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編集後記:【枳殻版ゆっくり文庫】夢野久作『縊死体』

 枳殻(からたち)です。
 今回は、拙作【枳殻版ゆっくり文庫】夢野久作『縊死体』をご覧頂きまして、ありがとうございます。
もし見ていらっしゃらなければ、下記リンクから見て頂けると幸いです。


 こちらでは、編集後記と称して、『縊死体』についてや動画制作時のよもやま話を載せていきます。

宜しければ、お付き合いのほどお願い致します。


『縊死体』について

 『縊死体』は夢野久作による短編小説です。1933年(昭和8年)1月に雑誌「探偵クラブ」に掲載されました。
本動画では掲載当時の時代背景をイメージしています(動画内でそんな要素は皆無ですが・・・)。

 作者の夢野久作は幻想怪奇的な作風を持ち味とする作品を多く出しています(『ドグラ・マグラ』『少女地獄』等)。
 その中で、『縊死体』は作中に出てきた謎が解決せずモヤモヤする、いわゆるリドルストーリーという形態を取っています。

リドルストーリーとは

 リドルストーリーは、物語中に示された謎に明確な答えを与えないまま終了することを主題としたストーリーです。


『女か虎か?』F・R・ストックトン
『藪の中』芥川龍之介
『茶碗の中』小泉八雲
『縊死体』夢野久作

 私の思うリドルストーリーの面白さは、雲を掴むようなモヤモヤした状態を脱却するために、最もそれらしい解を考える楽しさにあると思います。
自分なりに答えを出せれば、スッキリして良し、答えが出せなくても、解を考える瞬間の頭をキリキリ使っている感覚が心地いいです。

翻案の方向性

 さて、リドルストーリーである『縊死体』を翻案するにあたって肝となるのは「作中の謎をどう解釈するか?」です。
 ストーリーの中で、男は自身の死体を発見しますが、死体やそれを見ている男の真偽を考えると、どちらが本物だとしても謎となる点が出てきます。
・死体が男本人の場合
 →それを見ている男は誰なのか?どういう状況で殺された?
・死体を見ている男が本人の場合
 →新聞に書かれていた情報、男の見ている死体は誰なのか?

 また、娘の死体が発見されていないため、娘の生死に関する情報も謎となっています。
・娘が生きている場合
 →男に絞め殺された娘がなぜ生きている?
 →男の回想は本当に正しかったのか?
 →「あたしの思いがおわかりになって?」の意味は?(何に対する「あたしの思い」なのか?)
・娘が死んでいる場合
 →娘の死体はどこにある?
 →「あたしの思いがおわかりになって?」と言ったのは誰か?(幽霊か?)

まとめると、以下のようになります。
《『縊死体』の謎》
・1ヶ月前に空き家で死んだのは誰か?
・その状況は?
・男が娘を絞め殺した回想は真実か?
・娘は生きているのか?死んでいるのか?
・「あたしの思いがおわかりになって?」の意味は何?

作成当初は、翻案方向(後半の妄想パート)が動画版と異なりました。娘の癖の強さを出したかったので、かなり大味な解釈をしていました。
【当初版 謎要素の解釈】
《娘返り討ち・妄想説》
・1ヶ月前に空き家で死んだのは男
男に殺されそうになった所を娘が返り討ちにした。
・男の独白は全て娘の妄想(男の思考のトレース→娘の遭遇した現実との混同)
娘「あの人がそのまま私を殺していたら、こういう行動とったんでしょうね」
思考のトレースを繰り返すうち、自分は男だと思い込み男の言動を真似し始め狂っていく。
・男の死体を見ているのは娘。自分は男だと思っている中で自分(娘)の死んでいるニュースを探すも、男の死体の記事をみて驚き、死体を見に行く。
・「あたしの思いがおわかりになって?」は娘自身による幻聴。強いてあげるなら、娘が男になりきることで自身の精神から追い出してしまった、本来の娘の人格の恨み言。

 本文の描写をほぼ無視するような癖の強い構成・状況に自分で振り回されてしまったので、ほぼ原文に沿った前半パートができた段階で妄想パートの練り直しを行いました。

【動画版 謎要素の解釈】
《娘生存・復讐説》
・1ヶ月前に空き家で死んだのは別の男
男も娘も生きている
・男の回想は事実だが、男の知らないところで続きがあった。
・新聞の記述は事実だが、男の受け取った解釈と真実は異なる。
・「あたしの思いがおわかりになって?」と言ったのは、生きている娘
「あたしの思い(吊るされた苦しみ)がおわかりになって?」

 今回は途中の練り直しを経て、最終的に「リドルストーリーとしての矛盾を解く」「キャラクターの言動に無理がない」事を主軸にしたことで、比較的受け入れてもらいやすいシンプルかつ大人しい翻案になったと思っています。
 個人的には、娘が男を殺す動機の歪さをもっと出したいところでしたが、難しい。

 もし《復讐説》で癖の強い動機を考えるとしたら、
・娘は男への報復を恨みとして考えず、報復によって2人は結ばれると信じている。
「男と娘は同じ苦しみを味わうことによって一心同体となる」
「男を吊るしたあと、娘も後追いして来世で結ばれる」
・男に自分の愛の深さをアピールしたい。
「あたしの気持ち(深い愛情)がお分かりになって?」

翻案って難しい……

キャラクター、キャストイメージについて

 最後に、今回の配役についてです。

 ゆっくり文庫様をはじめ、文庫系動画投稿者の方々のキャスティングに影響を受けている節があります。

【男:れいむ】
 比較的凡庸な男性のイメージ。頭の回転は普通程度。やや衝動的。
 原文では、娘を殺した時の独白描写が割とあっさりしてる分、娘の記事が無いことで冷笑する描写が繰り返されてるので、「自身の犯行がバレていないことを楽しむ=ギャンブラー」な側面もありそう。

 初期はまりさとも迷いましたが、文庫配役としてのまりさは(本性を隠して理性的に動けるタイプの)弁舌巧みな好青年のイメージが強かったので、まりさよりも衝動的で凡庸なイメージのあるれいむにしました。


【娘:さなえ】
美女。タガが外れた時の頭の回転は恐ろしく早い。

こういう役はさなえ一択。狂った美女の役はさなえさんの右に出るものはいない。。。。

【大家:みすちー】:オリジナル配役
どこにでもいるごく普通のおかみさん。

 おかみすちーはストーリーの雰囲気を壊さない、ゆっくり劇場きっての名脇役。
女将・働く女性系のキャラにはとりあえずおかみすちー当てれば間違いはないところある気がします。

【酔っ払い:むらさ】:オリジナル配役
どこにでもいるごく普通の、不幸なサラリーマン。

 原作を考えたら、れいむと相対する立場のれんこ、、というチョイスもありましたが、原作未履修の人から見れば、見た目の共通点があんまり無くて意味がわからなくなることを懸念して断念。
 同じ黒髪でシンプルな見た目のむらさを配役しました。わかりずらかったかもしれない。。
(動画内のコメントの中で、元祖ゆっくりという案がありました。その手ありましたか……!面白い!)


 動画作成時はあまり意識していませんでしたが、男と娘のキャスティングを振り返ってみると、ゆっくり文庫様の『藪の中』『羅生門:妄想拡張版』の影響を特に受けていたような気がします。

        
武弘⇔男:女性と連れ添うが、殺される。
真砂⇔娘:男性に人生をめちゃくちゃにされる。

さいごに

 以上、『縊死体』編集後記でした。

 ゆっくりムービーメーカー、Aviutlを使った編集、動画サイトへの投稿が初めてとなった拙作ですが、想像していたより多くの方々に見ていただけて、驚いています。本当にありがとうございます!

 次回作は未定ですが、今後の方針として、短編~中編作品をメインで作成、あとは長いこと作りたいと考えているシェイクスピア作品のひとつを作成目標としています。
 途中で方針を変える可能性もありますので、温かい目で見ていただければと思います。

 改めまして、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。


Special Thanks

ゆっくり文庫様
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友人K

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