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『傘を失ったぼくらに』 #ポエムのある暮らし 最終回


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あの日は雨が降った、となりにきみがいた
風のない夜が心地よかった
ジャケットの右の肩、
しっとりと濡れたその手触りを、ぼくは
今でも憶えている あの日
止まないことを、願った雨のこと

今日、雨が降った
ぼくはひとりだった
濡れた右の、肩を抱いて
きみを護った気になっていた
ほんとうは
とっくに気づいていた、
まっすぐに降る雨に
護られていたのはぼくの方だった
聴いていた、傘を鳴らす 雨の音をきみよりずっと近くで

雨が止んで
傘を失ってしまったら
ぼくらに
証明できるものは
なかった、なにも


あの日は雨が降った、となりにあなたがいた
あなたの差し出す傘にわたしは護られた、風のない夜に
まっすぐに降る雨が奏でる音を、
わたしは今でも憶えている あの日
わたしは護られていた、あなたに

今日、雨が降った わたしはひとりだった
あなたの差し出す傘にわたしは護られていたけれど、ほんとうは
わたしも護りたかった
濡れた右の肩を抱いて
護りたかった、まっすぐに降る雨が
傘を奏でるその音に 耳を傾けてほしかった、もっと

雨が止んで
傘を失ってしまったら
わたしたちに証明できるものはなかった、
なにも


『傘を失ったぼくらに』





ともに生きる目的や目指すべきところ
傷とかも
そんな一切が取り払われたとして、それでもぼくは、きみを愛せるだろうか
長い時間のなかの、ほんの一瞬に
ただ、利害が一致しただけなのではなかったか
傘を失って
訪れた月明かりに惑う
それでも









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