見出し画像

「愛するということ」

お盆で帰省している。乗った新幹線はほぼ満席だった。あの狭い座席は格好の読書スポットになる。今回は小難しい本を持ってきた。

エーリッヒ・フロムの「愛するということ」新訳版だ。1956年に出版されたロングセラーの原題は 『The Art of Loving』 (愛の技術)だ。冒頭からこんな調子だ。

愛は技術だろうか。技術だとしたら、知識と努力が必要だ。それとも、愛は1つの快感であり、それを経験するかどうかは運の問題で、運がよければそこに「落ちる」ようなものだろうか。この小さな本は、愛は技術であると言う前者の前提のうえに立っている。しかし、今日の人々の大半は、後者の方を信じているに違いない。

エーリッヒ・フロム「愛するということ」新訳版


以前、結婚に悩んでいた時、友人に「お前は愛が何かを分かっとらん、この本を買ってすぐに読むべし」と言われ、すぐに購入、パラパラとページをめくって眺めたあと、積読セレクションに加えられた本だ。今回この本を手に取ったのは、あることがきっかけだった。
 
二年前の夏、夫婦そろってお世話になっていた方が若くして亡くなった。彼はがんが発覚する約1年前、出会って間もない女性と結婚していた。彼が結婚してからは“新婚さんの邪魔をしてはいけない”と、会う頻度を減らしていた。彼がご病気らしい、という話も風のうわさで聞いた。すぐに会いに行こうとしてもコロナ禍で見舞いや面会も叶わぬまま、彼はあっという間に天国に行ってしまった。
 
奥様とは彼が亡くなる前に数回会ったことがあった。見た目は可憐で美しく、でも中身はしっかりとした、堅実な方という印象だった。したがって、彼女と本当の意味での付き合いが始まったのは、彼が亡くなってからだ。彼の病気が発覚した時のこと、およそ1年半に渡る壮絶な闘病生活についてもすべて彼女から聞いた。
 
新婚一年で結婚相手が病魔に侵され、コロナ禍で家族や他人に頼ることもできず、彼女はたった独りで闘病する夫に寄り添い、最後まで支え続けた。それだけでもすごいと思うのだが、彼が亡くなって2年経つ今も、彼女の話を聞いていると、今も変わらず彼のことを心から愛していて、義理の(彼の)ご家族の元に頻繁に通い、常に気にかけ、大切に思っているのが伝わってくる。
 
彼女に会うたびに彼女の愛の技術に仰天し、己の愛の足りなさにうなだれる。愛が技術だとしたら、自分にはあまりにもその技術が足りない。そう思ってようやく手に取った。読み終えたら感想など書こうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?