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【映画】物語でみる時代の流れ〜マギー・チャンレトロスペクティヴ「ラヴソング」「宋家の三姉妹」

今日、かつてジャッキー・チェンの「ポリス・ストーリー」シリーズでも有名な香港俳優マギー・チャン主演の映画を2本見てきたので、見たてほやほやの感想を書き記します。

Bunkamuraル・シネマの仮営業先、渋谷宮下でやっているイベント、マギー・チャンレトロスペクティヴで公開している2本、「ラヴソング」と「宋家の三姉妹」です。

両方とも、物語と人間関係の移り変わりに魅力されながら、当時の時代の雰囲気が色濃くわかる名画でした。

1.「ラヴソング」

監督はピーター・チャン。
私はかつて学生時代に香港映画にはまっていた時期があります。

彼の作品は「金枝玉葉」「新難兄難弟」も大好きです。
悪いだけの人は決して出てこず、どんな登場人物にも共感できるところがきちんと描かれていているのがこの監督のすごいところだと思っています。

「ラヴソング」も、いりくんだ恋愛関係の話ですが、どのシーンにも共感できるのです。
現実、どうしようもないことは起こるし、自分のなかで自分の意図とは別に決まってしまうことってあるよね、ということかリアルに描かれています。

20年くらいぶりに見ましたが、その印象はやはり変わらず、自分をごまかす器用さももてずに向き合っていくまぶしいくらいの若さをあらためて感じました。

当時の香港は、中国返還前。

大陸、中国本土から、香港に出ればなんとかなるという香港ドリームが生きていた時代。

最初は大陸から出てきたばかりで自分は「香港人」ではないと疎外感を抱いていた人物が、だんだんと香港人そのものになっていく過程が非常にリアルです。

かつて日本でもこうして東京に出てきて東京人になった人がたくさんいたのだろうな、という共感を抱かせつつ、決定的にちがうのは、そのあと、香港は中国に返還され、かつての香港ではなくなっているということ。

いまや失われてしまった香港ドリームと、マギー・チャンとレオン・ライの若さゆえの不器用なまぶしさが、しみじみと残ります。

しかし、レオン・ライはずるい。
ふたりで食器を洗ったあと彼女の手まで一緒にふいてあげて、「冷たい」というシーンなど、マギー・チャンの指の美しさもあいまってどきどきしてしまいます。
それはだめでしよ!と思うことで女心をかき乱されたいかたは、ぜひ。

2.宋家の三姉妹

これもかつて見たことかあるはずですが、内容を覚えていなかったので、ほほ初見でした。

近代中国、清朝末期の孫文による革命活動から中華人民共和国となるまでの時代を生きた、富豪でありクリスチャンである宋家の三姉妹、宋靄齢・宋美齢・宋慶齢の物語です。

彼女たちは毛沢東により、「一人は金と、一人は権力と、一人は国家と結婚した」(一個愛錢、一個愛權、一個愛國)といわれています。

お金と結婚したと言われるのは、孔子の子孫、75代目と言われる孔祥熙と結婚した長女靄齢。

権力と結婚したと言われるのは、孫文亡きあと指導者となった蒋介石と結婚した三女美齢。

国家と結婚した、映画では「祖国と結婚した」と訳されていたのは、孫文の秘書から妻となった次女の慶齢で、マギー・チャンが演じていたのはこの慶齢でした。

個人的な印象かもしれませんが、近代史について、日本人の多くは客観的な情報をしっかり得ている、とは言えないのではないかと思っています。

理由は、小中学校で学ぶ歴史も縄文時代から時代の流れであることが多く、近現代史はどうしても時間のしわ寄せや、小学校だと中学受験がある子もいて、なかなか充分に時間がとれていない印象があるからです。

また、情報を得ようとすると、日本が韓国・中国・東南アジア諸国にどんなひどいことをしたかか、アメリカとの戦いでどんなひどいことになったかなどどうしても日本がメインの情報になることが多い気もします。

そんななか、この「宋家の三姉妹」は、あくまで中国の、権力に近い上流家系が主軸となる物語なので、全く違った角度から近現代史を見ることができます。

とはいえ、この映画は中国と日本の合作であること、物語のメインが対日本ではないことから、日本のした事がリアルに書かれているとは言えません。

わかるのは、中国が、対日本以外に国内的での苦しみを抱えていたことです。

外傷を治すのは難しくないが内部の傷は深い。
革命を起こす人もいれば革命で作りあげられる人もいる。

ままならない葛藤が次々に起き、描かれます。

そんななかでも、マギー・チャン演じる慶齢は、親子ほど年齢が違うものの、反対する父親から駆け落ちまでするほど敬愛していた夫・孫文の、裸足の子どもがいなくなる社会を思い描いてぶれません。

妹の夫である蒋介石を公然と批判することも辞さず、最後までその思いをつらぬきます。

その夫が見ていた未来を信じ続ける強さが、マギー・チャンの凛とした美しさを通して、胸に迫ってきます。

映画はそこでおわりますが、そのあと、中国を吹き荒れる文化大革命の嵐のなかでの彼女はどうだったのだろうか…とその先まで想像すると、さらに、歴史の複雑さ、表だと思っていたものが裏になったりする捉えどころの難しさを感じることができます。

この映画でも、孫文がこと切れる前に遺言にサインするとき、それを手伝ってあげるマギー・チャンの手のきれいさに目が奪われます。
そして、ふたりの別れのシーンの美しくて静謐なこと。

歴史を描きつつ、しっかりエンターテインメントになっている名画です。

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