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【J1 第6節 vs 柏 レビュー】結果ほど悲観する必要はないが、課題は引き続き・・・

この記事でわかること

・”前半の内容が良かった”要因
・ビハインド時にできなくなってしまったこと
・失点の原因
・大槻監督が何を求めているのか

はじめに

J1第6節、柏戦は0-4で敗戦を喫しました。数字を見るとホームで4点差の敗戦はショッキングかもしれません。しかし、結果ほど内容は悪かったでしょうか?
ギリギリで残留したチームが、クラブ全体で共有したコンセプトで全く新しいことをスタートさせた今シーズン。こういう結果の時ほど、引きずられすぎずに冷静に評価していくべきだと思います。
そのために、今回のレビューではできていたこと(= GOOD)、できていなかったこと(= BAD)を整理していきます。
スタメンは下記の通り。変更があった武藤、ファブリシオ、関根、エヴェルトンは全員、良い影響を与えていたと思います。

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GOOD① 主体的な守備から素早いポジティブトランジション

この試合の浦和はプレス開始ラインをこれまでより高く設定し、より前から追い込んでいく姿勢を見せました。特に前半は2トップから相手のCBを追い詰め、選択肢を奪った状態で長いボールに逃げさせる。そのボールに対応するバックラインと、回収をサポートするボランチが正しい位置でプレーできていました。
また、前からのプレスが外された際はファブリシオを含めて4-4で正しい布陣に再配置することもスムーズに行えており、ボール非保持の局面は全体的にうまくいっていたのではないでしょうか。
そしてボールを回収してから縦、一番遠い2トップにボールを渡す意識も高く、コンセプト遵守の基本に立ち返りゴールに迫るカウンターも見ることができました。特に今節初のスタメンとなった武藤の、立ち位置を下げすぎずカウンターへの起点になる動きは秀逸。
良い守備から素早いトランジションでゴールへ迫るシーンはキックオフ早々に複数回、再現できました。特に2:40~ 5:20~のカウンターは良かったと思います。【図1】

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【図1】主体的な守備から素早いポジティブトランジション (約6秒毎に変化)

GOOD② 「正しい立ち位置」で相手の弱点をつくビルドアップ

前節のFC東京戦で、サポーターの中でもボール保持の質がどうなのか、という話題が出ていたと思いますが、今節の前半はある程度整理されていたのではないでしょうか。柏のボランチが人に、前に強い意識を持っていることを利用し、スペースを創出してファブリシオや関根がMFラインの背後で受けたり、武藤が裏を取ったりと良いビルドアップができていました。
7:30~のシーンでは柴戸の立ち位置と運ぶドリブル、山中とファブリシオの相手に影響を与える立ち位置から武藤の裏抜けでシュートチャンスまで持っていきます。
山中とファブリシオがSHとSBをピン留めし、柴戸をフリーにします。ボールを持った柴戸はすぐボールを離すのではなく、ヒシャルジソンに向かってドリブルを開始。レオナルドの立ち位置も作用してヒシャルジソンに迷いを生じさせ、武藤へのパスを成功させます。【図2】

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【図2】7:30~ のビルドアップ (約6秒毎に変化)

22:50~のシーンではエヴェルトンと山中が、相手に影響を与えるポジションを取ります。一度エヴェルトンにパスを入れることで大谷を釣り出し、さらに自身が動く事で大谷を動かしてパスコースの創出を行います。トラップが乱れましたが、関根がライン背後で受けることに成功しました。【図3】

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【図3】22:50~ のビルドアップ(約6秒毎に変化)

28:50~ でも同様にヒシャルジソンの裏にファブリシオが入ってボールを受けています。

ビルドアップがうまくいった際に共通しているのが、「数的優位を確保して出し手が時間とスペースを得ること」、「出し手(柴戸)が運ぶドリブルをしていること」、「周りの選手(エヴェルトン、山中、ファブリシオ)がポジションで相手に影響を与ていること」、「受け手(関根、武藤、ファブリシオ、レオナルド)がライン背後で待っていること」です。
柴戸が降りて得た数的優位や、立ち位置で得た優位を活用してボールと共に優位性の貯金を届ける。大槻監督がやろうとしていることを表現できており、非常に良かったと思います。
しかし、これらはビハインドの展開から後半に時間が進むにつれあまり見られなくなります。

BAD① 配置が整っていないのにプレスをかけてしまう

ここからは、できていなかったことを見ていきます。1失点目はある意味事故だったとして、2失点目の分析をすることで何が良くなかったのかを整理していきましょう。
50:40~のシーンです。柏が左サイドでボール持ったところで関根がプレスに出ますが、ここで注目していただきたいのが周りの選手の立ち位置です。
その前のプレーの流れから、第2ライン、特に関根 - エヴェルトン - 柴戸のポジションが崩れている状態です。距離感や位置関係が悪く、ゾーンディフェンスの原則である鎖でつながったようなカバーの関係性が構築できていません。本来は浦和が作りたい2vs1の局面を作られたことで、関根のプレスはかわされ、背後にパスが通ります。
そこから連鎖的にカバーができずに、柏のボールホルダーに時間とスペースを与えてしまいました。その結果、システム上のリスクとして許容して捨てている逆サイドへの横断、サイドチェンジを許すことになり失点に繋がりました。【図4】

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【図4】2失点目分析 - 準備不足の状態でプレス開始 (約6秒毎に変化)

もちろんクロスを跳ね返せなかったことにも原因の一端はありますが、採用しているシステム、守備方法から逆算すると本質的にはプレスを開始したタイミングや立ち位置のミスから始まっています。このような状況の場合、前からボールを奪いに行くのではなく、一旦正しい位置に戻って組織を構築するところから始めるべきです。

BAD② 悪い意味での「縦」。早く前に、足元に、のビルドアップ

前半にある程度再現できていたビルドアップですが、時間の経過と共に同じようにシュートへ持っていくことができなくなります。
これはネルシーニョ監督が打ったヒシャルジソン→三原の交代や、ライン設定などの采配もありますが、浦和は自ら悪循環に嵌っていきます。
FC東京戦でも見られた事象ですが、相手の組織を縦横に広げたり、ラインを越していくという意識が薄れてしまうように見受けられ、中央の狭いところへボールを持っていってしまったり、ボールを受けにラインの背後ではなく前まで下がってきてしまう場面が目立ち始めます。
その結果、前線にボールが届いても優位性の貯金がないため思うように攻撃が進まず、ネガティブトランジションの準備もままならないままボールを奪われてはカウンターを受けるという流れです。【図5】
ビハインドの焦りかは分かりませんが、前半にできていた優位を確保して、活用して前線に届けるという流れが実行できない場面が散見されました。
55:30~の3失点目では、FKから素早くリスタートしますが、バックライン、ボランチがあまり良い位置関係ではありませんし、前線の準備もまだです。逆に準備ができていた柏のプレスで右サイドに誘導され、ボールをロスト。当然ネガティブトランジションの準備もできていないので、カウンターで失点します。

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【図5】3失点目分析 - 準備不足の状態で早く、前に (約6秒毎に変化)

59:00~では前半に良かったパターン、CB+ボランチで優位を確保してからのビルドアップですが「運ぶドリブル」「ライン背後で待つ」ことが欠けています。中央の連携でシュートまで持っていきますが、最初の数的優位を全く活かせていません。

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【図6】優位性で得た時間とスペースを前線に届けられない

前半では同様の状況で、関根とファブリシオが柏のMFライン背後で待っていたのに対し、汰木は同列まで下がってきてしまいます。この場合、ボールを受けても再びMFラインを越える作業から始めなければいけません。
そして岩波も、その汰木に対して早いタイミングでボールを手放してしまいます。また、岩波は神谷に選択を強いるような運ぶドリブルは見せませんでしたし、MFラインの背後、更にはスクエア間と呼ばれる4人の中間という素晴らしいポジションを取った杉本にもボールは出しませんでした。
結果的に、柏の組織から人を引き出すこともなく、MFラインを置き去りにすることもなかったため、数的優位で確保した時間とスペースはここで清算されてしまいました。この後杉本と興梠でシュートまで持っていきますが、柏の第1ライン、つまりFWのラインを良い形で越えた分が前線に活かされれば、もっとゴール期待値が高いチャンスが作れたはずです。【図7】

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【図7】「正しい位置」を取り、「運ぶ」とどうなるか

このように、汰木はMFラインまで下がらずに最終ラインに影響を与えることで杉本をサポートできますし、岩波は運ぶドリブルを行うことで神谷に選択を強いることができます。そのタイミングで山中が大外に開けば、時間とスペースを与えられます。杉本に入った後に汰木に渡れば一気に1on1の状況を作れますし、山中に渡せばここから精度の高いボールを配球できる山中の強みを活かせることになります。
最初の数的優位で確保した時間とスペースという貯金を、ゴールに繋がる仕事ができる人へ引き継ぐ。これを行うために、大槻監督は「正しい位置にいる」ことを求めているわけです。

結果ほど悲観する必要はない

「やろうとしていること」はそれなりに見える試合だったと思いますし、ある程度形になる時間帯もあった試合でした。個人的には、0-4という結果ほどは悲観する必要はないと思います。ただし、後半で詰まった課題が改善するにはまだまだ時間がかかりそうだなという印象は受けました。
中断明けは内容の割には勝ち点が取れていましたが、今節は内容の割には勝ち点が取れなかった試合だったかなと思います。

エルゴラッソの浦和担当記者さんのツイートですが、大槻監督が求めていることができていたのが前半、できなかったのが後半だったのではないでしょうか。
このあたりはチーム戦術の他に個人戦術が求められる部分でもあり、過密日程のため、積み上げ・改善の速度は緩やかかもしれません。
しかし、特に前半は監督の戦術をピッチ上で表現できたうえで、ゴールになってもおかしくないチャンスを複数回作っていたことをポジティブに捉えたいと思います。

おわりに

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