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2. ミレトス学派 2. アナクシマンドロス

※以上の"A Presocrated Reade"の 2.2. アナクシマンドロスの訳です。比較的自由に訳しています。

ディオゲネス・ラエルティオスの言うところでは、アナクシマンドロスは紀元前547/6年には64歳であったが、この年代決定はアナクシマンドロスはタレスの弟子または支持者であったという古代の諸々の報告と一致する。アナクシマンドロスは初めて世界地図を作製し、晷針(きしん;古代の天文観測器で、一種の日時計)をスパルタに設置し、そして地震を予知した人物であった。アナクシマンドロスは宇宙の原初的物質を不定なるもの、あるいは境界無きもの(ギリシア語でアペイロンという。後に「無限なるもの」という意味にもなった)とする。この不定なる物質は他の物を動かし支配するものであり、かつ永久なるものでもある。だから、これは神的である資格を有するのである。アペイロンは寒熱を生み出すものを引き起こすが、アナクシマンドロスはこの「寒熱を生み出すもの」が何であるのかは述べていない。熱は火の形をとり、太陽と諸天体の起源となる。一方、冷は暗い霧であって空気と土に変形され得るものである。空気も土ももともとは霧であるが、火によって乾燥するのである。アナクシマンドロスは、原初的アペイロンからの最初の変形が起こると対照的二実体(寒熱)が生じ、この両者が互いに作用し合って、その結果として感覚世界を生み出す根本的物質となる、と仮定する。この対立する二物の相互作用はB1の主題であるが、このB1とはアナクシマンドロスの発言をじかに引用したものである(この引用がどこまでのものであるかについては学者によって議論されているが)。ここで彼が強調するのは、世界の変化は気まぐれなものではなくて秩序だったものだ、ということである。正義と報復に言及しつつ、彼は法に似た力があってそれが対立する二物の秩序だった変化の過程を保証している、と断言している。

アナクシマンドロスはまた、諸天体の性質について、そしてなぜ大地が現在存在しているところに固定しているのかについてを理論化している。彼は気象学的現象について、そして人間を含む生ける物の起源についてもいろいろと主張をしている。

9.アルケーが一つで動者でありさらに無限なるものである、と主張している者の中で、アナクシマンドロス…が言うには、アペイロンはアルケーであり、存在する事物の要素である、ということである。彼はアルケーを表すこの名前を初めて導入した[つまり、彼が初めてアルケーをアペイロンと呼んだのである](加えて、彼は運動は永久であり、運動において天が生じる、と言った)。彼は言うのであるが、アルケーは水でも元素と呼ばれる他の物質でもなく、アペイロンと呼ばれる何か他の性質であり、そこからすべての諸宇宙やそれら諸宇宙の中にある諸世界が現れてくるのである。存在する事物は、必然性に従って、それらを生み出したものへと消滅するが、それというのも、それらは時の定めに従い、それらの不正に対して互いに天罰を償うからである。とまあ、このように彼はかなり詩的な言葉で述べているのである。(シンプリキウス『アリストテレスの自然学注釈』)

10.彼の発言によれば、アルケーは水でも元素と呼ばれる他の何らかの物質でもなく、アペイロンであるところの他の何かであり、そこから諸宇宙とそれら宇宙の中にある諸世界とが現れてくる。このアペイロンは永遠に存在して不老でありあらゆる世界を包み込む…。加えて、彼の言うところでは、運動は永遠であり、この運動において諸世界が現れるのである。

11.これ[無限なるもの、アペイロン]にはアルケーというものはなく、他のあらゆる物のアルケーであるようであり、あらゆるものを含み、あらゆるものを操り、無限なるものを除いては他の原因を作りだすものは存在しない、と誰もが断言しているのであり…、そしてこれが神的なるものなのである。というのも、それは不死不壊であるとアナクシマンドロスも大半の自然哲学者も言っているのであるから。(アリストテレス『自然学』)

12.彼が公言するところでは、永遠なるものから生じて来たもので、かつ寒熱を生み出す[あるいは「生み出し得る」]ものは、このコスモスの開闢の際に分離されたのであり、そしてここからある種の火球が成長しては、木の皮が木を覆うように、地球を取り巻く暗い霧を覆ったのである。これがちぎれて一定の円形になって閉じ込められた時に、太陽・月・星々が誕生した。(偽プルタルコス)

13.アナクシマンドロスの言うところでは、太陽と地球は等しく(円形であり)、そして太陽は穴のある円形の軌道に沿って運ばれていくが、この軌道は地球の(直径の)大きさの27倍である。(アエティウス)

14.アナクシマンドロスは言うのであるが、星々は円形の軌道と天球に嵌め込まれており、そして各々の星は固定されている。

15.地球は宙に浮いていて何ものによっても支えられてはいない。地球は静止しているが、それというのもあらゆる物から離れている距離が等しいからである。地球は石柱のように円く曲がっている。我々は地表の一部分の上を歩くが、もう一部分の地表が反対側にあるのである。星々が回る火となるのは、コスモスの中の炎から切り離されては暗い霧によって取り囲まれるからである。(星々の軌道上には)穴があり、それはある種の管のような気道であるが、その穴から星々が見える。このため、穴が塞がれるや食が起こるのである。月が現れては満ち欠けするのは、この気道が閉じたり開いたりするからである。太陽の巡る軌道は地球の直径の27倍であり、月の軌道は地球の直径の18倍である。太陽が最も高所にあり、固定された星々の巡る軌道は最も低所にある。風が起こるのは、暗い霧の最も細かい蒸気が切り離され集められ、そして動かされるからである。雨は太陽の影響を受けて大地から蒸気が立ち上る結果である。雷が見られるのは、風が雲を遠くに飛ばして散り散りにするからである。(ヒポリトゥス)

16.アナクシマンドロスは言う、これら[雷鳴、稲妻、落雷、水上竜巻、ハリケーン]はすべて風が引き起こす。というのも、風が分厚い雲によって取り囲まれては、あまりに細かく軽いためにそこから暴風となって逃げ出す時はいつでも、雲は爆発を伴って騒音を生み出し、そして雲は散り散りになることによって雲の黒いところを背に閃光を作り出すからである。(アエティウス)

17.アナクシマンドロスのような一部の人々は…地球は等しさのために静止状態にある、と公言している。というのも、中央に位置していて諸先端から等しく離れたところにいるものが、下降したり脇道に逸れたりすることが相応しくないのと同様に、上昇したりすることも相応しくないからである。また、地球が同時に相反する二つの方向に動くのもあり得ないのである。それゆえに、地球は必然的に静止しているのである。(アリストテレス『天について』)

18.アナクシマンドロスが言うには、最初の動物は湿気の中で生じ、棘のある皮に包まれていた。成長するとより乾燥したところに上がり込み、皮は剥がれ落ち、短い間は異なる生活様式で生きた。(アエティウス)

19.彼はまた公言するのだが、最初人間は異なる種類の動物から生まれたが、それというのも、他の動物たちはすぐに自分で何とかできるようになったのだが、人間だけは長い養育期間を必要としたのである、と。このために、人間は始め他の動物のようであったならば、生き延びることもなかったであろう。(偽プルタルコス)

20.アナクシマンドロス…の信じているところでは、熱を帯びた水と土から、魚あるいは魚によく似た動物が生じた、ということである。この生物の中で人間は成長し、成熟するまでは胎児として体内で守られた。最後に人間は体外へと現われ出て、そしてすでに自分自身を養うことのできる男と女が誕生した。(センソリナス)

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