見出し画像

小説(5):革命

彼女の教室に向かう廊下で僕は彼女がどのような人であるか色々と想像していた。

まさか裸眼ではないだろう。
眼鏡をかけているに違いない、僕は裸眼だが頭の良い奴の大抵は眼鏡と決まっている。
運動も少しはできるだろうか、勉強ばかりでは体に毒だ。
というかなんだあの苗字は、難しすぎないか、人生でずっとあの苗字を書き続けたら五日は普通の人より鉛筆を持つ時間が長くなるだろう。

そうこうしている間にD組の教室が見えてきた。
廊下から教室を覗き込んで、近くの話しかけやすそうな男子生徒を見つけ、「あのー、齋藤紅さんいますか?」と尋ねた。
彼は「えーっと、多分運動場で遊んでるんじゃないかな?」と言った。

なんだ、滅茶苦茶活発な女の子じゃないか、こりゃあ眼鏡はかけてなさそうだぞ。

僕は彼に礼を言い、今回は諦めてまた明日にしようと思ったその刹那、
「紅ー、あんたが鬼になったらすぐに捕まえられちゃうじゃーん。もう少し手加減してよー」「えー、そっちこそもっと本気で走ってよねー」
という声が廊下の少し先のほうから聞こえた。

お、鴨が葱を背負って来たぞ、と、思ったり思わなかったり。
僕はそんなに社交的ではないしそんなにやすやすと女の子に話しかけられるようなメンタルを持ち合わせているわけではないが、ええい、この際そんなことどうでも良い、頑張れ自分、頑張れ自分。

さっきの威勢はどこへやら。

「あのー、齋藤さんですか?」
「はい、そうですけど・・・」
「僕上野涼っていいます。学力テスト、確か、席次二位でしたよね?」
「あ、もしかして一位だった上野君?すごいね!私勉強で負けたの初めてだったよ。よろしくね!」
僕は矢継ぎ早で放たれる言葉におうおうと頷くしかなかった。
なんだなんだ、想像よりはるかに元気で活発な女の子じゃないか。
しかも裸眼、まあまあ可愛い。
「あ、知ってたんだ。こちらこそよろしく」
僕はできるだけ平静を装って答えた。
「上野君もう何部に入るか決めた?私陸上部に入ろうと思ってるんだよねー」
おいおい、会話の流れが早いな、というかなんだ、みんなそろそろ部活に入る時期なのか、僕はまだ体験というやつにさえ行ってないんだぞ。
「いや、まだ決めてないよ、大体みんな部活入るのかな?」
「えーっと、多分そうじゃないかな?あ、そろそろ授業始まるから、またね!」
そう言って彼女は教室へ入って行った。

疾風迅雷、とまではいかないが、怒涛の会話だった。
陸上部か、すごいな、僕には縁のない部活だなあと思いながらも、良い人そうだと思いつつ僕は自分の教室へと戻った。

(6)へ続く・・・


あなたのおかげで夕飯のおかずが一品増えます。