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削蹄師という縁の下の力持ち

 牛や馬の蹄を削る「削蹄師(さくていし)」。人間も定期的にツメを切るように、牛も定期的にツメのお手入れが必要だ。ツメがいびつに伸びてしまうと、巨体をうまく支えられず足の病気になってしまう。逆にツメを整えておけば乳牛は乳量が増えたり乳質がよくなったり繁殖効果が高まるという。

たかがツメ!されどツメ!

もっと正確に言うならば、爪というよりも「蹄(ヒヅメ)」の方が正解だ。人でいうと靴に近い役割なんだそう。たしかに、合わない靴は靴擦れが絶えないもんな。

 実際に削蹄の現場へ向かうと、ウィーンと大きな音が響き渡り、足が固定された牛が工具で余分なツメを削りだされていく姿が目に入った。その姿はまるで「早く終われ~!涙」と歯医者で半べそをかく子供のようだった。削蹄が終わると、ちょっとすっきりした様子で牛舎に戻っていった。

吊るすようにして足を固定する


回転するローラーで足の爪を正しい形に削る

「削蹄師になるには“牛の扱い”と”削蹄技術”が必要。まずは削蹄師の弟子になってアシスタントとして仕事をスタートするのがいいでしょう。のちに削蹄師の免許を取得すれば独立する際に役立つと思います。動物の扱いに慣れていたり、牛や馬といった大動物が好きな人にうってつけ。また、出費が少なくスキルひとつで独立もできるのも魅力です。仕事が終われば趣味の時間をしっかり持てるので、趣味も充実できますよ」と削蹄師の大町さん。

 大町さんの優しい顔を見ていると、キツい仕事じゃないのではないかと思ってしまうが、それは違う。今回はひとつの牧場で300頭の削蹄を依頼され、2人で1日30頭。10日間で300頭の作業していた。1頭あたり5分程度の作業ではあるものの、300頭とはすごい数だ。大町さんは2人でチームを組んでいるが、8人ほどで1日で終わらせる削蹄チームもあるという。基本的には1牧場あたり年2回のペースで依頼。病気になっていないか予防と治療を兼ねた定期健診のようなイメージだった。

大町さんは、病気になってしまった牛の足がよくなったりすると嬉しいと言っていた。牛のお医者さんのようだった。酪農家がどうして削蹄を依頼してくるのかと言えば、序盤にも少し言ったが、乳量の増加、経済寿命の延命、繁殖成績の向上、蹄疾患の予防と治療のためだ。

「牛は優しい動物だが、予測不能な部分もある。突然動いて足を踏まれるかもしれないし、壁と牛との間に挟まれるかもしれない。削蹄師は怪我をする可能性も高い。いつでも気が抜けない」。人間も牛も信頼し合ってお互いに節度をもって近づくことは、簡単そうで難しいと思った。

ちなみに、牛が野生でのびのび駆け回っていたり、放牧をしている牧場では削蹄師がいなくとも自ずと爪は削れるらしい。牛が家畜となり、飼料効率や(人間の)作業効率を高めるための集約的農業が普及したことが大きな要因となり、削蹄師の需要は増えた。

人間が生んでしまった病であり、それは人が治してあげないといけないと思った。

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