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【#青ブラ文芸部】純粋な少女だった、あの頃。

 一般の企業には就職せず、スーパーで働いていた時の事。
 私はいつものようにお菓子売り場の商品を補充していた。
 毎日毎日これの繰り返し。
 大卒という証を無駄にしているなと思いつつ品出しをしていると、小さい女の子が駆けてきた。
 まだ幼稚園といった所だろうか。
 彼女は魔法少女のキャラクターが描かれたウエハースを手に取り、「ママ、これ買って!」とお願いしていた。
 母と思わしき女性が「昨日、買ったばかりでしょ?」と戻すように言った。
 が、少女は嫌だとだだをこね始めた。
 私は少し遠くからそれを眺めていた。
 まるで魔法にかけられたかのように、その光景に目が離せられなかった。
 私も……私もほんの少し前までは、あんな可愛い子供だった。
 けど、気がつけば大人になっていて、周りがドンドン変わっていた。
 小学生の時はあんなに仲がよかった両親は、私が中学生の時に喧嘩して離婚。
 私は母の元へ引き取られたが、大学を入学した時に薬物で捕まった。
 幸い寮のある大学だったから、色んな支援を受けて通う事ができた。
 それでも色んな事が重なって病んで、グチャグチャになって、結局無駄にしてしまった。
 あの純粋だった少女の頃に戻りたい。
 けど、家庭が崩壊していく様を二度も見たくない。
 これは葛藤なの? それとも何?
 何なのだろう。
 分からないけど、胸がキュウと苦しくなる。
 一体――と思った時、誰かに肩を叩かれてしまった。
「は、はいっ!」
 私が振り向くと、目の前にマスクをしたおばさんが睨んでいた。
 パートさんだ。
「何サボっているの」
 ガラガラな声で注意された私はただ「すみません」と頭を下げる事しかできなかった。
「まったく。大卒のくせにまともに仕事もできないのね。まったく……」
 パートのおばさんはカリカリしながら持ち場に戻っていった。
(あっ! あの子は……)
 私が振り返った時には、少女はルンルンとウェハースを手に持ったままレジへと向かっていた。
 少女が勝ったようだ。
 私は心の中で言わずにはいられなかった。
『あなたは今、魔法がかかっている。あと10年以上は遠慮せずに今を楽しみなさい』
 私は誰にもバレない程度に、少女に小さくバイバイと手を振った。

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