かわいいだけしか要らない。
3歳のときから会っていない本当のパパに感謝しているのは、私の容姿がどちらかというとパパ似だってこと。特に気に入ってるのは大きい目と肌の白さ。胸がやや大きめなのも、パパのお姉さんを見ればこっちの家系のおかげなのは分かる。芸術に造詣が深いのもパパの家系。私は造詣が深いとは言えないけれど、絵や言葉や音楽や映画が好きなのはパパのおかげ、だよね?
もちろんママにも感謝してる。ママの家系は一族そろってスレンダーでスタイルがいい。ママのかわいい声も、多分受け継いでる。私はママの声も自分の声も大好き。いつまでも無邪気で子どもみたいな性格や仕草も、ちょっとは受け継いでると思っていいよね?
6年間私に地獄を味わわせた継父にも、今となっては感謝してる。この人のおかげで、男の考えてることが分かるようになった。何をすれば優しくしてもらえて、どんなことを言えば喜ぶのか、どんな瞬間に彼らは汚い感情を持つのか。同世代の男の子にも、バイト先のムカつく店長にも、会社の偉い頑固なおじさんにもかわいいと思ってもらえる「男の扱い方」を身に着けた。
「かわいい」という言葉は私を強くした。もちろん外見だけの話ではなくて。かわいければ、できることが、選択肢が増える。できなくても許される。かわいければ、私のやりたいことだけをやっていられる。「男好きだよね」「媚びてる」「甘えてるだけ」「あざとい」「私の彼氏に近づかないで」何を言われても全然平気。かわいい私でいることが、強く生きられる唯一の方法で、私を守る盾となり、私は私を安心して愛していられる。
誰も見てなくても常に私はかわいくしていなければいけないし、私の目に映る世界は美しいものでなければ我慢できない。ニュースなんて見たくない。世の中で起こってる悪い出来事なんて知りたくない。かわいいを武器にした代償だ。私はファンタジーの世界でしか生きられない。本当は自分に自信がないコンプレックスだらけのナルシストで、夢想家で、現実逃避しているのは分かってる。でもこの世界が私が一番自分らしくいられる世界だから。
今日も誰にも会わない。どうせ誰も見てない。それでもレースの下着に長いカーディガンを羽織って、買ったばかりのディオールの淡いピンクのリップを塗って、髪の毛はゆるいおだんごにして、お気に入りのマグカップで白湯を飲みながら文章を書く。白いデスク、白いチェアの上。私を魅了し続ける、かわいいだけの世界で生きていく。
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