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無意識の小さな攻撃性

「メイさんがコロナかもしれないって、自主的に在宅勤務にしてくれて良かったよ。だってさ〜、気持ち悪いじゃん。コロナかもしれない人と同じ空間で働くの」

コロナ禍が始まった頃、職場の同僚(同い年の男性)に言われた言葉です。

その頃はまだコロナは未知の病で、何県で今日は何人感染者が出た、と連日報道されていました。

私はコロナ感染者と間接的に接触していたことがわかり、それを会社に申告して万が一を考えて在宅勤務にさせてほしいと申し出ました。

そしたら返ってきたのがこの言葉。

そいつには私を傷つける意図はなかったと思います。むしろ「自主的に申し出てくれてありがとう」という気持ちで言ったのだと思うけれど、

「気持ち悪い」

この部分が私の心に引っかかりました。

気持ち悪いって言われた……

私に対して、というよりコロナが気持ち悪いという意味でしょうが、言われた方はそうは受け取らないのですよね。モヤモヤしたのを覚えています。

マイクロアグレッション

会社の研修で「Microaggression(マイクロアグレッション)」という言葉を知りました。

「Micro(マイクロ)=とても小さな」と「Aggression(アグレッション)=攻撃、他者を脅かす行為や行動」が組み合わされ単語になります。

日本ではこれをズバリ言い表す単語がないので、「マイクロアグレッション」とそのままカタカナで使われていることが多いです。

無理やり訳すとすれば、「極小の攻撃性」とでも言えるでしょうか。

マイクロアグレッションは文字通り他者に対する小さな攻撃性を表す言葉です。こちらのサイトにわかり易い説明があったので引用します。

マイクロアグレッションは、別名「小さな(マイクロ)攻撃性(アグレッション)」。人と関わるとき、「微相手を差別したり、傷つけたりする意図はないのに、相手の心にちょっとした影をおとすような言動や行動をしてしまうことだ。「微細な攻撃」とも訳されるマイクロアグレッションがなぜ相手を傷つけるかというと、その言葉や行動には人種や文化背景、性別、障害、価値観など、自分と異なる人に対する無意識の偏見や無理解、差別心が含まれているからだ。

IDEAS FOR GOOD


もともとは1970年代にアフリカンアメリカンに対する差別に対して当時の精神科医が言及した言葉とのこと。

現代では人種・ジェンダー・性的指向、宗教、年齢、家族構成等に関して、軽視、侮辱、攻撃する言動全てを指すそうです。

マイクロアグレッションは「侮辱」とか「差別」という強くはっきりとした言動になる前のもっと小さな、でも攻撃性や侮辱性をはらんだ言動のことを言うのだと私は理解しました。

それを食らった側は「差別された」とは「侮辱された」とまでは思わないまでも、「なんかさっきのあの人の言葉、モヤモヤする……」とか、「あの人、どんな意味であの言葉を言ったのかな……」などなんかちょっと心に引っかかるものが残る。

上記引用部分の「相手を傷つける意図はないのに相手の心にちょっと影を落とすような言動」というのが的を射た上手い表現だと思います。


無意識に人を傷つけている可能性

「メイさんがコロナかもしれないって、自主的に在宅勤務にしてくれて良かったよ。だってさ〜、気持ち悪いじゃん。コロナかもしれない人と同じ空間で働くの」

この元同僚の言葉もまさにマイクロアグレッションではないでしょうか。

発言した方は無意識で、傷つける意図はなかったと思います。ですが、「気持ち悪い」と言われた人の気持ちを汲み取り切れていない。そのデリカシーの無い発言が私の心に影を落としまた。

また、考えてみると逆に自分がマイクロアグレッションを相手に与えてしまったな、という経験もあります。

例えば、日本在住数十年のカナダ人の恩師と飲みに行ったときの話。居酒屋のメニューが全て日本語表記だったので私は気を遣って、

「先生、日本語のメニュー読めますか?英語のメニュー頼みます?」

と言ってしまったのです。

カナダ人の恩師は

「読めるよ!当たり前でしょ?日本に何年住んでいると思っているの!」

と冗談交じりにリアクションしてくれましたが、今考えるとあれもマイクロアグレッションの1つだったなと反省しています。

「外国人だから日本語は上手くない」という偏見が根底にある発言だからです。私にも悪気はありませんでしたが、きっとカナダ人恩師の心にちょっとしたモヤモヤが生まれたことでしょう。

その他にも、30代、40代女性に対していきなり「旦那さん何している人?」「お子さん何人いるの?」と聞くなどもマイクロアグレッションの1つの例ですよね。

年齢からして、結婚して子どもがいると勝手に判断した上での発言だからです。その年代の全ての女性が結婚しているわけでもなければ、子どもがいるわけでもない。

なのにこの質問には「この年代の女性は結婚して子どもを作るのが当たり前」と思っている偏見が根底に見えます。

また、男性に対して「彼女いるの?」女性に対して「彼氏いるの?」といった発言も気をつけた方がいいでしょう。

なぜなら、その方々が同性愛者だった場合、男性の男性に対して「彼女」、女性に対して「彼氏」という言葉を使うのは配慮が足りないからです。

言われた相手が傷ついたり、心に影が落ちた時点でそれはマイクロアグレッションになります。


昔に比べて生き方に多様性が生まれている現代。

だからこそ、「〇〇が当たり前」なんて十把一絡げにはできなくなってきていることを心にとめておかないと、無意識に人を傷つける可能性があります。

「マイクロアグレッション」


自分でも気がついていない無意識の偏見とそれが表面化したもの。

差別や侮辱という大きな塊になる前の小さな粒。小さいけれど確実に差別や軽蔑、偏見の要素が含まれた粒。

あなたはそんな粒を誰かにぶつけていませんか?




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