漫画という情報芸術の一つの読み方

 うつ病を抜けてから漫画を読む回数がかなり減ったけれど、元々漫画は描くのも読むのも好きです。今回は、漫画のテクニックを情報芸術としての視点で考察します。もちろん個人(素人)の意見であり、こんな情報の伝え方があるよ!という紹介&考察です(テクニック解説ではないです)。明文化することにより、絵描き以外の人にも興味を持っていただければと思います。

なぜその場所にフキダシがあるのか

 長いと読んでいて疲れるので、見出しの通りにテーマを絞ります。題材は、南マキ先生の『Get Ready?』1巻p.40~41です。自分を変えていこうとする女の子の物語、是非買って読んでください!

 漫画をテクニック含め堪能するには、見開きで読むのが前提条件だと思っています。よって電子書籍版より見開き抜粋(多少ブラウザの枠が入ってます)。

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 注目したいのはp.41最後のコマの「分かれよばぁか!!」のフキダシの位置です。セリフの内容よりもフキダシの位置です。実際はもっと複雑に要素が絡んでいることが多いですが、一般的な視線誘導ルールでは、フキダシを線でつないだところに重要なものを配置する、というのが基本です。そのルールに則ると、「分かれよばぁか!!」のフキダシはもう少し下(左脇付近)に置くこともできます。「涼ちゃんは可愛いって言ってんだろう」から「分かれよばぁか!!」のフキダシ中央を線で結び、そのライン上にこの場合は人物の顔が入るようにしてみてください。

 視線誘導ルールのみに従って漫画を描くと、そのフキダシは何の意図があってそこに置かれたのかが明確でないことがあります。漫画は読みやすいしセリフはかっこいい、でも感情移入とは少し違う…そんなふうに感じられるかもしれません。私が今回注目したのは、絵だけでなくフキダシの位置でも感情が表現されているからなのです。

セリフの背景とフキダシの位置の関係

 このセリフの背景は、少年?(イチカ)が好意を抱いている相手(涼ちゃん)が『自分はその好意を向けられるに値しない』と考えていて、そのやりきれない気持ちをつい出してしまった、というものです。『つい』出してしまったというところが重要で、これをどう表現しているのかを分解して考えてみると以下の要素があると考えられます。

 人物の顔(口)の近くにフキダシを配置することで、該当コマの人物を見てからその発言がされるまでの時間間隔(ラグ)が少ないように感じる。
 → ラグを少なくすることで衝動的に口に出した表現になる
 人物の体前面を反らせて大きく見せることで、効果線がなくても人物が後ろ方向に動いているように見える。
 → 怒りをぶつけるのではなく、想いをぶつけただけの表現になる(怒りをぶつけるときは、相手に向かっていく表現が多い)
 次のページに安易に誘導するフキダシ等の要素を左下から排除することで、視線が「分かれよばぁか!!」のセリフで溜まり、『わかってもらえなくて先に進めない』気持ちがセリフに乗る。
 → フキダシの配置理由が劇場型演出などの『シーンを印象的に見せたい』ではなく、『人物の気持ちを乗せたい』であると推察できる

 これらの要素が絡むことで、「分かれよばぁか!!」のセリフがフォントをいじらなくても気持ちを多分に含んでいるというのがわかりやすくなり、感情移入がしやすくなります。うーん可愛いなぁ…!

 (補足)
 ちなみに、この左下を大きく開ける方法は漫画のテンポを悪くする副作用もあります。しかし、この場合は左ページ最終コマに配置することで、ページをめくる労力+視線だまり(上記③)の効果でよけいに人物の感情がセリフに乗っているのに、次のページで元通り=テンポを崩さないことに成功しています。見開きで読むとこういうことがわかるので大事です。(付け加えると、絵の表現により漫画のテンポ減速を抑えることに成功しているのですが、テーマを外れるので割愛します)

情報芸術としての漫画

 漫画は絵に文字が付くことで、伝えられる情報量がとても多くなります。なので、それをいかに整理して伝えるか、ということがしばしば問題になります。私は、これが漫画の情報芸術としての側面だと考えています。伝え方にある程度のルールはあるけれど、正解はない…こういう仕事はIT関係にも多いのではないでしょうか。
 ぜひ、普段読んでいる漫画を「ストーリー最高!」「絵が良い!」だけでなく、「この表現が良い」「どうして良いと思ったか言葉にしてみよう!」というようにテクニック面からも堪能してみてください。無意識を客観的にとらえるのは楽しいです。
 情報芸術として漫画を楽しむときに一番大事なのは、作品に優劣をつけないことです。なぜなら、ルールはあるけど正解はないから。多少読みにくい作家さんがいても、それが個性(=芸術としての側面)であることがあるからです。いいところを見つけましょう!

 とっくにテクニック面も重視していて、私のとらえ方についてご意見ご感想があれば是非是非お願いいたします。お互いに勉強になりますね!お…お手柔らかに!

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