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パン屋録#4/60代起業の強み~Connecting the dots~

習うことと慣れること

飲食店のシェフは「どこどこ(有名店)で、何十年も修行を重ねました!」が肩書きに語られる印象が強い。
60代の両親はパン屋になるために何十年も修行を経ていたら、うっかりすれば死んでしまう(^^;

習うことと、習うより慣れることの取捨選択が最初の課題だった。

短期間でポイントを絞って教えてくれる場所は、私の想像よりはるかに多く存在した。よく「成長機会は身近にある」と言うが、探せば本当にあるんですね。

店舗の内装や初期の接客対応といった、「一度決めたら変更しにくい要素」は習うに限る。

内装は工房に2機のオーブンを置き、売り場からパンを作っているところが見えるようガラス張りにした。
お客さんが抱く接客の第一印象も容易には変えがたいため、初めの数日間はスクールの方にみっちり指導してもらった。

一方、どのパンを何時に何個作るか、どのように準備すればミスが減るかなど「いくらでも変更できる要素」は試行錯誤がモノを言う。習うより慣れよ。万人に共通する唯一解はなく、自分自身で最適解を探すしかない。

Connecting the dots

60代の起業は、若手と比べて経験値という圧倒的な強みがある。

父は会社勤めをしていた頃、経理や財務を担当していた。
パン屋の創業以来、決算や税務申告など、すべての書類業務は父が一人で行っている。パンの価格は大幅に値上げできないので(そうすれば、途端に売れなくなる)、利益率を高めるためにも間接費を削減できる意味は大きい。

母は長らく専業主婦をしていた。
娘二人には、いわゆる面倒なお年頃がちゃんとあった。「太るから揚げ物食べない」「このおかず、昨日と一緒じゃん」などと文句を言うので、カロリーへの配慮や食材の活用術に長けている。

パン屋のお客さんは、特に初期は女性が多かった。
母の意見を取り入れ、カレーパンは揚げずに焼くことでカロリーを抑えた。またランチをパンで済ませる方のために、お惣菜パンには野菜をたくさん入れている。

私はお客さんから「美味しい」と言っていただく以上に、「ここのパンは、ちゃんと具材が入っている」と言っていただけることがうれしい。
そうなんです、それが両親のパン屋なんです、と誇らしい気持ちになる。


スティーブジョブズは、2005年、スタンフォード大学の卒業式で「Connecting the dots」と演説した。同大学を中退した彼だが、聴講生として習ったカリグラフィー(美しい書体)の授業が楽しくて、Macにスタイリッシュな要素を取り入れることができたという経験を語ったものだ。
人生における点(経験)と点(別の経験)は、後からつなぎ合わせることができる。そう信じることの大切さを言っている。

「点」をつなぎ「線」にすることは、事業をつくる以上の効果があると思う。

30代の私にも人生で回収できていない「点」は多く、ふと悔しさがよぎる。
あの時、もっとできなかったかな?
あの時、なんで続けなかったんだろう?
何者にもなりきれない自分に苛立ち、理由を過去の「点」に押し付けてみる。

もし将来、「線」を構成する1要素に昇華できれば、置き忘れられた「点」は成就するのではないだろうか。キャリアを通じて過去の自分をより認めることができれば、それはキャリアを越えた幸福につながると信じている。

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