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【#シロクマ文芸部】閏年だけに咲く花

 閏年だけに咲く花をご存知でしょうか?
 名前は『閏草うるうそう』と言うのですが、花なのに『草』が付いているのは、四年に一度しか咲かないからです。
 ほとんどの人がその花を見た事がありません。
 綺麗な山と元気な太陽、透き通る水でしか彼らは育たないのです。
 そんな花を四年に一度欠かさず摘み取る青年がいました。
 彼の父は戦争で死んでしまい、母と二人暮らしでした。
 母は病気でずっと寝たきりなので、その薬代を稼ぐために、青年は工場で休みなく働いていました。
 夜明けから日が暮れるまで。
 家に帰っても母の世話をして、眠る暇もなく仕事に向かいます。
 こんな日々を過ごしている青年でしたが、四年に一度だけ必ず閏草うるうそうの開花だけは工場長に無理を言って、一日だけ休みをもらいます。
 閏草うるうそうの花言葉は『天国からのメッセージ』。
 死んだ父が死後の世界から花となって帰ってくると信じていたからです。
 だから、閏草うるうそうの花が咲いたら青年はその山に行って、花を一輪頂戴し、家の花瓶にさすのです。
 そして、母と一緒にその花に向かって、今の自分達の事を楽しげに話すのです。
 それが彼らにとって、貴重な家族の時間でした。
 しかし、不運は突然やってきました。
 母が死んだのです。
 青年は悲しみに暮れ、一時は身を投げようかという衝動に駆られていましたが、あの花が脳裏を過ぎって、思い踏みとどまりました。
 母の死後は工場を止め、山小屋から街に移り住んで、暫くはレストランの皿洗いとして働きました。
 次第に料理に興味を惹かれ、数年修行したのちに独立して、フレンチレストランをオープン。
 彼の作る料理が好評になり、大繁盛でした。
 基本的に年中無休ですが、一日だけ休みを貰う日があります。
 閏草うるうそうが咲く2月29日です。
「どうして、その日だけお店を休むんですか?」
 ある時、ウェイターがふと彼にそのような質問をしました。
 彼はにこやかに言いました。
「父と母が帰って来るんです」

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