家族で通う木工工房で大勢の人が集まるイベントがあった。子供達がわちゃわちゃ遊んでいた時、よその子が、工房の鋸をこっそり持ち出そうとした場面を我が家の11歳がみつけたらしい。
その時、我が家の11歳は彼に、「人の大事な道具を無断で使ってはいけないから、使いたいのなら道具の持ち主にきいてきたらいい」と伝えたらしい。
また、斧や鑿の刃先が繊細でボロボロになると困るのも知っていて 倒れていた斧をそっと立て掛けていた。
どうしてそう思ったのがきいたところ、
「道具は大切な手足なんでしょ」と返ってきた。

7歳までの子供には、言葉ではなくて行為で見せて教えるといいとは聞いていたけれど、ああ、本当なんだなとつくづく思った。
今日も我が家のお風呂には、かれこれ30年前位に親方にもらったハケが気持ちよさそうに、湯浴みをしている。


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