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【#シロクマ文芸部】逃げる夢想家

『逃げる夢想家』
 ネットニュースの見出しにはそう書かれていた。
(そりゃそうだ。あんな事をすれば)
 俺はスマートフォンの画面をスクロールしながら記事を読みつつ、これまで彼が仕出かした事を振り返った。
 二山寿蔵にやまとしぞうという名が世に広まったのは、あるCMがキッカケだった。
『世界中の皆さん、新しい世界に移住しませんか?』
 何とも不可思議な言葉からCMが始まる。
 二山が言うには、今いる地球とは違う世界――バーチャル世界を作ったというのだ。
 二山が新天地で作られた新世界は、人々の希望を抱くものばかりだった。
 食料と水は無限に手に入るし、獣や蚊、猛獣に怯えることもない。
 仮想世界で作られた新しい人間は、いつもニコニコで平穏だった。
 それに移住は厳選なる審査をして、平和を乱すような思想や行動をする者は排除され、優しい人しかいない世界を保証すると高らかに宣言した。
 入り方は身体と脳を切り離して、脳内にマイクロチップを入れ、そこから信号を送って、バーチャル世界にアクセスする――という衝撃的なトリップ方法だった。
 このCMに、様々な声が上がった。
 賛同する者、夢物語だとわらう者。
 『これは我々を侮辱している』と二山を暗殺する声明まで出す者。
 トリップ方法が倫理的にどうかと訴える者。
 目の前の事に精一杯で無関心な者――などなど。
 様々な反応があったが、一部の富裕層が何故か二山に出資を始めた。
 それから何ヶ月か経った後、相次いで世界中の富豪が原因不明の失踪をした。
 俺が住んでいる国でも、ある大企業の社長が忽然と姿を消した。
 人々が二山が関係していると囁かれる中、ある投稿が拡散された。
『二山寿蔵は嘘つきです。彼は頭の中で思いついた理想郷を言葉巧みに金持ちを騙して出資金をふんだくり、その金を持って飛びました』
 この投稿に、人々は二山に怒り狂った。
 理想だ夢物語だと言っていたが、内心では彼の世界に魅力を感じていたのだ。
 一部の過激な連中が、二山寿蔵の住所を特定し、彼の家に襲撃した。
 が、もぬけの殻だった。
 謎の男、二山は失踪したのだ。
(まぁ、どうせ物価の安い国にひっそりと暮らしているのだろう)
 俺はそう推測していると、テレビのニュースキャスターが言った。
「今日の彗星はいつもよりも大きいそうです」
 そういえば、最近彗星が流れているのを思い出した。
 その影響か、世界での宇宙の関心が高まってきているようだ。
 ロケットも頻繁に打ち上げられているみたいだし、富豪もあんな奴よりも宇宙に出資した方が人類のためになったかもしれない。
 ハァと溜め息をついていると、速報が流れた。
 彗星はあと数秒で、地球に衝突するらしい。

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