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CDに留まらないKPOPのフィジカルアルバムはどこまで進化するか

5月末、韓国のKPOPオタク界隈を大きくざわつかせたとあるアイテムを紹介させてください。

それは「aespa」の新アルバム『armageddon』の限定版に含まれたCDプレイヤー。アルバムの仕様が発表された直後からSNSなど様々なところでほしいとの声が続出したこのCDプレイヤーですが、予約開始時のサイトアクセス待ちは数万人に達した挙げ句約1時間で売り切れました。

あまりの人気っぷりにaespaのメンバーですら手に入れることができず、その後受注生産販売に切り替えるなど、数日でこのCDプレイヤー仕様の限定版は数万枚が販売されたそうです。
aespaのファンだけでなくKPOPファン全体を揺るがせた、まさにSupernova級の話題でした。

aespa The 1st Album Armageddon CDP Ver.

フィジカルアルバム=コアファンのコレクションアイテム

KPOPアイドルのCDを購入されたことがある方々はご存知かと思いますが、一般的に発売されるKPOPアイドルのアルバムはフォトブック、グッズ、トレカなどを立派な化粧箱に詰め込んだ、とにかく豪華な仕様のものが多いです。

元よりKPOP界隈でフィジカルアルバム、つまりCDとはコレクション性の高いグッズの一つとしてポジショニングされていた訳ですが、最近はますます音楽を聞く媒体というより「グッズ」の方向に振り切ったアイデアが多くなっているように感じます。

例えば、SMで発売しているSminiシリーズ(CDではなくNFCで聞けるディジタルフォーマットのアルバム)はキーリングみたいな感覚でファンの間で人気が高いし、先日発売されたNCT WISHの WICHU.Verはぬいぐるみの形で発売されました。また、直近だとアルバムの付属品としてはフィギュアも増えているように感じます。

ストリーミング時代のご時世、結局わざわざフィジカルアルバムを買うのはコアファンだけで、CDの肩身は狭くなる一方なので当然の流れではありますよね。そもそもCDではなく別の媒体を用いることも増えてきたので、CDというカテゴリーに限定される必要性が薄くなってきましたのもその要因の一つかもしれません。

AKMUのフィギュアVer.アルバム

フィジカルアルバムの付属品や形を変えるなど色んな試みが行われていますが、結局はファン向けのグッズの領域を超えていない場合が多いのは少し残念に思います。

ライト層でも買いたくなるアルバムとは…

2年前の夏、aespaのCDプレイヤー同様、KPOPファンがこぞって買っていたアルバムがありました。丸いトートバッグが含まれたNewJeansのデビューアルバムです。学生時代CDプレイヤーを収納するいい感じのポーチがなかなか見つけられなかったというミン・ヒジン代表の経験から生まれたこのバッグは、デザインも良く実用的、かつトレンド感も味わえる一石三鳥なアイテムでした。しかも値段もリーズナブル。ファンに取っては買わない理由がないですよね。

今はもうバッグが含まれるCDは他にも見られるようになりましたが、当時はNewJeansのデビュープロモーションと相まってなかなかセンセーショナルでした。

NewJeansの注目度と特集なアルバム仕様がシナジーを起こした事例だと思います。

NewJeansのバッグとaespaのCDプレイヤー。
どちらも興味程度のライト層までその話題が広がりコアファンではなくても買ってしまう珍しい事例ですが、ライト層まで買いたいと思わせる要素は似ているように思います。

CDプレイヤーの話に戻り、まずはバッグストーリーとデザインから。
今回のCDプレイヤーのデザインはaespaの過去アルバム『Savage』のP.O.Sバージョンをそのまま再現しています。P.O.SとはPort Of Soulの略でaespaの世界観に登場するKwangyaと現実世界を繋げる扉のようなもので、オタクの心をくすぶります。

『Savage』のP.O.S Ver.

それ以前に、青い光が光る近未来的で洗練されたデザインはaespaの世界観に興味がなくても目を引きます。レトロな(?)インテリア雑貨としてCDプレイヤーが密かに人気を集めていた背景もあり、部屋の片隅に飾って置くにも申し分がないデザインです。

さらに音楽プレイヤーメーカーとして有名なアイリバー製造で品質やASも保証されている。イベント性の強い限定品の割にプレイヤーとしての性能も申し分がないものでした。

これらが揃って値段もまあ安くはないけど、高いわけでもない。ネットで見かけるとみんなも買っているし、ますます合理的な買い物のように思われる訳です。

aespaのポップアップストアで展示されたCDPの実物。

もちろん歌手本人たちの認知や好感度に加え、注目が集まるタイミングという運の要素もか関わりますが、実用性xデザインや性能面で納得がいく仕様が必要条件というのは間違いないでしょう。
これらが揃った時、ファンに取ってはコレクション性の高いグッズ、ファン以外のライト層には流行りのブームの乗れるアイテム、歌手にとっては新曲のプロモーションの役割を立派に果たす、みんながwin-win-winな結果になるのではないかと思います。

個人的には、何よりもCDで直接音楽を聞くことは滅多になくなってきた時代、プレイヤーを与えることでCDの使い道を改めて想起させた逆転の発想が斬新だと思いました。

フィジカルアルバムのこれからについて思うこと

近年KPOP市場のフィジカルアルバムについて韓国内の風当たりはあまり良くありません。特にコロナ禍以降、ランダム商売や過熱された販売枚数競争が加速されました。更にはイベント応募のために大量に購入されたアルバムが捨てられることも目立ってきました。
これらの手法はファンの負担を荷重させるだけでなく、ゴミ問題など別の問題を生み出します。CDは聞かなくなっているのに、無理やり買わせてはゴミばかり増やす。サステナビリティを全然考慮していない近視眼的な業界の態度はマスコミなどにも取り上げられ、改善が求められてます。

今回のCDプレイヤーは初のフルアルバムを発売するにあたって、ファンサービスの一環だったと思います。ランダムやイベントなど販売量を伸ばすための典型的な手法とは多少離れている試みでしたが、結果として「ファンが求めるものを世の中に送り出すと、市場が答えてくれる」当たり前のことが証明されました。それだけでも市場への響きは大きかったと思います。

もちろんこれも商売手法の一つの形ですし、環境への影響やファンダム文化など考慮すべき問題は山程あります。しかし今回の成功を手本に、業界が持つ課題にアプローチするチャレンジが増えてほしいと願っています。

今回のようにデザインと納得感のある値段と仕様、口コミの拡散によるバンドワゴン効果まで三拍子を揃わせるのは容易なことではありません。コントロールできない要素もたくさんあります。
それでも一人のKPOPのファンとしては、少なくともファンがもうちょっと喜びながらアルバムを買えるように、つくり手にできる最低限の工夫はしてほしいと思いました。
「ファン=消費者の気持ちで考える」それが「これから」を語るための第一歩ですから。


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