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Summer of 85/ダヴィドが言っていた「スピードを超えた先で叶う願い」とは

Summer of 85。死と友情と友情以上の愛と、若さゆえの足元が崩れるような不安定さ、そして愛することそのものについての物語。

本当に忘れられない映画でした。Amazon primeで自宅のベッドの中で見たのですがスクリーンで見たかったと凄く後悔しています。

見終わったあとも少し乾いた質感の全てのシーンが脳裏にこびりついて忘れられなくて、Filmarksとかブログとか、考察を見漁っていました。たくさん考察を読んでいたけれど一つだけ納得した答えを見つけられなかったものがあって。それはダヴィドの言っていた「スピードを超えた先で願いが叶う」の意味。スピードを超えた先でなぜ願いが叶うのか、願いとはなんだったのか、中々自分の考えとピタッとくるものがなかったので自分で書いてみようと思います。


ダヴィドの死への覚悟

結論、ダヴィドは始めから自分が死ぬことが分かっていたのだと思います。予知とかそういうものではなくて自分の命を終わらせることへの覚悟みたいな。一番それが分かるのは彼の刹那的な生き方。色んな人と恋に落ちて、恨まれると分かっていても適当にボートなんか返さずにいたり。死を覚悟するようなスピードでバイクを走らせたり。死が遥か遠くにある人には到底できないような生き方です。

そして櫛に不相応なナイフみたいな効果音。それが鳴るたびダヴィドにナイフでの死が思い浮かびました。死とダヴィドは物凄く近い位置にいたし、ダヴィドもその覚悟があった。ダヴィドがなぜそんな覚悟をしたのかはわからなかったけれど、確実にアレックスに出会う前からその覚悟があったと思います。

アレックスと出会う前からあった死への覚悟

アレックスというこれ以上ない相手に出会ったから死んだ、みたいに語られることも多いですが私はそうではないと思います。

アレックスと出会う前から確実に死への覚悟はしていて、でも中々踏ん切りがつかないまま生きていて。そんな中アレックスと出会う。自分がこれから近いうちに死ぬことは決まっているのにアレックスとはこれ以上ない特別な関係になっていく。死ぬことは変えられないから、大好きなアレックスと「どちらかが死んだら墓の上で踊る」という誓いをたててアレックスとの関係を永遠のものにする。

彼がアレックスと出会ってから死ぬことを決めた、というのは私は少し違う気がします。死の覚悟をする前にアレックスと出会っていたら、彼は死を選ばないはず。

死人との特別な関係としてアレックスを縛り付けておきたいという歪んだ愛、そんなものを抱いて死を選んだ、それも違うと思います。そんなのダヴィドがダヴィドらしくない。彼はもっと飄々と生きている人間です。

そもそも、この映画はアレックスの一人語り、アレックスの視点で全てが描かれる。映画の描写ではダヴィドが歪んだ愛を抱きそうな人間に見えるけれどそれはアレックスが描いたダヴィド像でしかない。

アレックスが深く関わっていない場面のダヴィドはそんな歪んだ愛を抱くような人間のように描かれていない。アレックスと深く関わっている場面だけそういう風に描かれる。つまりアレックスがダヴィドをそういう風に見ていたというだけです。

つまり、彼は死への覚悟をアレックスに出会う前からしていて死は近い未来に起こる確定事項だった。そんな中アレックスと特別な関係になってしまったので彼と自分の関係を現世に残しておくために墓で踊る誓いをたてた、ということだと思います。

スピードを超えた先で夢が叶うという話

ダヴィドはバイクをあり得ない速度で走らせて、「スピードを超えた先で願いが叶う」なんて言っていました。アレックスはそんなバカな、とか言ってた。でもダヴィドの中ではスピードを超えた先にはそのままの意味で死が待っていて。それが夢が叶うっていう意味だったのだと思います。彼は死への覚悟はしていて、でも踏ん切りがつかなくて生きていて、だから「願いが叶う」というのは「死ぬ」ってことです。中々踏ん切りが付けられない自分と決別して死ぬことができる、だから願いが叶うんです。

なぜもう飽きたと突き放したのか

墓の上で踊る誓い。あの時ダヴィドはアレックスが思っているより何倍も真剣に愛を伝えたのだと思います。死んでも現世に残しておきたいくらい大切だった二人の関係性。愛するアレックスを永遠に自分のものにしたかったダヴィドの願望、愛。

ではなぜそんなに愛するアレックスをもう飽きたと突き放したのか。私はきっとアレックスをもう飽きたと突き放したのも同じように愛だったのだと思います。

大好きだから死んだあともアレックスを縛り付けておきたい愛、だけどそれと同時に自分のことなんか嫌いになって忘れてほしいっていう愛もあって。それは相反するものだけど彼もまだ若い人間。その愛が故にアレックスを余計悲しみに陥れることになるけれどそれも若さ故の脆さ。

終わりに

Summer of 85。ものすごく刹那的で難しくて美しい、愛と死の物語。またいつかスクリーンで見たいです。

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