見出し画像

『ヘヴン』川上未映子

ネタバレあります。

ある日、主人公の筆箱の中に差出人不明の手紙が入っていた。『わたしたちは仲間です』。それは、同じクラスで、自分と同じようにクラスメイトからいじめを受けているコジマという女生徒が送った手紙だった。

<無意味なことをするなと君は言うけど、それにたいして放っておいてほしいと君が感じるのは君の勝手であり、まわりがそれにたいしてどう応えるかもまわりの勝手><君が斜視だからいじめの対象になってるんではない。たまたまそこに君がいて、たまたま僕たちのムードみたいなのがあって、たまたまそれが一致したというだけ><それぞれの価値観のなかにお互いで引きずりこみあって、それぞれがそれぞれで完結してるだけ>
これらは、主人公をいじめるグループに属しながらも直接手を下すことはせず、いじめにたいしても特に面白いことはないしどうでもいい、と達観したように語る百瀬という男子生徒が、「なぜいじめをするのか」と主人公が詰め寄ったさいに言った台詞。

欲求に従っているだけ、それがたまたまいじめであっただけ、君もしたいことがあって、それができる環境があったらするだろ?それとおなじこと。
なにを、なにを正当化しているのだ、と心の底から腹立たしくなった。と同時に、じっさいの、いじめをしている当事者の気持ちってあんがいこのようなものなのかもしれないと考えてしまった。

自分がいじめられていることにはきっと意味があって、それを耐え越えたさきにはいじめをしている子たちには見えないような景色が待っているはず、と信じるコジマ。それはちがうと思った。そんなもので見える景色なんて綺麗なわけがない。越えるまえに心が損なわれてしまったらなんにもならない。

「でもさ、人間だけだよ、言葉を話すの。犬も、制服も机も花瓶も、しゃべったりしないよ」「言葉でああだこうだ話して、それでなんだかんだ問題をいっぱいつくって色々やってるのがこの世界で人間だけだなんて、考えてみればちょっと馬鹿みたいだね」

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?