コーヒーという「趣味」のはじめかた。 (前編)
先だってより「趣味」というものについて、考察している。
いよいよ本題に入ろう。
人間にとって、「趣味」とはいったい何なのか。
それを解明するためには、まずその「趣味」がどんなきっかけで始まり、未開拓だったところから趣味というレベルにまでどのようにして達してきたのか、という点について探るべきであろう。
通常、「趣味」という言葉には、それなりの「好き」という気持ちや、ある種の「のめり込み」のようなものを伴って、一定期間の継続を経ていることが含蓄されるように思う。
─私の趣味は、将棋です。
という人に対して、まさか彼が昨日将棋を始めたばかりの人だ、とは誰も想像しないはずである。
ただ、その好意の度合いや、要する期間の長さについては、かなり幅があるといってよいだろう。
それは「趣味」という言葉の性質上、本人が「趣味」だと言えば、それは趣味に他ならず、趣味ではないと否定する理由を本人以外が持たざるものだからである。
ちょうど最近、私も新しい趣味を始めた。
(ここで、趣味を始める、という言い方が果たして正解なのかどうかは一旦置いておこう)
それは、
「コーヒー」
である。
「コーヒー」と一口に言っても、飲む、淹れる、焙煎する、など様々な嗜みがあると思われるが、敢えてここは「コーヒー」とだけ言いたい。
そもそも私は、コーヒーを飲むのが苦手だった。
というより、全然飲めないクチだったのだ。
私とコーヒーとの出会いは、恐らく中学校に上がったばかりの頃。
親戚の家を訪れた時、それまで「子どもはこっちね」と出されていた冷たい麦茶が、「中学生になったから」と突然、温かいコーヒーに変わったのだった。
ソーサー付きの真っ白いカップに注がれたブラックのコーヒー。
口に含んだその味は衝撃的で、喉を通すのに相当の時間を要した。
─なんと酸っぱくて、渋くて、苦い。
勧められたままミルクと砂糖を入れてみるも、第一印象は拭えず、隣で空になっていた母のカップと自分のなみなみとしたカップを静かに交換したことをよく覚えている。
それ以来、コーヒーは苦手な飲み物だった。
コーヒー牛乳や、コーヒー味のアイスクリームなどは好んで食べていたので、コーヒーの風味は決して嫌いではなかったのだが、どうも酸味と渋みが受け入れられなかった。
大学時代、とあるイベント企画の団体に所属していたこともあり、企業を訪ねる機会などが増えると、意図せずしてコーヒーを出される、という場面に出くわすことも多くなった。
こうしてコーヒーは、苦手だけど頑張れば飲める飲み物となった。
そんな私のコーヒー人生に、突如として転機が訪れる。
それは、就職後、仙台への転勤を命じられたことだった。
地元を離れ、休日をともに過ごす相手を探しあぐねて、ひとりカフェに通うようになったのである。
仙台は、言わずと知れた(?)カフェ文化の根付いた町。
犬も歩けば、といった具合に様々なカフェが立ち並んでいる。
雰囲気の良いカフェをハシゴしていると、コーヒー豆を焙煎した香りが何とも心地よいことに気付く。
そんなカフェ巡りの休日を過ごしているうちに、最初は紅茶やココアをオーダーしていた私も、
─コーヒー、飲んでみようかな
という気にさせられていた。
しかし私には、トラウマがある。
あの、酸っぱくて渋い思い出の味。
そこで私は、コーヒーについて勉強することにした。
コーヒーの味について。
豆の違いや、焙煎度合い、豆の挽き方、淹れ方によっても味が異なるということ。
カフェオレ、カフェラテ、カプチーノ。
酸味が苦手な私は、深煎りのエスプレッソでカフェラテにすると、どうやら飲めそうだ、ということが浅い知識ながらに分かってきた。
なるほど、カフェラテを飲んでみると、美味しかった。
ほぼ、コーヒー牛乳だった。笑
とは言い過ぎたが、私の好きなコーヒーの香り部分だけを楽しむことができる上に、舌触りはまろやかであたたかく、ほんのりとした甘みが体の中に溶けていくようで、これは好きだ、と思った。
さらに、当時流行り始めていたインスタグラムで
「ラテアート」
の写真をよく見かけるようになった。
説明するまでもないが、カップの表面にミルクの泡でオシャレな模様を描いてくれるものだ。
写真撮影を趣味とする私にとって、カフェ巡りをしながらラテアートを撮影し、SNSで発信できることは、かなり満足度の高いものだった。
さらに、ブームというだけあって、日本全国のカフェで競うように洒落たラテアートの数々が繰り広げられていた。
これは、旅を趣味とする私にとって、行き先を決める口実にもなる、まさにうってつけのものだった。
こうして私は、コーヒーを頼まないという点において些か居心地の悪さを覚えていたカフェ巡りに、カフェラテ&ラテアートという武器を手に入れて、堂々とのめり込むようになったのである。
(後編へ続く)
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