2 言葉を紡ぐ

脳内を駆け巡る混沌。
まるで宇宙。
目を閉じればブラックホール。
ところどころ光る神経。記憶の糸、思考の糸。絡まり合って、結合して、1次構造から3次構造へ。生成された、巨大化した得体のしれない未確認生命体がうごめく。そうして4次元へ。脳のクラウドに保存されているDNA。年月を経るごとに発現していく。確かに人間に宿る知能。掴めやしない、証明できやしない、無数に浮かぶ魂。

糸を表現する幾多の方法。音、絵、動き、言葉。
どれも決して完全ではない。欠落が芸術を生む。抽出された場所が込められた思いを映す。抽出の仕方が成熟の度合いを示す。荒削りなもの。未熟で新鮮で斬新。洗練されたもの。一切濁りのない透き通った真骨頂。

言葉の弊害。言語の壁。しかし時にそれは壁ではない。言語による壁の加工がツールとなり表現の一部になる。壁を扱える者には表現の能力が与えられる。その壁は千年以上も前からディティールが施されてきた。壁の匂い。褪せた色。地に根付いている。言語を学べばその地に生きる人の足跡が遠くから聞こえてくる。

日本語が魅せる美。ひらがなの流動的で虚ろな羽衣と、象形文字である漢字が造形する立体の骨組み。日本語の音から流れる色。合わさって日本の地で培われる言霊。それが輝く姿を見る俗人。それを纏う天女。

そんな日本語で、日本で過ごし日本語で思考を繰り返した私の心を、奥の奥が透けて見えるまで言語化したい。

表現は複数の方法が合わさるとまた形を変える。音や絵は、言葉との交響(シンフォニー)を成して、歌や絵本、映画となる。ホール全体に響き渡るその多面的、多角的な相互作用が心の周波数に共鳴する。そのような空間形成を。美しい世界。

しかしこの場所では言葉だけの表現に敢えて固執する。巧みな言葉遣いで極限まで読者を連れていこうとするその営みに、妙に惹かれる。多彩な音も色も使わない。真っ黒なキャンバスが文字で飾られて、想像の世界が独自の映像で満たされる。

比喩。
それはまさに足りないピースをカバーする。言葉と感覚との隔たり。それは理解に到達するまでの翻訳作業。一つの単語に対して一人一人心に持つものは異なる。それを比喩の工夫が補助する。言葉の枠組みを超えて感覚に昇華する。共感への永遠なる道のり。

一つのカップに表現のエッセンスが注がれ、混ぜ合わされ、化学反応により魔法の泉となる。泉から湧き出るものの一つ、言葉による表現の方法として個々に与えられた能力。泉の液体の性質は皆違う。液体同士も化学反応を起こす。性質を知れば起こしたい反応をきっと起こせる。

色々なエッセンス。
言葉でたくさん伝えられる。話すのが得意。書くのが得意。言葉で伝えるのが苦手。でも受け取り方に長けている。聞くのが得意。読むのが得意。
どれがどのくらいの分量で入っているかが少し見えやすくなれば、その分表現は高みに近づく。

言葉を書くことを通して、今から私はどれだけ共鳴、共感への道を切り開き、進んでいけるだろうか。
私の中にある絡まり合った糸が集合した大きな埃を解き、正しい構造に戻して公共の場に放し、新たな価値を付けていく。

それが、言葉を紡ぐということ。

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