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アナクシマンドロスの生成

万物生成についてアナクシマンドロスは言う、「要素が質的に変化するからではなく、永遠の運動によって相対立するものが区別し出されるから」と。つまり、生成は元素の状態変化ではなく、あるいは諸元素の結合によるものでものないのである。そして「相対立するものとは、温きものと冷きもの、乾けるものと湿れるもの、等々である」とも言う。無限者から相対立する火と空気、土と水とが区別されて(「等々」とあるので、その他にも諸対立者があるのだが)無限者から外へと放出されるのである。

アナクシマンドロスの体系では、火・空気・土・水の四者は互いに対立する。一方が無限ならば他方は有限であり、一方が他方を滅ぼすことになる。では双方が有限ならば共存できるのだろうか。それは不明であるが、「大地は何ものによっても支えられていないが、凡てのものから等距離にあたるために宙に浮いている」「諸世界相互の距離は等しい」などの言葉から類推するに、互いが互いに対して何らかの意味で等しければ、対立する者どうしでも均衡が得られて平和共存も可能となりそうである。

アナクシマンドロスにおいては事物は如何様にして生成されるのかを考えてみた。「無限者から相対立するものが区別し出される」という言葉を手掛かりにしてみよう。空間的に無限で、いかなる質的規定も持たず、いかなる物も無限にその内部に含み得る無限者の内部には、土・水・火・空気などの対立物が、本質的に対立的であったとしても、平和的に共存できそうである。そして何らかのタイミングで無限者は「水はこちらに、火はあちらに放出しよう」として自らの内部から放出する。これが生成となる。アナクシメネス説のように空気が濃厚化したり稀薄化したりして別の物に変わるのではない〔変化説〕。またエンペドクレス説のように諸元素が結合して物が生成するのでもない〔結合説〕。アナクシマンドロスの説は分離説と言えそうである。

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