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【レビュー】焦れない勇気 - 2021 J1 第10節 セレッソ大阪 vs 浦和レッズ

2年ぶりの3連勝で迎えたC大阪戦。

日程的には浦和が有利で、浦和と同じようなサッカーをする徳島相手にC大阪は苦戦していました。

メンバーは武田の怪我が回復せず、敦樹がスタメン出場。コンディション不良だった柴戸も復帰しました。

試合のほとんどの時間で主導権を握りながら、結果は0−1の敗戦。なかなか点が入らない中での失点でショックもあったと思います。

シュートを打つまで手数をかけすぎだ、と感じた方も多いかもしれません。リカルドのチームがなぜ「もっと早くシンプルにゴール前へボールを送る」攻撃や「少しでもチャンスがあればシュートを打つ」攻撃をしないのか、解説していきます。

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サッカーというゲームをどう捉えるか

今節の試合を考えるにあたり、リカルドがサッカーをどう捉えてチームや戦術を構築しているか、という点を再確認、予想する必要があります。

ボールを持って攻撃し、攻⇨守の切り替えではプレスをかけて即時奪回を目指す。ボールを持っていること試合を掌握するのならば、ボールを持っているときに失った時の準備をしておき、なるべく早くボールを取り戻す。

また、その準備が行えているからこそ、危険なカウンターを受けずに済む。その結果として、長いシーズンを戦ううえで再現性を高めること。すなわち偶然性をなるべく排除すること、というところでしょうか。

これを昨年まで標榜していたのがC大阪です。しかし、ロティーナからクルピに監督を替えると、チームとしては逆の方向へ舵をとっているように見受けられます。

事実、今節ではC大阪の組織的なプレスや攻撃はほとんど見られなかったと思います。それでも、清武をはじめ突出した個人を有するチームですので「何かを起こせる」状態を迎えれば、ゴールに近づくというわけです。

これらを踏まえて筆者は、戦前のプレビューとして「ボールを持ち、ゲームの主導権を握ることはできると踏んでいる。相手の偶発的なゴールが生まれる機会を極力少なくするために、点が入らなくても焦れずにゲームをコントロールすることを優先できるか」という話をしました。

あとは決めるだけの前半

試合開始2〜3分で前半の様相は固まりました。戦前の予想通り、浦和はボールを持って試合をコントロールすることに成功。相手を押し込み、ゴールを取るための崩しを何度もトライする形になりました。

清武の個人の質が高く、攻⇨守の切り替え(ネガティブ・トランジション)の局面で即時奪回できないシーンは複数回ありましたが、危険なカウンターに繋がれることもなく、前半は概ね問題なく試合をコントロールできていたと思います。

ボールを握れた浦和のアクションはいつも通り「相手がどうするか」次第。C大阪の守備の配置は4−4−2ですので、素直に見ればまず空くのは2トップ脇です。

主に右サイドで、西がこの位置を取ることで前進する場面が多くなります。C大阪としては清武を前に出したかったところでしょうが、その背後で関根と小泉が5レーンを埋める立ち位置で影響を与えていたため、ビルドアップは難なく形になりました。

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そこから立ち位置を活かしてパスコースを空け、MF背後へのパスを刺して敵陣の奥に侵入。最後の崩しへの移行もそれほど苦労することなく行えました。

また、C大阪は2トップのプレスバックも希薄なため、右サイドでの前進を見せながら背後にポジションを取る柴戸を経由することもできました。中央を経由して逆サイドの山中へサイドチェンジすることで、相手の組織を横に揺さぶる攻撃もできていたと思います。

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左サイドのビルドアップでは敦樹が低めの位置を取ることも多かったですが、その分は山中がいつもより更に高い位置を取ることで前線のリソースを確保できていました。

右サイドのビルドアップで優位を得て、その優位を使って相手を右に寄せることでサイドチェンジを最大限活かせていました。

このあたりは、浦和が相手を見た良い立ち位置を取れていることもありますし、C大阪の守備組織の稚拙さにも助けられたと思います。ロティーナ時代には考えられなかったことです。

試合序盤からボールを握り、安定したビルドアップと前進、それをベースに攻守の切り替えもほぼ問題なくできていたので、あとはゴールを決めるだけ、というシチュエーションでした。

最後の局面になるとPA内低い位置まで下がるのがC大阪。それを見越してか、浦和はマイナスのクロスが多くなりました。ここでもあくまで「相手を見てもっともダメージを与える」原則は変わりません。

また、大外に相手のSBが出たらその裏へとランニングするシーンも増えてきたと思います。右サイドは小泉が大外を取ることが多かったですが、スピードのある関根にこの役割を任せたほうが効果的だという判断かもしれません。

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しかし、前半のうちにゴールを得ることはできませんでした。

"早くゴール前に"が生み出す結果

前半の様子を見て、「もっとシュートを打てば良いにの」「シンプルにクロスをあげれば良いのに」と感じた方も多いのではないでしょうか。

ゲームをほぼ完全に掌握し、あとはゴールを決めるだけ。でもゴールは決まっていない。こうなると「早くゴールへ」という気持ちがプレーに出てくることは得てしてあります。

後半の浦和はそういった「ゴールへの気持ち」がはやる場面が増えます。リカルドのサッカーにおいて、それが何を意味するのか。試合の展開がどうなるのか。

リカルドは下記のように発信しています。

リカルド監督 4/2 定例会見 抜粋
「押し込んでいるところでの我慢、焦れないことは少し欠けているかもしれません。焦れずにボールを持ち続けていれば必ずそういった場面が出てくると思いますが、少し無理をしながらプレーしようとしたり、準備ができていないところでクロスを上げたりしてチャンスにつながらないこともあります。ただ、その部分は必ず良くなっていくと思います」

つまり、早いタイミングでシンプルにクロスを上げることや、準備ができていない状態でシュートを打つことをあまり推奨していません。

攻撃的なサッカーを標榜するリカルドが、なぜそういう指導をしているのか。その理由がこの試合の後半に詰まっていると思います。

後半から敦樹に代えて興梠を投入。敦樹がどうこう、というよりは「あとは決めるだけ」だったのでフィニッシャーを投入したという理由だと思います。

対するC大阪もSHを交代。大外をケアさせると同時に、浦和のビルドアップの3枚目に対してはCHの奧埜を前に出す姿勢を見せます。

とはいえ、中央の選手を2トップ脇に出すことは元から距離がありますし、一番危険なエリアを気にしながらポジションを離れる難しさはあったと思います。

結果として、槙野や小泉が2トップ脇で余裕を持つことができ、右サイドへのサイドチェンジも多く出せました。

その右サイドはというと、興梠投入で役割が変化。関根が大外を担当するようになり、得意のドリブルや武藤とのコンビネーションを発揮する機会が増えました。

両チーム、選手交代と役割の変化はありつつも大枠の構造は変わらず。浦和がボールを持って「あとは決めるだけ」という試合展開で後半も進みました。

しかし、時間が経つにつれて浦和の攻撃が徐々に変化していきました。先述した「早くゴール前に」というプレーが徐々に顔を出し始めます。

まずは57:20のシーン。良い前進を受けて山中が大外でボールを持ちますがここでアーリークロスを入ると、C大阪に跳ね返されます。直後に小泉が第一守備者として即時奪回を目指しますが外れ、戻った山中のスライディングも外れました。結果として、C大阪にオープンなスペースでボールを持たれます。

この状況で下がらずに前へ止めにいくことは愚策中の愚策。当然、浦和の最終ラインは最後の防衛ラインであるPA前まで撤退を余儀なくされます。

自陣に運ばれ、ロングスローが武器であるC大阪にスローインを獲得され、小泉のVARに繋がりました。5分以上の中断を挟み、C大阪にボールを返したところからス再タート。

自陣から繋ごうとしたボールを奪われてCKを献上。そのCKで、もう一度同じ場面があったら入らなさそうなシュートがゴールに吸い込まれて失点します。

ゴール自体は不運ですし、自陣に運ばれたこと、山中のクロスがややミス気味だったことや小泉のプレスが空振りしたことも紙一重の部分ですので、そこに100%の原因を求めるのは酷かもしれません。

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しかし、ほぼ完全にゲームを支配し「あとは決めるだけ」の状況で先制点を許したショックは選手たちのリアクションを見れば汲み取れるでしょう。

失点後の浦和は「早く前に」というプレーが徐々に増えます。72:45では明本が敵の密集地帯に無理矢理ドリブルをしたり、76:30や77:00では早いタイミングで中央へ確率の低いパスをつけてロストします。

いずれも相手を押し込み、セットした状態で攻撃を行う前にボールを失っているため、攻⇨守の切り替え、ネガティブ・トランジションのための配置は取れていません。

すると、失った直後にカウンタープレスはかからずC大阪にスペースを提供することになり、再びPAまで後退。これは「コントロールを失った状態」、いわゆる「オープンな展開」です。

リカルドが試合展開によってどこまでこの状態を許容しているかはわかりませんが、これまでの戦いを見る限り推奨はしていないはずです。

逆に、74:00や79:00の決定機ではしっかりと相手を押し込み、簡単にクロスを上げず、左右に揺さぶって最後のシュートまで到達しています。

コントロールすることの意味

リカルドが目指しているサッカーの目的のひとつとして、90分の中でなるべく多い時間を自分たちのコントロール下に置き、「何が起きるかわからない」という偶然性を減らすことにあります。

あくまで「自分たちがコントロールして意図的な攻撃の場面を増やす」ということであって、「何が起こるかわからないけど、ゴール前のシーンが多く、シュートシーンも多い」ということではありません。

攻撃がゴールに繋がることの方が圧倒的に少ないサッカーというゲームで、ボールロスト後の切り替えのコントロールが効かない状態は「どっちがチャンスを迎えてもおかしくない」ことを意味します。

これは、ボールを持つことを起点にしてゲームをコントロールしようとしている浦和にとって、ポジティブな意味を有するでしょうか。

少しでもチャンスがあればシュートを打つ、もっとシンプルにゴール前へ。これを行うと、攻⇨守の切り替えの準備が整わない状態でボールを失い、切り替えのプレスが物理的にかけられない。相手にスペースを与え、自陣ゴール前まで下がらざるを得ない。

早く、シンプルにゴール前へと進まずに試合をコントロールした前半では反撃の機会すら与えませんでしたが、後半は徐々にオープンな展開が増えてC大阪のチャンスも増えました。

ゴール前からゴール前へとボールが行き交う状況では、意図した切り替えの守備やディレイが行えず、相手は個人や数人の能力だけでシュートチャンスを得ることができます。

C大阪も決めきれず、2失点目を喫することはありませんでしたが、決まっていれば試合は終わっていました。

最後はパワープレーも見せましたが、0−1で敗戦しました。

まとめ - コントロールを保つ勇気

今節は「あとはゴールを決めるだけ」という状況で、時間が進んでも焦らずにコントロールを優先できるかという課題に直面しました。

これはチームにとっても、筆者を含めてサポーターにとっても、とても難しいことだと思います。手応えのある内容で試合が進んでいる中でゴールがないと、ゴールへはやる気持ちがどうしても生まれてしまいます。「ゴール前でキレイにやろうとしすぎ」という具合に。

また、サッカーというゲームは偶然性をなるべく排除しても完全には排除することはできません。

今節のように、10回あれば8回は入るような決定機を複数回作っても1点も入らず、ほとんど与えていなかったチャンスから10回やっても1回入るかどうかのシュートがゴールになり、負けることもあります。

浦和が取り組んでいるのは、あくまで再現性を高めること。確率の問題なので90分や45分のスパンではその通りに結果が出ないこともあります。

確率は試行数が多ければ多いほど収斂していくので、コントロールしている時間が長い試合が増えるほど、シーズン、ひいては来年も含めた数年単位で安定した結果を残せる。そういう考えで現在のチームは構築されていると思います。

前にチャンスがあるなら早くゴール前まで行って、シュートを打つ。ドリブルでひとり、ふたりと抜く勝負の姿勢。広いスペースがあっても運動量豊富に走って相手の攻撃を食い止める。最後の1on1で負けずに跳ね返す。そういうサッカーが好きだ、という好みはあると思います。事実、圧倒的な個人を揃えた2006年前後の浦和が勝利した方法論でもあります。

ですが、現在の浦和はサッカーというゲームをそうは捉えていません。そのアプローチは属人性が高すぎて中長期的な結果を担保できないからで、近年の失敗そのものだからです。

また、リカルドの出身地であるスペインを始めとした欧州では主流の考え方で、近年はそういった思想を取り入れたチームがJリーグでも結果を残しています。

なるべく多い時間を自分たちでコントロールすることで再現性を高め、偶然性を排除する。主導権を握ることで「次の局面への準備」が完了した状態でリスクのある攻撃を始め、ボールを失っても準備をベースに再び取り返す。自分たちのゴールの確率を上げて、相手の確率を下げる。そうして、安定的かつ継続的な結果を得ることを目指す。

今季の浦和のアプローチです。そのためには、たとえ点が入らなくても焦れないこと。「あとは決めるだけなのに、決まってない」状況で前へとはやる気持ちを抑える勇気を持てるか。今節はリカルドのチームと我々サポーターが成長するにあたり、多くを学べる試合だったと思います。

とはいえ、数多く作れていた決定機のうち、ひとつでも入っていれば問題は起きなかったようにも思います。特に失点後は自らコントロールを手放す場面も散見されましたが、そうでない場面も当然ありました。

また、いわゆるオープンな状態というのはある意味、両者のゴールの確率を上げる手法でもあります。それを手段として利用することをチームとして良しとしているかは、今後、同じような試合展開になった時にわかるかもしれません。

もちろん、最後の質という部分を突き詰めることは必要です。ですが、主導権を握ってコントロールした試合を続けていれば、今節と同じような相手に結果を得る確率は高いと個人的には考えており、問題はないと確信しています。

今回もレビューを読んで頂いたこと、感想や意見をシェアして頂いたこと感謝です。ありがとうございます。

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