ホビーシーンの転換点、ホビージャパンの「松本零士」特集とは?②
前回は、月刊ホビージャパン(以下、HJ)1976年6月号の「松本零士」特集が、当時のホビーシーンでいかに「異色」だったのかを取り上げた。
今回は、2回目の「松本零士」特集を読み解く。筆者は、この第2回こそ、その後のキャラクターモデルのブームに続く、大きな転換点ではないかと考えている。
表紙を飾るのは、松本零士の架空機作例
「異色特集」から1年3か月、HJは再び松本零士の作品世界を取りあげる。HJ 1977年9月号の創刊8周年特別企画「松本零士の世界 Part.2」だ。巻末12ページ(内1ページは広告)ながら、作例の表紙採用や松本零士インタビューなど、前回よりも内容はパワーアップしている。目次に書かれた紹介文からは、いま読んでも尋常ではない熱量が伝わってくる。
第2回でも、前回同様『戦場まんがシリーズ』から「衝撃降下90度」「ラインの虎」「アクリルの棺」「エルベの蛍火」「我が青春のアルカディア」に登場する機体が取りあげられている。以下が作品一覧。1/48スケールの作例も増え、飛行機だけでなく戦車もラインアップされている。
中でも「衝撃降下90度」に登場する「試作高々度高速戦闘機キ-99」のスクラッチ作品(佐田晶 制作)は圧巻。表紙も飾り、本特集の目玉となった。
「キ-99」は松本零士による架空の機体であり、言うまでもなく既存のプラモデルは存在しない。そのため、作者・佐田晶は、タミヤ 1/48 疾風、オオタキ 1/48飛燕をベースに、漫画の中の飛行機を具体化してみせた。
以前、MAX渡辺は、この「キ-99」の作例について筆者に次のように語っている。「2つのキットをニコイチにして一機をくみ上げるなんて。『発想力・技術力・資金力』とすべてにおいて異次元。アレはホントにヤバい取り組みだったと感じています」
作品のすばらしさに加えて、この架空機がHJの表紙を飾った意味は、ホビー史的にも大きいと筆者は考える。松本零士による架空機、つまりこれは事実上のキャラクターモデルだからだ。第1回「異色特集」が好評だったとはいえ、HJ誌面はもちろん、当時のホビーシーン自体はスケールモデルが中心。かなり挑戦的なアプローチだったと思う。いまでこそ、ロボットや美少女フィギュアが模型誌の表紙を彩るが、1977年は、まだまだ「異色」だったのだ。
作品世界と作例を松本零士自身が補完
もうひとつ、この第2回で大きな意味を持っているのが、編集部による取材記事「対談・松本零士氏をたずねて」だ。目次に掲載された紹介文を引用しておこう。
インタビューは2ページの見開き。『戦場まんがシリーズ』に込めた想い、作例のための色指定などを松本零士が語っている。とくに色指定の解説は、作者自らの「正解」としてモデラーの創作意欲を刺激したことだろう。
後年のガンプラブーム以降、作品の作り手側がモデラー向けにメディアで語るのは、そう珍しいことではなくなる。マニアではない年少モデラーであった筆者自身、大河原邦男や永野護といったメカデザイナーの記事を読んで、「なるほど」とわかった気分でプラモデルをつくっていたぐらいだ。
しかし、1977年当時のホビーシーンで、架空世界の設定を追求するような視点は珍しかったはず。松本零士自身がミリタリーマニアという側面も大きいが。いずれにしても、模型作りのための図面や資料写真が並ぶ誌面の中で、同じぐらいの熱量で漫画に登場する機体を作者自らが語るコンテンツは斬新な企画だったといえるだろう。
こうして「松本零士」特集の軸足は、少しずつキャラクターモデルへと移行していく。次の第3回では、さらにそれが明確に提示されるのだ。
(つづく)
「松本零士」特集の時代背景 ~1977年のおもなトピック~
第2回「松本零士」特集の出た1977年は、SFブームが加速した年でもある。テレビ番組を再編集した劇場版『宇宙戦艦ヤマト』が大ヒット。さらに海外では『未知との遭遇』『スター・ウォーズ』が話題となる(日本公開は翌年1978年)。その中でつくられたのが国産SF映画が『惑星大戦争』。
この時期のアニメ作品で注目は、日本サンライズ制作の『無敵超人ザンボット3』だろう。富野由悠季(富野喜幸)、安彦良和、大河原邦男、スタジオぬえが名を連ねる。設定、描写、ストーリー展開など、従来の勧善懲悪ロボットアニメとは一線を画し、のちのリアルボットアニメの萌芽的作品といえる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?