セリエA ユヴェントスvsローマ

今回はセリエAの第8節ユヴェントスとローマの対決を分析します。ビッグクラブの対戦という事もありますが、何よりアッレグリとモウリーニョという名将対決となるため5大リーグを見ても今週の屈指の好カードでした。名将に率いられた両リームはどのような試合を展開したのでしょうか。

スタメン

スタメン

こちらが両チームのスターティングメンバーです。


状況に合わせたユヴェントスの守備戦術

それでは、試合の分析です。今回はユヴェントスを中心に試合を見ていきたいと思います。特に守備での立ち振る舞いが印象的でした。

したがってまずは守備から見ていきましょう。

ハイプレスと撤退守備

サッカーにおける守備というものは、敵に得点させないことが目的です。そして、その目的を達成するにはいかに敵に思い通りに攻撃させないかがポイントとなってきます。ユヴェントスは今回前からのハイプレスとリトリートする両局面でローマを思い通りにさせませんでした。

ハイプレス

ローマがGKからビルドアップする際のユヴェントスの前からのハイプレスは図のようになっていました。これは7分のシーンです。

ユヴぇ入プレ①

442で中央を固める形を作る。

画像3

パトリシオからマンチーニにパスが出た瞬間にキエーザがマンチーニにコースカットプレスを行い、ハイプレスのスイッチが入る。ロカテッリはキエーザが見ていたクリスタンテ、ベンタンクールはヴェレトゥ、デシリオはマンチーニからパスを受けようとしたペッレグリー二、キエッリーニはデシリオが出た分フリーになるザニオーロとこのように、ユヴェントスの選手はスイッチが入ると一気にローマの選手を捕まえに行きました。これは、GKやCBからの低い位置からのビルドアップの際には徹底されていました。この442で人を捕まえに行くプレスによってローマは思うようにビルドアップが行えませんでした。

しかし、このような2CHが前に出ていくハイプレスには弱点もあります。それはライン間のスペースが広がることです。

弱点

図のようにライン間が広がってしまうと、ロングボールの回収を行う人がボール周辺にいなくなってしまいます。そのためトップのエイブラハムがボールをおさめたり、CBのクリアが中途半端になってしまうとボールを敵に回収される可能性が高まります。そして、背後には広大なスペースがあるため攻撃を完結される可能性があります。

この7分のシーンでは早速そのような現象がおきました。

ローマ

マンチーニからのロングボールをエイブラハムが外から中に入ってきたザニオーロに落とし、ザニオーロがそのまま運びゴール前でペッレグリー二に渡しシュートまでいきました。このように、ユヴェントスのハイプレスには弱点がありそれをつける攻撃方法がありました。しかし、ローマはこのような攻撃をする回数が多くありませんでした。そして、行ったとしてもボヌッチ、キエッリーニという世界屈指のDFに対応されてしまいました。ローマがもっと徹底的に狙っていたらチャンスの数はもう少し増えていたかもしれません。

またユヴェントスの守備の話ですが、ハイプレスをかけないときの2トップは基本的にローマの2CHを見ています。(下図参照)

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そして敵CB間のパスなどがされると2トップの片方が敵CBへ出てサイドへ誘導するような守備を行います。すると2トップの残りの片方はCHの対応します。CHの間に立ってサイドチェンジを妨害します。下図のシーン(35分)ではキーンがクリスタンテをマーク、ヴェレトゥにはベンタンクールがスライドしていました。このCHがタテスラをした後、SHは自分のマーカー(SB)へのパスの可能性がなくなると、CHが戻るまで少し中に絞ってCHが空けたスペースをカバーしようとします。

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このように442から4312もしくは、4321のような形を選手がスライドして瞬間的に作り出すことでローマに思い通りの前進をさせませんでした。

リトリート

続いて、ユヴェントスのリトリートについて説明します。ユヴェントスは前述した守備をしてもボールを前進させられてしまうことはありました。そのときユヴェントスはゴール前にリトリートしてブロックを構えました。

そのときの守備はユヴェントスは442以外の形でゴール前にリトリートしました。

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それは、図のように532の形でした。442の右SHであるクアドラ―ドを右WBのように下がって守備をさせ、中盤は442の左SHのベルナルデスキ、ロカテッリ、ベンタンクールを左にスライドさせ3人の中盤にしました。

クアドラードの守備時の立ち位置によって532と442を使い分けてゴール前にブロックを作っていました。そして、クアドラードの立ち位置はローマの左SBビーニャと左WGのムヒタリアンの立ち位置によって決まっていたように見えました。

クアドラード

ムヒタリアンが外から内側へ移動するとビーニャが高い位置へ上がってくる。するとクアドラードはそのままビーニャをマークするために下がり、ムヒタリアンはダニーロがマークします。また、ビーニャが低い位置にいてもムヒタリアンが内側にいてダニーロがマークに付けば、クアドラードは下がって5バックを形成していました。つまり、532はバイタルハーフを取りに来るムヒタリアン対策のためのようです。

また5バックも注目に値しますが、もう1つの注目すべき点は2トップの位置です。

2トップの守備リトリート

ユヴェントスの2トップであるキーン、キエーザはどちらもローマの2CHとほぼ同じ位置に立って2CHを中央で自由にボールを触らせないようにしていました。

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そしてローマの2CHの片方が中央からズレてボールを受けると、そこにはIHが対応していました。(図ではヴェレトゥにたいしてベンタンクール)

ボールは回していたが…

守備を見てきましたが、続いては攻撃についてです。

ユヴェントスは遅攻時442の形から図のように3142もしくは、3421へ配置を変えて攻撃を仕掛けました。

ユヴェントス考劇

この攻撃時の可変とローマの守備戦術によって数的優位なビルドアップを行い最終ラインではボールを難なく持てていました。しかし、どうしても遅攻ではローマの守備ブロックを崩す場面は少なくボールを握ってはいるものの得点が奪えませんでした。

自由にさせないローマの守備戦術

では、何がいけなかったのかを考察する前にローマの守備について見てみましょう。

ローマは442でコンパクトなTHEモウリーニョと言っていい守備ブロックを構築する守備戦術を採用していました。最終ラインでのボール回しには出ていかずボールが中盤に入ってくるとボールを奪いに行く感じでした。

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そして基本的に敵の外レーンの選手(右クアドラード・左デシリオ)には両SHが対応してSBを引き出されないようにしていました。しかし、逆にSHが下がることから5バックのようになり中盤などにスペースができていました。

ファジーゾーン

もしも外レーンの選手にSHが背中を取られ、SBが対応することになったとしても、図のようにSHとSBの距離が近いためすぐにSBが寄せ、その後SHもプレスバックを行い敵に余裕を与えませんでした。私の分析でよく使用されるSHとSBの間のスペースであるファジーゾーンがローマの守備では極めて狭くされていました。

このように、ローマはボールは持たせているもののコンパクトなブロックのためライン間やファジーゾーンにボールが入ったとしても難なく対応していました。

ユヴェントスのボールは持てるが思うように前進できないという展開は終始続きます。そのため、ユヴェントスの最終ライン選手は焦る必要なないのにじれてしまい、可能性が低いウラへのボールを出してしまったりしていました。早い時間に先制できていなかったらもっと攻撃が雑になり試合展開は変わっていたかもしれません。

ユヴェントスの最適解?

それではユヴェントスはどうすべきだったのか考察します。

まずは、先制点のシーンにあった大きなサイドチェンジを頻繁に使うべきだと思いました。前述の通りローマの守備はボールサイドに圧縮してきます。そのため逆サイドが空いてきます。そして、仮に守備対応されても外レーンの守備はSHです。今節起用されたSHのムヒタリアン・ザニオーロ途中から入ったエルシャーラウィは守備が本職の選手ではなくボールホルダーに対して適切な対応ができるかわかりません。また、SHが戻るのにも時間がかかりその焦りによっても守備がいい加減になる可能性も高まります。先制点のシーンもザニオーロがデシリオに対して距離をあけてしまい、クロスを上げられてしまいました。

しかし、この攻撃を行うのにはポジショニングが重要です。

特に逆サイドの外レーンの選手です。その選手が高い位置にいる必要があります。しかし、デシリオはボールがどこにあってもをボールを受ける際SHの手前に出てきてしまうことが多かったです。

ライン間の選手を整理

ユヴェントスは配置を整理する必要があると思います。攻撃時には31423421に可変するとしましたが、選手それぞれの立ち位置が良くありません。攻撃の際にいてほしい場所に選手がいないときがありました。ローマのようなコンパクトな守備の場合ポジショニングが悪いとすぐに敵寄せられてしまいますし、ブロックが広がったときにポジショニングが悪いとせっかくのチャンスの瞬間にパスを入れることができなくなってしまいます。

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これはクアドラードがサイドでファジーゾーンで前を向け、ビーニャを引きだしたシーンです。このときに右のバイタルハーフに誰もいません。ベンタンクールやキエーザが顔を出すときもありましたが、特に誰がここのスペースに入るという事が決まっていないように感じました。

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左サイドからの攻撃では逆に、キエーザとベルナルデスキが左のバイタルハーフにいてしまいスペースが狭くなってしまっていました。

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以上のような問題を解決するには上図の配置がいいと思います。このようにすれば、コンパクトに守られてもサイドが使え、サイドを使っていくうちに中にスペースができればそこを使うことができます。

ローマの守備はコンパクトなためこの配置にすれば、先制点の攻撃の形や 34分などにあった大きなサイドチェンジを有効に使うことができます。

ローマの改善点

それでは、ローマにはどんな改善が必要だったのでしょうか。

前述の通りローマは442のブロック守備を行っていましたが、先に失点してしまいました。そこで前半途中ムヒタリアンがサイドの高い位置を取る選手にそのままマークに付くのではなく、サイドのCBがある程度までボールを運んでくると寄せる守備をしました。その守備がローマのPK獲得につながりました。このような守備をもっと意図的にしていたら攻撃の回数は増えていたかもしれません。

攻撃ではローマはビルドアップでCHがクロースロールしたり、CBが開いて2トップの脇からボールを前進させようとはしていました。しかし、SBの位置が低すぎました。ファジーゾーンを取れていませんでした。結局SBがボールを受けても敵SHの前で受けるためプレッシャーを受けてバックパスでやり直しをさせられ、一向に局面を変えることができませんでした。また、ユヴェントスは5バックへ可変するため中にボールを入れてもすぐに寄せられてしまいました。シュートを打ってもペナルティエリア手前からのシュートのため可能性が低く、なんといってもボヌッチ・キエッリーニたちのシュートブロックはさすがでした。

試合結果

ユヴェントス( 1ー0 )ローマ

まとめ

名将対決となった今節ですが、両者の守備戦術がこの試合の結果に影響したと感じました。特にアッレグリは前線からのハイプレスをメインにリトリートしたときの守備など複数の守備の仕方を用意してきました。これは見ていて勉強になりました。モウリーニョもコンパクトな守備ブロックを形成させユヴェントスに自由な攻撃はさせていませんでした。スコアレスで折り返す、もしくは先制点を奪うことがあれば試合の結果は変わっていたかもしれません。

一方攻撃ではまだまだ改善すべき箇所があります。今後どのような攻撃の最適解を見つけるのか楽しみです。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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