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2023年4月の記事一覧

文芸批評断章47.

文芸批評断章47.

47.
森鴎外の作品について
・「大塩平八郎」
リアリズムにはある種の余情がある。人の目に見える仕草や耳に聞こえる言葉のみを記して心情を明確にせず、読み手が何とはなしにあれこれ推察するので、ここに余情が成立する。大塩平八郎が反旗を翻して町に火を放つが、これを取り締まる側の「跡部は矢張「されば」と云つて、火事を見てゐる。」で「六、坂本鉉之助」は終わり、その気持ちは書かれておらず、読み手は消化不良のま

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文芸批評断章46.

文芸批評断章46.

46.カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」について

「忘れられた巨人」の問いは、善い記憶も悪い記憶もすべて奪われた生とどちらも保ち続ける生と、どちらが人には望ましいのか、という問いだ。フロイト風に言えば、「抑圧された無意識内容を明らかにするべきかどうか」となる。フロイトは「然り」と答えるだろう。明らかにすれば(これを「無意識の意識化」と呼ぶが)、人生を取り戻せるのだから。だが、イシグロは懐疑的だ

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