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韓国現代史を綴った映画「国際市場で逢いましょう」~家族のためなら国境を越えて出稼ぎに行ったあの頃~

1.国民的韓国映画と日本ドラマの金字塔の共通点

「国際市場で逢いましょう」は、主人公が、現在から過去を回想するという手法をとりながら、庶民の視点からみた韓国現代史を描いていた映画である。と、書くと、なんかピンときた方はいらっしゃいませんか。
そうです。この映画のストーリーの発想とコンセプトは、あの日本ドラマの金字塔「おしん」と一緒なのです。

釜山の国際市場でそれなりに成功した店主であるドクスは、美味い地上げの話があるのにちっともない靡かない頑固爺さんですが、彼の半生は、まさに韓国現代史の激動そのものでした。

この映画のあらすじ
幼い頃、朝鮮戦争時の興南撤収作戦による混乱の中、父、そして末の妹と離れ離れになり、母と残された2人の兄妹と共に避難民として釜山で育ったドクス。成長したドクスは父親の代わりに家計を支えるため、西ドイツの炭鉱へ出稼ぎや、ベトナム戦争で民間技術者として働くなど、幾度となく生死の瀬戸際に立たされる。しかし、彼は家族のためにいつも笑顔で必死に激動の時代を生きていく―

映画のタイトルの「国際市場で逢いましょう」も、朝鮮戦争で離ればなれになった父と、釜山の市場の叔母の家で逢おうという約束からきています。
父や妹と離れ離れになってしまったのは自分の責任であるという負い目から、父に代わって、家長として家族を守らなければならないというドクスの強い思いを象徴しています。

この映画では、朝鮮戦争後の韓国の復興を支えたのは、外国に出稼ぎに行って、そこでどんなにつらい目にあおうとも、家族を養うために頑張った無数の庶民であったことを描いていて、それが大きな反響と感動を呼び、大ヒットとなりました。

2.豊かさと共に何かを忘れてきたような喪失感

韓国映画歴代2位の観客動員数を誇る、いわば国民的映画となったわけですが、そのテーマには、「おしん」のコンセプトと重なるものが二つあると思いました。

ひとつは、家族のために、出稼ぎに行った勤勉な主人公は、国家の経済の発展に伴い、自らもささやかな成功を手に入れるわけですが、そこで人生を振り返った時、拝金主義、経済至上主義にまみれた現代の風潮に違和感を感じてしまうところです。


ドクスは、亡き父との約束通り、家族を守る役目を立派に果たしたわけですが、それでも、国際市場から離れられない、どんなにお金を積まれても、店を手放そうとしない、それはなぜなのか。
そこが「おしん」が、裕福な資産家としての老後に満足せず、家出をして自らの心のルーツを探し回る姿と被って見えるのです。

豊かになった韓国人、同じことが日本人にも言えるわけですが、経済の復興と発展ともに忘れてしまったもの、失ってしまったものはなんなのか。
それを考えさせてくれるのです。

3.生活者である庶民から見た戦争の本当の姿

もうひとつは、庶民の視点での反戦への思いです。
いつの世も、どこの国でも、戦争に振り回されるのは庶民です。
この映画では、朝鮮戦争と、ベトナム戦争の二つの戦争が出てきますが、敵と味方という対立構造ではなく、否応なく巻き込まれていく庶民、特に子どもの視点から、戦争の不条理さと残酷さ、その傷跡を描いています。そこから、反戦というテーマが浮かび上がってくるようになっています。

主人公が、朝鮮戦争で離ればなれになった家族を探すために、テレビ番組に出演するシーンは、思わず、日本でも中国残留孤児の親族を探していた番組があったことを思い出しました。
この映画は、全編を通して、泣き所満載なのですが、特にこのシーンでは、さすが国民的俳優のファンジョンミン、圧巻の演技でした。

4.かつて自分たちもそうであった貧しい国の人たちへの思い

今や、観光地となった釜山の国際市場の賑わいの中で、ドクスは、カフェでコーヒーを飲んでいる外国人カップルに、イチャモンを付けている高校生グループを目にします。高校生たちは、「出稼ぎに来てるくせに、コーヒーなんか飲んで」とか「どうせ貧しい国から出稼ぎに来てんだ」とか言って、外国人カップルを侮辱しますが、それを見てドクスは、自分が昔、ドイツの炭鉱に行っていたことを思い出し、思わず、「コーヒーくらい飲んで何が悪いんだ」と食って掛かるのでした。

このシーンでは、かつて自分たちの国も貧しかったのに、それを知らない若者が、優位にたって粋がる様子に我慢が出来なかったドクスの心情がよくあらわされていました。

わたしは、このシーンがとても心に突き刺さりました。なぜなら、日本でも同じことが起こっているからです。格差と貧困が問題となっていても、日本の若者は、家族を養うために、出稼ぎに行くという状況にはないわけですが、同年代の若者が、どうして、アジアから出稼ぎに来ているのかという想像力も働かせず、外国人へのヘイトを平気でSNSに書き込む人たちのなんと多いことでしょうか。

国が豊かになると、貧しい状況にある人たちを思いやるより、優越感でねじ伏せようとする愚かさ、しかし、それではいけないという思いを伝えたいというこの映画の制作陣の意図が痛いほど伝わってきました。

韓国と日本、この良くも悪くも歴史的につながりの深い隣国でありますが、この映画を見ていると、庶民がたどってきた現代史には、共通な思いも多いことが改めて感じられました。
だからこそ、意図したわけではないと思いますが、ストーリーの発想とコンセプトが同じような映像作品が生まれ、どちらも大ヒットとなったのではないかと思った次第です。


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