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【宇宙開発】地球観測ビジネスを肌で感じてみよう!

こんにちは、こおるかもです。
イギリスで宇宙開発エンジニアをやっています。

ぼくは主に【地球観測】がやりたくて、この宇宙開発という業界の門をくぐりました。(興味ある方は前回の記事もぜひ)

そしてわかったことは、政府系機関が出資する衛星プロジェクトでは、予算の出どころによる制約、継続性、公平性、などの課題などから、実際の社会課題に対してまだまだ効率的にアプローチできていない、ということでした。

そこで、地球観測ビジネスが、もっと民間のビジネスとして成熟し、衛星データが売れに売れて、競争が起きて、価格破壊が起きて、もっと広く使われるようになれば、そうした地球規模の社会課題へもっと自由に衛星データが使われるようになるのではないか、と思っています。

そのため、僕自身も行動に移すべく、政府系機関を飛び出し、どうせなら日本も飛び出して、グローバルにこの業界に貢献しようと、今はイギリスで仕事をしています。

そんななか今日は、日本の地球観測ビジネスのスタートアップの代表格であるQPS研究所さん(証券コード:5595, 東証グロース市場に2023年12月に上場)の事例を紹介しながら、「地球観測ビジネスってどんなもんなの?」っていうのを肌感覚で触れてみてもらえればと思い、記事を書いていきます。

それではいってみましょう!


まず、一番基本的なことからですが、地球観測ビジネスとは、「地球を観測した画像を売るビジネス」のことです。なので、商品は画像、それのみです。最近は多角的に、衛星ごと売ったり、画像によるソリューションでビジネスすることもありますが、まずはシンプルに、画像がいくらで売れるか、ということにフォーカスしてみましょう。

さて、最初は恒例の(?)クイズからです。
まずはこちらを御覧ください。

©QPS研究所(引用

この画像は、日本の衛星ベンチャーであるQPS研究所のレーダー衛星が捉えたパリの画像なのですが、この画像一枚で、ズバリいくらするでしょうか?

  1. 4万円

  2. 40万円

  3. 400万円

同じように撮られたロサンゼルスの画像のあとに、解答を載せます。

©QPS研究所(引用
ちなみに中央左にみえるのがドジャー・スタジアム。大谷さんも写ってるかも?

ということで解答の発表です。

答えは、40万円です。(QPS研究所事業計画及び成長可能性に関する事項参照

これを聞いて、高いと感じるか、安いと感じるか、いかがでしょうか?

なお、このレーダー画像は、同種のレーダー画像の中では現在最高レベルの品質を持つ画像で、ズームするとがんばれば自動車も識別できるレベルです。ちなみに、ざっと1枚で10GBくらいのデータサイズになると思います。

この値段設定は、そうした情報を踏まえると、決して法外に高いわけではないです。ですが一方で、この価格設定のままで、商用ビジネスとして成立するかは、かなり微妙なところかな、というのが僕の見立てです。

これを裏付ける計算をしてみましょう。


まず、コストから考えてみましょう。

地球観測ビジネスにおけるコストは、主に次の3つから成り立っています。

  1. 打ち上げコスト

  2. 衛星開発コスト

  3. 運用コスト

ひとつひとつ簡単に見ていきます。

まず、地球観測ビジネスの主役は、いわゆる「小型衛星」と呼ばれるもので、約100kg程度の重量、サイズで言うと、せいぜい洗濯機くらいの大きさの衛星が主流です。

QPS衛星(アンテナは折り畳み式で、打ち上げ後、軌道上で展開される)

どうしてこのサイズなのかというと、とにかく打ち上げコストを下げるために、小型化が求められているからです。

このような小型衛星の安価な打ち上げニーズに応えるべく、小型衛星専用のロケットのニーズも高まっています。

その代表格がアメリカのロケット・ラボという会社で、この会社の主力ロケット「エレクトロン」は、最大約300kgの衛星を打ち上げることができます。その打ち上げ価格は750万ドル、約12億円です。

実際、QPS研究所はこのエレクトロンを使って、去年の12月に単独打ち上げを行っています。QPS衛星は100kgなので、打ち上げ能力に余剰があるはずなのですが、詳細は不明のため、ここでは12億円をそのままコストとしましょう。

エレクトロンロケットWikipediaより

そして次に衛星開発コストですが、QPS衛星の具体的な情報は無いので、ざっくりぼくの経験からになりますが、100kg級衛星なら、ざっと10億円前後ということになります。これは、どの衛星でもだいたい必要になる材料や、必要な試験などがある程度被っているので、そこまで会社間で差がでません。

最後に衛星の運用(オペレーション)コストです。これには衛星の状態をモニターするための監視員であったり、撮像のタイミングなどを支持するコマンダー、そして衛星と通信するための地上局の運用などが含まれますが、まぁせいぜい数千万円/年なので、そこまで大きなコストではありません。

したがって、衛星1機で地球観測ビジネスをするのに、ざっくり22億円くらいのコストがかかるという計算です。

これを念頭において、次に、衛星がどれくらい画像を取得できるか計算していきます。


昨今の地球観測衛星は、いわゆる地球低軌道(高度約500km前後)を飛びます。地球を観測するわけですから、地球に近ければ近いほど、より高品質な画像が取得できるので、低軌道が良いのですが、一方でこれより低いと、大気抵抗を受けてしまってうまく飛行できないので、500km前後が選ばれます。

そして、これは軌道力学から導かれるのですが、高度500kmの軌道を飛び続けるには、約7.9km/sの速度が必要となります。

そしてこの速度で軌道を周回すると、1日に地球を約15周します。

この周回数が実は非常に重要で、これが実質的に衛星が1日に何回撮影できるかを規定します。

宙畑さんの記事より引用(いつもお世話になっております)

細かい話は端折るのですが、地球のいろんな場所を観測しつつ、太陽が当たっているうちに電力を確保しつつ、地上局と通信するタイミングを確保しつつ、日陰に入っているうちに余剰の熱源を放熱しつつ、ということをまとめて計算に入れていくと、1周回で1枚の画像を取るのが精いっぱい、というのが、現在の小型衛星の技術仕様の限界です。

つまり、1日に撮影できる画像は最大15枚まで、ということです。

さて問題です。ここまでに提示した数字から、衛星が何年間稼働すれば、衛星画像の売り上げがそのコストをペイできるでしょうか?


答えは、ぴったり1年になります。
計算式:40万円×15枚×365日=22億円

ちなみに、衛星の寿命は一般的に5年程度です。
あれ、これだと普通に儲かるビジネスになってんじゃん。。。笑

すみません、自分でも計算せずに記事をここまで書いてきたのですが、希望としては、10年くらいかかるよ!という結論に持っていきたかったのですが、意外とコンパラな結果になってしまいました笑。

しかし、本当はそれも想定内。
実際には、以下のような深刻な課題があります。

まず、軌道1周回のうちに、商品価値の高い場所を撮影できることの方が稀です。先ほどのQPS衛星の画像は、撮影範囲が7km×7kmしかありません。

そうした狭い範囲で、ちょうど見たい範囲にパリやらロサンゼルスなどの大規模都市や、自然災害が起きた場所がタイムリーに撮像視野に入ってくることの方が稀で、多くの場合、平和でなにもない平野、または大海原ということになります。

そうした画像はまず売れないので、それだけ機会損失があります。

さらに致命的な問題があります。それは、衛星画像は一般的に、鮮度が命とされており、鮮度が下がると、価格が下がります。

んな、お魚さんじゃあるまいし、と思うかもしれませんが、この記事によると、米国のWorldViewという衛星画像の価格例として、14日以内の新規画像の値段が10,000円/km2であるのに対して、90日以上経過すると2千円に値下がりすることが示されています。

したがって、画像1枚が40万円を価値を持つのは、わずか14日しかないということです。

そうしたことを加味すると、個人的にはやはり、地球観測ビジネスが民間で自立的に稼いでいくにはハードルが高すぎる、という認識を持っています。


いかがでしたでしょうか?

今回は、日本の衛星ベンチャーのトップランナーであるQPSさんの事業モデルをベースに、地球観測ビジネスの値ごろ感を体感していただきたく、数字を並べ立ててみました。

あくまでも計算はかなりのどんぶり勘定であることはご留意いただき、より詳しくはQPSさんの資料をみていただければと思います。

また、最近のニュースによると、QPS社は当面、民間のマーケットではなく、政府系機関に衛星データを買うことを約束してもらったり、さらなる技術開発を支援してもらうことなどで食いつなぎ、より良い衛星データの取得、コストの低減を狙っていき、その後民間ビジネスへ展開していくことを計画しているようです。

ぼくももちろん応援はしていますが、結局最後まで自走できず、国有企業のようになって、税金が延々に投下される事態にならなければいいな、とは思っていますので、国民みんながしっかりとウォッチしていく必要もあるのかな、と思っています。

例えば、最近のQPSさんの資金調達例。

宙畑さんで「QPS」と検索して出てくる記事

そういう意味では、海外の事例も非常に気になるところですよね。世界ではやはりアメリカが1歩2歩先に進んでおり、実はもう黒字化目前という企業も出てきています。

次回は、そうした米国で最先端を走る衛星ベンチャーを紹介したいと思っていますので、そちらもお楽しみに!

最後までお読みいただきありがとうございました。
コメント、質問、よろしくお願いします。

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