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容赦なきパステルカラーの無残絵――映画『ユニコーン・ウォーズ』の話(ネタバレ無し感想・そのほか)

映画として、映像作品として、今年ベスト級です。
全国で6館のみと少ない上映ですが、気になっていて観に行ける環境の方は絶対に足を運ぶことをオススメします!


□『ユニコーン・ウォーズ』との出会いと、予想を裏切られた痛快な味わい


私が利用している「Filmarks」というアプリがある。
これにはClip!といって、自分の観たい作品の覚え書き的なメモを登録する事が出来るのだが、去年の夏頃だろうか、サムネイル無し・簡単な説明文(しかも“〜との事”といった不明瞭な概要)のみで「2023年公開予定」とだけ記されていた『ユニコーン・ウォーズ』という映画を見つけてClipした。
そこから長々と「2023年公開予定」のまま未公開欄に居残り続け、もう公開中止になったのかと諦めていた2024年の春、突如として5月末公開の情報が流れて来たのだ。
更に、その時明かされたヴィジュアルがこれである。

『ユニコーン・ウォーズ』イメージヴィジュアル。渋谷シアター・イメージフォーラムさん版

!?

何だこれは……
カートゥーンの文脈でいえば「かわいい」のかもしれない。『パワーパフガールズ』のような誇張と巨大な目、水色やピンクの色彩、何より、女児が好むメルヘンモチーフである“クマチャン”と“ユニコーン”。
しかし、そこかしこに、散りばめられた不穏な要素が見て取れる。
軍人や聖職者のような服装のクマ、赤黒い大地に転がるモノ……

これはアレか、
「可愛いキャラクターのルックで、残酷グロをやりました」
的な悪趣味ナンセンス狙いの作品なのか?
(日本でやっと公開が決まったのも、同様の悪趣味系ブラックコメディカートゥーンがアマゾンプライムでウケているからなのか?)
という拭いきれない憶測を抱えつつ、(TikTok等では、既にまんまとキュート×残酷テイストこそ持ち味的なマーケティングがなされていた気配だったので)極力前情報無しで映画館へ。

結論から言うと、私の憶測は取り越し苦労に終わる程に間違っていた。
この映画において「可愛いルックで残酷な事をする」のは、確かに一要素としてかなり作品性の重要な位置を占めている。
が、特筆すべきは「それをオチ(出オチ)としていない」所だ。

2頭身テディベアが当たり前に暮らす世界では、ピンクや水色の彼らが怪我をすれば当たり前に血が出男のテディベアには当たり前に性器がぶら下がり、ブルーベリーを好む可愛らしさを見せながらも、醜い感情で他者と喧嘩する
それらの“メルヘン離れ”した世界観を、ハズシや悪趣味見せといった「出オチ出しオチ」に一切使っていない。それどころか、カートゥーンの文脈によるポップダメージギャグ(壁に挟まれたらペラペラになる的な)も無ければ、クマ達はほぼ、観る側に可愛さをすり付けるアニメ嬌声でもない。

この作品のキュートなパッケージングの効果的な力の一つを、私は
「可愛い外見なのにこんな描写しちゃうよ〜」ではなく「目を覆いたくなる程に現実的な残酷と無情・しかし可愛い外見だから見届けてしまう(見届けられてしまう)」絶妙な視覚的ストーリーテリングと感じた。

激辛で刺激の強いスパイスであっても、カレーライスになっていれば、食指が動いたり食べられる人もいるだろう。それに近い。

(なので、公式もやんわり注意喚起しているが、ただただルックの可愛さに惹かれ、メルヘンを期待して観に行くのは絶対に止めたほうがいい。
イケメン俳優目当てと思われる女性客が「こんな映画だったなんて」と難色を示したと各所で見聞きしたクライムゴア『オオカミ狩り』の時と同じような感じになるぞ)

そして、可愛く彩られた救いのない世界は、あらゆる箇所が寓話的だ。
宗教、殺し合い、盲信、権力……我々が知り、見たことのある悲劇と惨劇と恐怖が、見たこともない色鮮やかな世界で巻き起こる。
そして、そんな出来事すらも――。

何故彼らが「クマ」のキャラクターではなく「テディベア」なのか。監督がここに込めた意味がありありと伝わる。
これは憎しみの系譜を綴る獣達の宗教画にして、容赦なきパステルカラーの無残絵。
その果てに“我々”の誰もが胸を握り潰されるようなラストを、ぜひ。


ネタバレ有の感想は、あらためて公開終了後に。

■観た人と、観られないけど触れてみたい人へ

現在、『ユニコーン・ウォーズ』は世界的にファンアートが盛り上がっているのだが、その大きな勢力がいわゆるケモナー(かつ女性化・BL・アダルト改変)であるので、不用意にSNSで検索すると人によってはネタバレ以上の望まないダメージを受ける可能性があることを一応書いておく。
ここではそれ以外の、映画『ユニコーン・ウォーズ』の公式と作り手側によるコンテンツを幾つか紹介するので、映画を観た方や、上映館まで行かれないが作品世界観に触れてみたい方はチェックして見て下さい。

★『SANGRE DE UNICORNIO』
英題『UNICORN BLOOD』いずれもタイトルの意味は「ユニコーンの血」。本作の監督が約10年前に製作したアニメーションにして、『ユニコーン・ウォーズ』の基となった短編。
ふわふわ美しく男らしいモフィと、ブヨブヨ醜く臆病なグレゴリオ兄弟は、神に通ずるとされるユニコーンを追っていた……
(英訳字幕のみ可)


★『Unicorn Wars』
ゲーム版。映画のストーリーをなぞるアクション。
ゲーム詳細にある文言に、歴史に詳しい人なら思わず胸を痛めそうだ。

GooglePlaystore概要画面より抜粋。各自デバイスでゲーム販売サイトから対応確認の上ダウンロードを

★『DECORADO』
意味は「飾りつけ・舞台装飾」。同監督によるショートアニメーション。
悩める男性のクマ・アーノルドは、自分の生きている世界が「作り物」ではないかと考える。
悲哀と現実逃避をシュールに見せるブラックコメディ。
(英訳字幕のみ可)


★『ユニコーン・ウォーズ』日本版公式予告編


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